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静かな街

閲覧して頂いてる皆さま、毎度ありがとうございます。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

さて、本編はこの回から最終章に入ります。

今しばらく、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。

 エスエリアの城下町から人が消えた。

 休日の昼下がり、本来なら多くの露店が立ち並び、人がごった返すこのフードコートもまるでゴーストタウンである。

 映画やドラマだと風がピューっと吹き、紙くずを舞い上がらせてそれらしく見えたりするのだが、その風すらも吹いてない。 

「人のいない街って、寒いのよね」

 オープンカフェのテーブルに座っているカリンが誰にともなく呟いた。

「家も住まないと朽ちるのが早いって言うし、こういうのを見ると、街も生きているって感じ、するよね」

 同じく座っている良二が答える。急いでいたのか単に面倒くさいのか、この店は椅子もテーブルもそのままであった。

「でもこの店みたいにテーブルとかほったらかしってどうだろ? こういう時に荒稼ぎしようって盗賊とか居そうだけど……事態が事態だし、そこまでのバカは居ないか?」

 まあ、さすがにミカド新生計画による全臣民避難命令下でコソ泥、しかも家具・調度品をパクろうなんて効率の悪い事を考える奴もそうはいないのであろう。

 一攫千金を狙い、金品宝石を漁る輩も、もしかしたらいるのかもしれない。

 だが今現在、王都内にいるのは選抜された国防軍に近衛団、国の要請を受けた信用の有る冒険者組合員くらいであり、計画進行中の窃盗等、犯罪行為に至った者は前述の軍人らによって、裁判抜きで処罰することが許されている。

「そういうバカっているのよ、意外と。終わったあとに、軍部の報告を見ればわかると思うけどね」

「裁量は現場に任されてるって言うし、銅貨一枚盗んでも打ち首なんて?」

「そんで、罪名と処刑法書いて晒しておくのよ。そう言う連中は口で言ったって分かんないし、分かろうともしないし」

 冗談のつもりで言ったのにマジだったのかよ……

「でも、ここではやめて欲しいわ」

「ん?」

「あなたと初めて会った場所よ、ここ」

「……やっぱり覚えてた?」

「ふふ、忘れられるわけ、ないでしょ?」

 そう言いながら、いたずらっぽく微笑むカリン。

 もちろん、良二としても忘れられるはずもない。

 ここでライラとお互いを口説き合っていた時、それはそれは絵に描いたようなお邪魔虫的登場をしたカリン。

 この、こまっしゃくれた小娘が! と思っていたあの時は、まさかこれほど守りたいと思う、かけがえのない大事な女性の一人になるとは正に御釈迦様でも気が付くめぇ、であった。

「対ミカド戦……これが最後の戦いになるのかしら」

 人っ子一人いない、シンと静まりかえった街並みを眺めながらカリンが聞く。

「俺たちが召喚された目的は、この戦いのため……なんだろうな」

「でも、話がだいぶ違ってきたわよね?」

「全くだな。最初は召喚に巻き込まれた異物だと思っていたのに、いつの間にかアデスのために戦う四天王なんて呼ばれるようになってしまってなぁ」

「どうせだから召喚理由も変えちゃいたいところね」

「召喚理由を変える? どう変えるんだ?」

「あなたは私と出会うために召喚されたのよ! そのためにアデスの創造主に呼ばれたんだわ!」

 あ、ああ……うん、お花畑……

「え? ああ、だ、だといいよね」

「何よ、その気の無い返事はぁ~」

 カリンが唇を尖らせながら席を立ち、良二の膝の上に乗ってきた。

「ちょ! カリン!」

 思いっきり小柄なだけに、乗っかられても重いとか、身動き取れないとかは無いが、近い! 顔が近い! てか、ここ街のど真ん中!

「こら、しがみ付くな! おい、カリン。いくら人が居ないからってゼロじゃないんだ、ぞ? ……カリン?」

「…………」

 震えてる? 

「カリン、どうした?」

「なんか……こわいな……」

「カリン?」

「リョウジは怖くない? 今までの戦いとは違うのよ? 何が起こるか分からないのよ?」

「ん、そりゃまあ、ライラやメルさんクラスの相手と闘うわけだし……」

「そうじゃなくてさ……」

「カリン……」

「私は、ミカドが魔法陣を壊したいなら壊せばいいと思ってる。その時は私が何としてもあなたの居場所をアデスに作る。少佐がみんなでチキュウに戻りたいと言うなら……リョウジも戻るなら私もついて行くわ。でも、あなたを失うような事になったら!」

「…………俺が?」

「あなたはライラが破裂するかもと言われて取り乱したわ。ライラが何度もただの例え話だと言ってもね。でも、それは私も人事じゃない。あなたはライラに次ぐ、12神並みに魔素を身体に秘めているのよ? もしもあなたが……万一、万が一にもそんな事になったら……」

 良二は以前、ライラが破裂すると言う仮説を聞いて言いようのない不安と恐怖に陥ったことを思い出した。

 何を言われようと、どう解釈を変えようと拭うことのできなかったあの、得も言われない、身体と頭の中に纏わりつくような恐怖感。

 今、カリンはあの時の自分と同じ心持ちになっているのだろうか?

