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メーテオールの悲哀

 宮殿内の大広間は本計画の作戦本部として使われていた。

 12神と8魔王の待機所でもあり、彼らはアデス各地に散らばる各担当からの状況報告を受け、それに対する検討・指示を行っている。

 魔界勢は今現在、現地での対応に追われており、この場にいるのはシラン一人のみだ。

 三界の選抜委員、数十名が各地からの報告の対処に慌ただしく追われる中、彼の顔色は優れなかった。

 来たるべきミカドとの再戦。

 もう一度、彼奴と闘うことになるのは明白だが、シランとしてはリベンジに燃える、という気概は無かった。

「浮かぬ顔でござるな、冥府王殿?」

「プーグナさん……」

 シランに、戦いの最上級神プーグナが話しかけてきた。

 見た目に30代後半程度の男性神で、戦いを司り、天界の防衛を担当する天防省大臣である。の、割りには中肉中背で半ばニヤけた、剣を振るわせれば天界一と言われるほどの剣豪と言われると、鵜呑みにするには些か躊躇する風貌ではある。

「魔界の武闘派としては、ブレーダー殿と並ぶ実力の貴殿が何をそう沈まれておられるのかな?」

 シランは困り眉毛になった。

「……よくそんな風に言われますけど、僕が強いって言うのは封印された太陽魔法が使えたら、の話ですよ。それが使えない今の僕なんか……」

「そうは言われましても、猊下や大魔王陛下と同等と言われるミカドと唯一、剣を交えた方ですからなぁ。此度の戦でも期待させていただいておりますぞ?」

「とても敵いませんでしたよ……おまけに猊下のお手まで煩わせてしまって」

「しかし、そのおかげで師団の撤退は成功しましたぞ? 冥府王殿の活躍が無ければ師団は全滅していたやもしれませぬ。直接支援隊として派遣された我が天界軍一個大隊はそれで難を逃れました。大変感謝しておりますぞ。戦死なされた魔界軍400余名の英霊には深い哀悼の意を……」

 弔意を述べながらプーグナは、胸に手を当て頭を下げた。シランもそれに応え、頭を下げる。

「いま魔界と人間界で起こっている魔獣の共喰い、やはりミカドの仕業なのでござろうなぁ」

 低頭から直ったプーグナが些か小さな声で聞いた。

「……本来は魔界、人間界の軍がミカド新生のための贄にするはずだったのをミカド自らやっているのでしょうね。死体の風化が殊の外早く、骨まで塵になっているとの事」

「さらに魔素を凝縮吸収する気でござろうか?」

 その件についてシランも引っ掛りがあった。

 不覚を取った先の戦い、あの状態のミカドが完全体であったとは思えない。

 ミカドが一足早くサワダを依り代として新生だけはしたが、ミカドもサワダもまだ不完全体だったはず。言ってしまえば未熟児と例えることも出来るかもしれない。

 にも関わらずシランは歯が立たなかった。

 更にあれは、ミカドにとってまさに小手調べに過ぎない。

 本来、メーテオールやライラと同等の魔素許容量を持つはずのミカドだが、それと肩を並べるサワダの分も吸収しているのだろうか? 一部の予想通り、メーテオール猊下や大魔王陛下よりも高い魔力を持つに至るのだろうか? しかし……シランの感じる一番の引っ掛り……

 ――それ以上の、魔素の超々高濃度凝縮……そんなことをしたら……

「いま、このエスエリア王都に殺到している魔獣だけは共喰いをしていない。もっとも軍と衝突すれば軍の弱体化と魔素の獲得の一石二鳥」

「エスエリア周辺の魔獣は全てこちらに集結している様子でござる。今は外壁で何とか抑えており申すが……それだけの魔獣をミカドが操っているとしたら、それだけでも大した能力でござるな」

「8魔王や12神、それに異世界四天王がぶつかり合ったら……」

「そのために猊下や大魔王陛下が控えてなさる……ミカドが王都内に侵入した瞬間……」

 ピーン! シランに念話が届いた。

(シランさま? ラーでございます。そちらには何か進展はございましたか?)

