シランvsミカド
冷や汗が一つ、シランの頬を伝った。
――どこまで通用するか……
かつて余人を交えず、砂漠の真ん中でブレーダーやギャランドラと手合わせした時の、数倍の緊張感がシランの体を覆っていた。
――ぼくは……勝てない……
シランの戦闘力は8魔王の中でも屈指の高いものである。
火と雷の属性を得意とする彼の、炎を纏わせた雷撃は得意技の一つだ。
とは言え、既に3発、4発と矢継ぎ早に撃ち込んではいるが、功を奏しているとは思えなかった。
出力を上げると周辺の兵や遺体も巻き込んでしまい、加減を余儀なくされているのも不利だった。
今までシランの聞いた限りの情報では、今回の捜索対象はシロウ・サワダのはず。
サワダ自体が修行を終え、ミカドの依り代として覚醒、つまりライラやメーテオール並みの力を持つことになっていたら……勝ち目は絶望的に薄くなる。
周辺に散らばる数百の遺体。そんな事が出来る能力と、躊躇なくそれをやってのける精神……
だが、シランは最低でも兵士たちの撤退を支援しなければならない。なんとか撤退の時間を稼ぎ、そして今後の作戦展開のため、相手が如何ほどの能力を持っているか探る必要がある。
今、着弾点は巻き上がった土煙に覆われ、シロウの姿を確認することが出来ない。
だが、これで仕留められたと言うことは無いだろう。この土煙の中で奴はこちらを伺っているはずだ。
その中で、奴は一体何を思っているのか。
「冥府王……シラン」
奴の声が聞こえた。やはり攻撃は効いていない。
「う~ん、見事な炎雷撃の攻撃だが物足りないな。それで本気なのかな? ちがうよね?」
「サワダ卿、これは何の真似だい?」
好都合。話しかけてくれるなら相手をする時間分、撤退が進む。こちらもそれに応じねば。
「ふふ、ふふふ……」
シロウは不敵に笑った。土煙が収まって来て彼の姿も確認できる。
「時間稼ぎなんか考えなくてもいいよ? 僕は魔法の効果が知りたかったのであって殺すとか全滅とかには興味はない。目の前の連中だって、まだ息のある奴もそこそこいるけど、そりゃどうでもいい。敢えて言うなら向かってくる奴がいるかどうか? 向かってこなけりゃ生きてる死んでいるは関係ないね」
「サワダ卿、教えてくれないか。なぜこんなことをする?」
「キミはまだ僕……余がサワダだと思っているのかい?」
「!」
「そんなはずは無いよね? 気付かなきゃ魔界8魔王の名折れだよ?」
それはシランも一つの可能性として頭の奥隅に置いてはいた。
だがもし、それが本当ならミカド新生計画は根底から、ひっくり返る。
――すでにミカドは自力で新生を果たしている……
しかも、人間界の治世者ではなく、アデスの敵である可能性きわめて大なり、として。
「キミはもう、ミカド……なんだね?」
「自信、無かったのかな?」
「なぜこんなことを!」
「そちらから余を捕らえようとしていたくせにそれは無いな。今度こそ余を別世界、別空間に飛ばしてしまおうと画策しておった事くらい、既に分かっておる」
「それは違う! アデスは天界のメーテオール猊下、魔界のライラ陛下、そしてミカドが人間界を見守ってこそアデスたり得るんだ!」
「500年前、人間界を守護する我が身をズタズタに引き裂いておいてよく言うわ。数年前、ようやく自我を取り戻した時、天界も魔界も人間界も密接につながっておるのを見て余は理解した。天界も魔界も余から人間界を奪ったのだとな」
「違うんだ! 500年前の魔素異変の時に魔界で発生した魔素の大増量がミカドのものとはわかっていなかったんだ! 本当だ!」
「魔素異変……そんな風に呼ばれていたのか? 魔界の魔素が余のものだと? 世迷言も大概にせよ!」
「聞いてくれ、ミカド!」
「500年前の魔法陣、アレに我が身は送られてくる魔素に次々と引き裂かれていった。そう、余の魂まで引き裂き始めた、あの大魔法陣。それが発動した時は……」
――あの、6番目の大魔法陣! いや、魔素に引き裂かれたって……
「話し過ぎたな? そろそろ手合わせ願おうか。魔界屈指のキミとやり合えば目途もつけやすいと言うものだ」
「やめてくれ! 君は誤解している! 落ち着いて話し合おう!」
「ふむ、確かに余にも誤解はあるかもな? しかし足元を見よ。この骸の数を見て魔界との話し合いが可能かな?」
「なんとかする! 今のアデス三界は戦乱を求めてはいない!」
「余一人を捕らえるのに一個師団引き連れておいて何の笑い話か? 谷底で会った連中との方がまだ話せると言うものだ」
――谷底? まだ捜索中隊は到着している時間じゃないと思うけど……脱走した遊撃隊か!