「カリン……俺もお前のそばを離れたりしないよ?」

「…………リョウジ?」

「俺が見たいのはお前の泣き顔じゃない。俺が守りたいのはお前の笑ってる顔だからさ」

「リョウジぃ……」

「カリンらしくないなぁ。いつもの太々しいくらいの態度で待ち構えりゃいいじゃないか?」

「ふ、太々しいって何よ! せめて堂々としてるって……それくらいの言葉は選びなさいよぉ」

 ポッと頬を赤らめるカリン。うん、やはりデレるカリンも捨てがたい。

 とは言え、カリンに言われてみて振り返ると、自分も不思議に思わざるを得ないところはある。

 カリンに「怖くないの?」と聞かれて、そういやあまり構えていない自分にちょっと驚いてはいた。

 今にアデスの最高位たるミカドとの戦闘に参戦しようって言うのに、あまり緊張していない。

 恐怖感で言えば、初陣の時にユズ一味の人買いヤクザと対峙した時の方が、今よりずっとビビっていたと思う。

 三界を統べるライラ・メル級の奴と刃を交える事より、チンピラ相手の方がビビっていたのである。

 まあ、ヤクザの時は全くの戦闘未体験だったから比較する方がアレなのだが……

 ――自信は後からついてくる――

 召喚初期の頃、誠一にもらったアドバイス。

 つまりこう言う事なんだろうなぁ……良二はしみじみ思った。

 負けたらどうしよう。死んだらどうしよう。そんなことはほとんど考えていない。

 いや、少しは考えてはいるだろうが、それよりも、

 ――○○な攻撃を受けたらどう流すか?

 ――沢田くんからミカドを引き出すにはどう言う方法があるか?

 ――仲間が負傷したら援護しつつ、どう攻撃をするか?

 怖いとか逃げたいとか考える暇もなく、そんなことばかりに頭を巡らせている自分、変われば変わるもんである。

 そういやライラが大魔王だって知った辺りからこんなんだったかな? あの時もライラと別れると言う選択は全く思い浮かばず、どうすれば付き合い続けられるか、それ以外は何も考えていなかった……意外と性分なのか?

「リョウジ?」

 カリンがキョトンとした眼で見詰めている。

「あ、ああ。守りたいな。お前も、お前と初めて会ったこの場所も」

 良二のその言葉に、カリンの顔に満面の笑顔が浮かんだ。

 そう、守りたいこの笑顔、そのものだ。

「リョウジ……」

 カリンは目を閉じ、良二にキスしてきた。

 良二も力強くカリンを抱きしめた。

 お互いがお互いの温もりを感じ合い、熱く激しく頬ずりをした。すると、

 ガンッ! カーンッ!

頭にいきなりの激痛! 二人の目から星が飛び出した。

「「いってええぇぇ~!」」

 痛む頭に手を当てると、それは見事なたんこぶが出来上がっていた。

「何、バカやってんのよ!」

「容子!」

 良二たちは、いつのまにやら容子とメアの巡回ペアの接近を許していた。さっきの痛みは容子に錫杖でど突かれた痛みであった。

「いきなり何すんのよ!」

 激しく抗議のカリン殿下。しかし、

「王都内巡回中にこんなとこでサボって、あたしたちが近寄ってるのに誰何(すいか)するどころか間合いに入られるまで気が付かないとか、弛んでるにもほどがあるじゃないのよ! おまけに所かまわずイチャラブ! このまま続けさせてたら青姦おっ始めかねないから止めるしかないでしょ!」

 あ、青姦て! いくらなんでもそんな趣味ないわい!

「そ、そんなわけないだろ! 2時間上番してたから、ちょっと休憩してたんだよ!」

「休憩? ()()()じゃないんすか?」

 メア! 誰が上手い事言えと! 