 念話はラーからであった。

「おつかれさまです、ラーさま。こちらも前回の報告からあまり進展はありません。外壁はまだ突破されておりません。空を飛ぶ鳥魔獣の類が仕掛けたり、他の魔獣を運んだりするとか、王都内でも一部戦闘が始まっていますが、数は大したことは無さそうです」

(こちらは目立った魔獣がかなり朽ちてしまいました。大物を中心に残存しているようですがこちらは国防軍に任せ、8魔王はそちらに集結することと致します。本部によろしくご報告を)

「了解です。一旦、宮殿の大広間においで下さいますよう」

 どうやら魔界の変動は収まったようだ。

「いよいよ、駒が揃ってきたでござるな」

「12神の方々には魔法陣を押さえて頂き、いつでも起動できる準備を」

「8魔王の方々だけに矢面に立って頂くは心苦しくござるが、天体の力を借りず起動させ、しかも任意の場所に移動するには我ら12神の全力が必要でござる」

「わかっております。後は四天王次第……」

「ことに、クロダ卿でござるな?」

 プーグナの問いに、ゆっくり頷くシラン。その顔色には影が落ちていた。

 シランは海での水難救助訓練や、ラー主催のパーティで彼ら異世界人と楽しく過ごしたことが、今になって重荷になるとは思いもよらない事であった。



 

 民間人は、ほぼ他国、他地域に避難し、王宮敷地外にいるエスエリア臣民は委員会メンバー等、一部例外を除きアル・アーカンソー防衛大臣率いる王都防衛軍や魔導戦闘団だけであった。

 アーカンソーは省舎二階に設置された王都軍作戦司令部のバルコニーから、小競り合いの始まった王都を眺めていた。

「東の空が白み始めましたね」

 本作戦のため、一時的にアーカンソーの指揮下に入った魔導団副司令ドーザ少将が語りかけてきた。

「魔界や我が国を除いた人間界の各国近辺で始まった共喰いが落ち着いたそうです。委員会はこれを、ミカドによる魔素吸収のための仕業と見ているようですな」

「やはりミカドの襲来は夜明けと同時であろうか?」

「定石ではそうなりますが……彼奴や天界12神、8魔王との闘いともなればそのような戦術など通用するものなのでしょうかな?」

「どうであろうな? まあ、いずれにせよ我々は、委員会本部のある宮殿敷地内に魔獣が侵入しないようにと討伐するのが主任務となる。と、言うか、魔獣相手に戦うくらいしか我らに出来る事は無いがな」

 上級大将の言葉を聞き、ドーザ副司令は力なく頷いた。

「貴官も貧乏くじであったな。王都防衛と言えば聞こえはいいが、所詮は神々や魔王方の露払いだ。本来なら魔導団司令のヘンゲル大将がここにいるべきであったが」

「本来……と仰るなら大臣こそ国王陛下のそばにあり、この場は第一師団長フォルデン大将にお任せすべきところでは?」

「国王不在時は、防衛大臣が名代として国政を仕切るのが、我がエスリア王国の習わしだ。私が残るのは当然であろう?」

「陛下はシュナイザー帝国にてご健在ですぞ?」

「だから陛下のそばには国防省次席のヘンゲルが必要なのだ。それ故、貴官が前線に出なければならなくなった」

「ふふふ、戦場で采配を振るうは将の誉ではございませぬか。やはり貧乏くじなどと、とんでもない事でございますぞ? その実、本当は大臣もその口では?」

「貴官も意地が悪いな」

 そのアーカンソーの言葉で二人は豪快に笑った。

 軍人といえど将官ともなれば政治と無縁ではいられないが、武人としてはその辺りが窮屈に感じる事も多々あるものである。

 だが神々らの露払いとは言え、今は単なる武人として思いっきり振る舞えるのだ。

 元々の性分なのだろうか? 二人は極めて意気揚々に構えている。

「鳥魔獣の迎撃も殊の外、順調のようだな。魔導団の遠隔攻撃は、こういう時は実にありがたい。弓や投擲だけでは効率が悪い」

「魔界から応援の飛行隊も参加して頂いてますし。しかし外壁や門が破られますと厄介です。市内では戦力の一極投入がやりにくいですからな」

「流れ込んでくれば、兵の損耗も今までと同様とは、行かんな……」

「天界軍も支援して下さるそうですが、ミカドとの闘いが始まればそちらの方へ向かわれるでしょうし」

「うむ……お、時に例の異世界人はどうしておるかな? 委員会の意向に異を唱えて計画から外されたと聞いたが……」

「委員会の意思は尊重する……ということで今は自由の身のはずです」

「貴官はどう見る? 連中の事」

「故国に帰るまではエスエリアに忠誠を誓う……クロダ少佐がそう言った時は頼もしく思いましたが……委員会がミカドを封じる武器として魔法陣を使う気である以上、彼らが敵として立ち塞がる可能性は捨てきれません」

「彼らの戦力は今や魔王方にヒケを取らん……味方となれば心強いが……彼らとしてはアデスに裏切られたも同然、我らのために骨を折ってくれというのも蟲が良すぎるか……」

「それでも……」

「うん?」

「なぜでしょうかね? それでも彼らは……アデスを想ってくれているような気がするんですよ……」

「そんな素振りがあったのかな?」

「いえ。息子が二人いる、と言った時のクロダ少佐の眼が……なぜだか忘れられませんでして……」

「……そうか、ね」

 いささかロマンに過ぎる……アーカンソーはそうも思ったが、なぜだか自分も、そう信じたくなっていた。

 召喚間もなく、検査のために防衛省を訪れた時の彼らに対する印象は、すこぶる良好であった。

 その後の功績も申し分なく、何より彼らは、アデスのために働けることを喜んでいたと、どの報告にも挙がっていたのだ。

 だが、それだけでは情に頼った見解に過ぎない。

 焼きが回ったか、アーカンソーは自嘲気味な笑みを浮かべ、夜明け前の白んだ空を見た。

「!」

 アーカンソーの目が見開かれた。

 空に無数の光点が現れた。同時にドーザの表情も一気に険しくなる。

 数は100? 150? いや200以上か?

 彼らはつい最近、似たような光を見た。そう、12神のうち数人が宮殿に現れた時の光にそっくりだ。

 だが、今回の光点は神族ではない。禍々しい野獣のようなシルエット。当然、彼らはその影を過去に見たことがある。それも何度も。

「魔獣だ! 魔獣の襲撃だ!」

 アーカンソーより早く、ドーザが司令部に声を上げた。司令部内の兵たちの目が一斉に屋外へと集中した。

「王都内展開中の全隊に通達! 転移魔法により魔獣が王都内に侵入! 市内防衛軍は直ちに出撃! 討伐せよ!」

 了解! 司令部内の兵士たちが慌ただしく動き出した。

 アーカンソーとドーザは遠眼鏡を引っ張り出し、出没した魔獣の種別を確認した。

「オークに狂黒熊……手強い大物ばかりだ」

「しかし、あやつらに転移など高度な魔法が使えるはずがありません! これはおそらく!」

「うむ。来るぞ! ミカドが!」

 二人は司令部の念話士に命じて、委員会の作戦本部に現状況を報告させた。


                ♦


「来るわね……」

「ええ、ついに……」

 宮殿内の国王の居室で待機していたライラとメーテオールは、ミカドの襲来を感じていた。

「まずは8魔王方が相手を……?」

「12神は魔法陣起動待機だからそうなるわね」

「いきなり決戦、ですね」

「ミカドもそう思っているでしょ。あいつはこの戦いで8魔王と12神をまとめて撃退するつもりだわ。そうすれば天界も魔界も人間界から撤退せざるを得ないと踏んでるのでしょうね。でも、ここまで三界が結びついている現状では、すんなり手を切るはずも無し。戦力を立て直した後、三界間での様々な戦乱の時代が来るわ」

「ミカドが人間界を取り戻す……そうなればアデスの安寧は遠くなりますね。皮肉な話です」

「相手はあたしたち以上の魔力を持っていると考えていいわね。出し惜しみは無し、一般の軍を用いて戦力の逐次投入なんて死体の数を増やすだけ。結界の問題が無ければあたしが出るべきところよ」