「とにかく、王都内巡回は警衛隊に申し送って、一旦、本部に戻るわよ」


                ♦


 王都内巡回任務を終えた美月とシーナは、良二たちより早く遊撃隊本部に戻っていた。

「主様、城下東ブロックの巡回、終わりました。服務中異常なしです」

「ご苦労さん、今お茶入れるからゆっくりしてくれ」

「あ、私がやりますよ。主様こそ……」

「お二人ともごゆっくり、私の仕事を奪わないでくださいねっ」

 フィリアのエルフ戦闘メイド、シオンがにっこり微笑みながらお茶の支度を始めた。

 今では、ほぼ遊撃隊の一員となったメアやシーナの代わりに、フィリアの配慮で、雑役として一時出向しているのだ。

「先輩にそんな事……」

「なに言ってるの? 今じゃ、あなたやメアの方が私たちより実力は上じゃない」

「まあ、お言葉に甘えようじゃないか。ところでシーナ、街の雰囲気と言うか、気の流れの様なものに異常はなかったか?」

 気の流れ――シーナら狐族は地磁気等の流れを感じ取る特性が強い。その能力でミカドの接近、若しくはそれに伴う気の動き・乱れが無かったか判別できればと思われた。

「はい、気をつけてはいたのですが、人が居なくなった影響以外には、これといって……鼠ほどの小魔獣は下水辺りに感じますが、むしろ以前より減っているようで」

「そうか。ミカドが近づいてくれば、その辺りが騒ぎ出すかと思ったが」

「史郎くん、本当にここに来るのかなぁ」

 美月が力なく、零すように言った。

 良二や誠一、容子と一丸となって史郎を取り戻すことに決意を新たにしたものの、出現が予測不能、若しくは困難な状況になってしまった現状では腰の落ち着かない、不快な騒めきが拭えない。

「本来は一斉に大規模な魔獣討伐を行い、魔素を集めて沢田くんに凝縮するはずだったからなぁ。今の彼がここに来る目的は、委員会側の切り札である魔法陣の処理。加えて人間界を掌握するために各国の王都、帝都の制圧だろう」

「来るなら作戦発動前の混乱時を狙えばよいものを彼奴は何故、この機に乗じなかったのであろうな? 単に準備不足であったか?」

 委員長権限を凍結され、ミカド戦が始まるまで事実上お払い箱にされたホーラも本部に顔を出していた。

 天界でも仕事は有るのだろうが、オクロやパウウらに丸投げして誠一のもとに入りびだっている。宰相ディーテや周辺の一部相手に、へそを曲げているとアピールしたいのかもしれない。

「ミカドは破壊魔法系はどれほど使えるものなのかな? シランくんの例もあるし、一撃でエスエリア王都を消滅させるような力は持っているのかな?」

「無いとは言い切れまい。しかし彼奴の目的が人間界の奪取にあるなら人間を敵に回すような行為は最低限に抑えるのではないか?」

「魔法陣さえ破壊してしまえば目的は達する。そのためにエスエリア王都だけは不本意ながら消滅させる、とかはないか?」

「貴公らの召喚が終わって以降、魔法陣は結界によって守られている。現在はそれがより強化され、たとえ王都が灰燼に帰すような攻撃を受けても魔法陣だけは無傷だ。都市を丸ごと葬る様な大技を出すのは意味が無いと言えるな」

「つまり、それをやるには……」

「結界を護る12神、8魔王を倒すしかない。最後はシランとの闘いがそうであったように接近戦による決着となろう」

「そう、か……じゃあ俺、寝て待ってるからミカドが来たら起こしてくれ」

 そう言うと誠一はシーナの太ももに頭を預け目を瞑った。

「貴公も働け! 魔法陣を守りたいのであろう!?」

 ホーラはシーナの膝枕で微睡まどろもうとする誠一に、こめかみグリグリを食らわせた。半分は、自分の膝を選ばなかった事へのやっかみも有りそう。

 だが、痛みに鈍い誠一にはあまり応えていないようで、おまけに薄っすら開けて天井を見つめる目は何か虚ろだ。

「ミカドは沢田くんの身体のままで満足なのだろうか?」

「ん? なんだ貴公、妙なところを突くな?」

「いや、大して深い意味はない。本来の計画通り、魔素を凝縮して本来の身体を新生させれば、沢田くんの身体は返してもらえるかな? と思っただけでな」

「難しいな。いまやメーテオール猊下やライラ陛下並みの魔力の生命体となったサワダの身体を彼奴が手放すメリットはない。ミツキにとっては忌々しい話だな」

「ミカドってライラさんやメルさんと同じで女の子なんでしょ? さっさと出てって欲しいわ!」

 美月が怒鳴る。

 自分の彼氏が他の女の魂とくっついている……この状況に対する嫉妬心は消沈した美月に発破をかける効果となっているようで。

「まあまあミツキさま、落ち着いて」

 と、シーナがなだめる。

「そうは言っても体の中でよその女の魂と同居してるんだからなぁ。美月としては穏やかにしてろってぇのは無理な相談だろうよ」

「う~」

 うなる美月。美月と史郎はライラや容子らのように一夫多妻、あるいはその逆を認めてはいない。故にこの現状が面白いはずがない。

「ミカドと対峙したらその怒り、思いっきりぶつけてやれ。必ず沢田くんを取り戻すぞ。な、美月?」

「ミカドぬっ殺す!」

 うむ、気合も士気も十分、なによりである。

 ガチャ!

「城下南ブロック、及び西ブロックの巡回終わりました。服務中異常なしです」

 良二らも帰ってきた。

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