「魔法陣を移動させれば王都にも迷惑は掛からないのですが……」

「今のミカド最大の目標はその魔法陣だからね。エスエリアには申し訳ないけど外壁が必要なのよね」

「かなりの被害が出るでしょう。心が痛みます」

「……本気でそう思ってる?」

「何のことです?」

「あなたが指示した事とは思っちゃいないけど、天界とエスエリアは取引してるでしょ?」

「ですから何の……」

 一瞬、メルの目が泳いだ。ライラは当然、それを見逃しはしない。

「エスエリアを戦場にする代わり、リョウくんや隊長さんが持ってる、アデスより数百年進歩した異世界の科学知識とかの独占を密約したんじゃないの?」

「…………」

「それくらいの代償が無ければ自分の国、それも象徴たる王都が蹂躙される事をこれほどすんなり見過ごせるなんて、そんなはずが無いわ。エスエリアを人間界の盟主として認め、天界がその後ろ盾になる。そんなところかしら?」

 メルはライラから目を逸らした。どうやらライラの考察は、当たらずとも遠からじ、くらいには突っ込めたようだ。

「おかしいと思ったのよ。いくら異世界の知識だからって、一地方の関係した人も範囲も限定されたフンジンバクハツ程度で時の流れが乱れるなんてね。それに引き換え、今のアデスは当初のシナリオからこれほど状況が変わってきたと言うのに、時の流れが全く乱れない、そんなことってある?」

「…………」

「答えは至って簡単。テクニアの件で乱れた時の流れ……あれは意図的に乱されたのよね」

「!」

 ライラの顔を見るメル。だが、その眼はさらに泳ぎまくった。

「あの乱れを起こしたのは……あなたね、メル?」

「あ、ああ……」

「最悪、魔法陣によるミカド追放をバックアッププランとして策定するのは当初から織り込み済みだったよね? そこでホーラちゃんに監視するように仕向けて異世界知識の拡散を抑制しつつ、逆にエスエリアを本計画の舞台として差出させる材料として彼らの知識を利用したってわけよね? 復興の全面支援と、その後の、他の国より抜きんでた技術立国となることを保証して」

「…………」

「あんたにはこんな腹芸出来るとは思えないから、黒幕はディーテ辺りかしら? 直情的なホーラちゃんに出来る芸当じゃないもんね」

「……最悪の場合、異世界の皆さんはアデスに永住して頂くことになってしまいます。功績者であり被害者でもある彼らの業績に報い、出来る限りの処遇をお願いして、その代わり多少の恩恵を……そうは考えてくれないのかしら?」

「結局は売ったんでしょ! リョウくんたちを!」

「違います!」

 メーテオールは声を張り上げた。その声を聞き、ライラもちょっと怯んでしまった。

 自分とは違い、メルが話し合いで大声を出すなど非常に珍しい事だ。

 趣味のお茶に関して以外、彼女が感情的になることなど、そうは無い。

「違います……私は……出来る限り……彼らを……でも……」

「……ごめん、言い過ぎた……」

「私は……彼らを好きにしていいとは認めてはいません……」

「ごめん、ホントに、ごめん……ミカドの件もそうだし、あんたも辛い立場よね……」

「私が……彼らに、引導を渡さねばなりません……彼らは……特にクロダさんは私を絶対に許さないでしょう」

 メルは今にも泣き出しそうであった。

 ライラとしても良二や誠一らの怒りや恨みを買ってでも、アデスを守らなければならないのはメルと同じである。

「そうね……その時は……あたしも一緒に謝ってあげるわよ」

 ライラはそう言いながら立ち上がるとメルに歩み寄り、一人涙ぐむ彼女の顔を胸に抱きしめた。

 ――あたしにはリョウくんがいる。でもメルには……

 ラーも自分に対して、こんな思いをしながら気にかけていてくれたのだろうか? ライラはふと、そんな考えが頭をよぎった。


 ヴォーン ブォーン ブォォーン……


 宮殿が震えはじめた様だ。

「始まりました……ね?」

「そうね、ミカドだわ。操った魔獣を先行させてるみたいね……メル?」

「大丈夫です。いよいよですね……」

「うん……じゃあ手筈通りに行くとしようか?」

「ええ、彼女が宮殿敷地内に現れたら二人で結界を張りましょう。8魔王にはその中で戦っていただくことになります」

「わかったわ、行きましょう」

 ライラとメーテオールは手を携え、朝日の光が届き始めたバルコニーへと向かった。

 ライラは、ふとメルの顔をうかがった。

 珍しく感情を表に出した彼女の表情はいつもの大神帝のそれに戻っており、ライラは安堵と感嘆の想いを胸に感じながら自身の気も更に引き締めた。


                ♦


 良二たち遊撃隊はシルヴィの手引きによって、一旦、宮殿敷地内の端にある近衛団宿舎に身を寄せていた。ここなら市内であっても宮殿であっても、すぐに赴くことが出来るというのが理由であった。

 近衛団は二個小隊が残留していた。

 残留理由は委員会の人間界委員長として王都の邸宅に留まっているフィリアの護衛であり、今現在も一個小隊がフィリア邸に赴いている。

 シルヴィの分隊は、今は控えになっており、その彼女らの支援のため、ロッタ工房の選抜された職人が武器や防具のメンテナンスを行っていた。

「これが噂の、クロダ少佐考案の爆裂錫杖か~。筒っぽに取っ手つけただけに見えるけどなぁ。これで狼牙が一撃で倒せるなんてな~」

 シルヴィが誠一の考案した魔法銃をしげしげ眺めたり、構えたりしてアレジンに話しかけた。

「わしも図面と説明書を見た時は半信半疑じゃったんだがのう。じゃが、あの御仁が言う事だし、物は試しと試作したらまあ、おったまげたわ」

「マツモト中尉が特殊な錫杖でメチャ破壊力のある火球魔法を駆使して、魔獣を狩りまくってるってのは聞いてたけどねぇ。火属性の特性が高い中尉ならではの技だと思ってたけど、これで本当に中尉並みの技が出せるのかい?」

「フィリア殿下のメイド隊や冒険者ギルドのトロイマンも太鼓判押しとるぞ? 彼らには秘密裡に討伐仕事とかで試験運用してもらってたんだが、すこぶる評判がよくてな」

「しかしこっちの、弾筒だっけ? これが無くなったら、ただの鉄棒じゃ無いのか?」

 アレジンは、シルヴィの疑問にニヤッと笑みを浮かべて応えると短剣を取り出し、魔法銃の先端に取り付けて見せた。現代銃の着剣と同じ構想である。

「その時は、この短剣を先端に取り付けられるようになっとるから、短いが槍として使うことも出来るようになっとる。肩当ての床尾に重量があるから、こちらでど突くこともできるぞい」

 そう言いながらアレジンは床尾で打突を加える動きをやって見せた。

「ふ~ん、戦い方がまるで変っちまうなぁ」

「わしはこれがやがて軍の標準装備になると踏んどる。今のうちに慣れておいて損は無いと思うぞ?」

「いま、外壁では魔獣どもと小競り合いになってるんだろ? これ使わないのか?」

「ああ、防衛軍の連中、頭が固くてな。今の装備で行くと言って無視しおっての。まあ、ここ一番の戦いじゃから、慣れた武器がええっちゅうのもわかるがのう。せめて手投げの爆裂筒くらい持ってけと言ったんじゃが」

「爆裂筒?」

 また新兵器かよ? どれだけ引き出し深いんだあのおっさん? 

 などと、あきれ顔になり始めたシルヴィ。とは思いながらも興味津々。名前からしても何か強そう。

 見せて見せて! とシルヴィがねだり始めたところに、

コツ、コツ、コツ……

「ん?」

本隊舎内で待機中だった誠一がアレジンを訪ねてきた。

「あ、少佐殿! お疲れ様であります!」

 誠一に敬礼するシルヴィ。

 よ、お疲れ! と答礼した誠一はアレジンに話しかけた。

「随分作ったもんだな、おい?」

 半ば呆れた笑いを浮かべる誠一。アレジンは、それに応える様にニンマリした表情を誠一に返した。

「いや~、この手の物は作っとってワクワクするのう。いろいろ思い付きでバリエーションを作りたくなって仕方ないわ」

「作りたくなってって……もう作ってるじゃねぇか。なんだ、あの大筒? 口径30mmくらい無いか? まるで大砲だ」

 火縄銃でも口径が4cm、5cmくらいの大筒があることは誠一も知っていた。この辺りだと銃というより砲に近いものだ。

 更にこの魔法銃は誠一の知識が採用され、弾頭の形状は流線形であり、銃身内は不完全ながら腔線(ライフリング)まで施されてしまっている。

 それらは誠一が参考案としておまけ程度に書いておいたのだが、ロッタ工房の職人ドワーフどもはそれを実現してしまったのだ。

 後装填式だからミニエー銃のような工程を経ずして実現出来たようなものだが、この口径と火力では対戦車ライフル・アンチマテリアルライフル級の運用も可能であり、そりゃ狂黒熊や牛頭鬼はおろかオークの様な大物でも一撃だろうと誠一は肩を竦めた。

「トロイマンがよぉ、俺に抱えられるギリギリで作ってくれとか言いよってなぁ。あれなら魔界の大オークでも仕留められるぞ?」

「爆裂筒も……目的に合わせて大きさ揃えるのもいいけどよ、酒樽みたいなサイズまであるじゃねぇか。砦でもふっ飛ばす気か?」

「酒樽みたいな、じゃのうて酒樽まんま使ったんじゃ。おまけに中には、しこたま鉄球を詰め込んである。魔獣の群れのど真ん中で爆ぜさせりゃ効果バツグンよ!」

「なんだよ? 樽の中に爆裂魔法か何か閉じ込めたのかい? そんなことできるの?」

 シルヴィは目をぱちくりさせていた。

「魔法は必ずしも必要ない。この導火線に火がつけられりゃ、それで爆ぜさせることが出来るんじゃ。極端な事言えば、女子供でも魔獣を木っ端みじんに出来るぞ?」

 アレジンは楽しそうに、それはもう楽しそうにシルヴィに説明を続けた。ホント楽しそう。

「その分、取り扱いには十分気を付けないといけなくなる。事故を起こせば自分だけじゃない、周りにいる者たちも巻き添えにしちまうからな」

「なるほど、文字通り諸刃の剣ですね。実戦に使う前に十分訓練したかったなぁ」

 しかし今後の影響も考えると、ここまで実現化されてしまったことに誠一はちょっと不安にもなった。

「あ~、まあ頼もしい限りだけどよ~。後でホーラに何言われるか」

「ひっひっひ、まあ、その辺はあんたにお任せするわい。おっと、頼まれていたもん、作っといたぞ?」

「おお、あれも出来てたか!」

 そう言うと誠一はアレジンが差し出した製品を受けとった。以前観た、とある映画を参考に図面を引き、特急で頼んでおいたものだ。

 早速いろいろ弄って、思った通りに動くか確かめてみる誠一。

 ――シャコーン……シャキン!

 期待通りの動きをする小道具。誠一、思わずニンマリ。

「相変わらずいい仕事してくれるな、おやっさん。いや~、一度これ使ってみたかったんだよな~。大満足だ」

「そうか、喜んでもらえりゃこっちも嬉しいわ。しかし、使えるのは一回こっきりだぞ? わかっとるな?」

「一回で十分よ!」

 誠一はご満悦であった。

 と、そこへ、

「伝令! クロダ少佐、分隊長! 王都内において転移魔法による魔獣の襲撃が始まりました!」

残留近衛団の一人が息を切らせて飛び込んできた。シルヴィ、アレジンの顔に緊張が走る。

 誠一、シルヴィは隊舎2階の仮説本部に向かった。アレジンも状況掌握のため、部下に後の指示を与えてから、彼らに続いた。

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