「さて、始めるか? 兵に累が及ぶと言うなら場所を変えてもいいぞ? 余の望みは魔界8魔王の強さを知ることだ」
そう言うと、ミカドは飛びあがり、凄まじい速度で飛んでいった。
「ま、待て!」
シランも追いかけた。
そこには人が住んでいる気配はなかった。だが魔獣や野獣はいただろう。
ミカドとシランの魔法技の応酬は、残念ながらそれらの生存を許さないほど過激なものであった。
ミカドの衝撃波は山の岩肌を切り崩し、シランの雷魔法は丘を消滅させるほど。
しかしながら魔法による遠隔攻撃は双方ともに意味をなさなかった。
シランとミカドの、岩をも溶かす炎撃、山を貫くほどの光針も、双方のシールドの前には決め手にかけていたのだ。
やはり接近戦で決めるしかない。双方が拮抗すれば結局最後は肉弾戦での決着に落ち着いてしまうのか。レーダーが無力化された戦域では最後は目視によるドッグファイトとなるように。
シランの炎雷剣、ミカドの光炎剣による立ち回りは一見、双方互角に見えるほどのつばぜり合いを見せる。上空で、大地で、魔法剣同士が凄まじい火花を散らしまくった。
シランはミカドの剣を弾き、左手で炎撃波動を掌底打ちのように撃ち込む。
ミカドは光炎剣をぐるりと高速で回しその波動を弾き飛ばした。ミカドも瞬時に左腕を払うように光針波動を発するが、シランは空中で前転し、それを躱す。
二人に差があるとすればミカドはその顔に笑みを浮かべていることだろうか。
「シラン、君の剣筋はプーグナの臭いがするぞ?」
ミカドはシランの剣を受けながら訊ねた。
「キミこそだ。天界でプーグナさんに剣技を習ったか!?」
「サワダがな!」
バシィーン!
剣が弾く、弾かれる。
「魔界の剣筋ならブレーダーじゃ無いのか、シラン?」
「それはブレーダーおじさんに譲るよ!」
「ケチらないで教えてみよ?」
カンッ!
「又聞きじゃ本物じゃないね!」
「であるか! では君には、太陽魔法を教えてもらうか?」
「教えられない! あれは封印した!」
「勿体ない! あれさえあれば君が三界最強であるに!」
バァンッ!
「封印が無くても教えたりしない! あれを使うと周りは瘴気だらけになって生物が生きていられないんだ。もう絶対使っちゃいけないんだ!」
「じゃあ、見よう見真似で行くか!」
「え!?」
「サワダの記憶にあるのだよ! カクバクハツってのがなぁ!」
シランの脳裏に良二や誠一とチキュウの話をしていた時の事が過ぎった。
異世界人は自分のあの魔法と同等の効果を魔法抜きで実現していると話していた事を。
「はい、スキあり!」
しまった!
一瞬の躊躇が運命の分かれ目。ミカドが言い終わった時には、彼奴の剣がシランの左脇腹を斬り裂いていた。
「うが!」
不覚!
――――――――ドサッ!
地面に落下するシラン。
「ほ~、あんなので動揺するとか、けっこうなトラウマであったかな? 街ごと数千人の人間を消したのだったな? ははは、余よりすごいではないか!」
「ううう……」
シランはかなり深くえぐられたようだ。這い蹲りながら回復魔法をかけようとするが激痛でうまくこなせない。恐らくは、多少なりとも闇属性も加味されているだろう。
そこを見逃すミカドでは無い。間合い一歩手前まで近づくと剣を構え、とどめの一撃を狙ってきた。
「100%本気の貴様とやり合いたかったがまあ、ここで満足しておこうか。余の糧となってくれたこと、感謝するぞ」
余裕を見せるミカド。しかしそれでも無策にシランの間合いに入っては来ない。
出来ればシランも最後に一矢報いたいところであるが、剣を振ることも雷撃する力も残っていない。
「ご苦労であった。楽になるがよい」
そう言うとミカドは即座に間合いに踏み込み、シランの首めがけて剣を振り下ろした。が、
バシャァー!
剣に感じる異様な抵抗感、
「むン!?」
ミカドは瞬時に後ろに飛びシランと距離を取った。
「何者か!?」
ミカドはすぐに第三者の介入を認めた。今のこの状況下でシランの抵抗は有り得ない。他者が割り込んできたことには間違いは無いが、ミカド渾身の一撃を妨げられるほどの魔法力。それを操れる者など今のアデスはそうそう無く……
一方のシランも目を凝らした。
自分の前に張られた、眩く光り輝くシールドに覆われているのが何とか認識出来た。
同時に斬られた脇腹が回復していくのも感じられた。
――護られた……誰?
「貴様……メーテオールか?」
シランの疑問にミカドが答える形になった。
首だけをなんとか動かし、懸命に周りを探るシラン。
――猊下? 猊下がここに……?
シランは首を出来る限りで捻じり、自分の後方を見た。
「猊下!?」
自分の後方、高さ10数mの空中に浮かぶ、神々しい空気を纏い佇む美しい女性の姿。
それは紛うことなき、シランが敬愛してやまない大神帝メーテオールその人であった。
「大神帝自らお出ましか? 光栄であるな」
「サワダ卿……いえ、今のあなたはミカド、ですね?」
メーテオールはゆっくりとシランの傍に降り立った。しゃがみ込み、改めてシランの脇腹の傷口に手をかざし回復魔法を施しはじめる。
「猊下……」
「喋らないで、身体を楽になさいな」
シラン初めてのメルによる回復魔法。傷の痛みが癒されるのに加えて、得も言われぬ暖かさを帯びた波動がシランの全身を覆っていく。昂って滝の如く流れていた血流も平静を取り戻し、今ではまるで小川のせせらぎの様であった。
「ミカド?」
メーテオールがシランの治療を続けつつ、ミカドに話しかける。
「既にあなたの魂は自我を取り戻していたのですね」
「2年……3年ほど前であろうか……目が覚めるように気が付いた。朝起きたような、そんな感じではあったな」
「自我を取り戻して、何を思いましたか?」
「余の人間界が……人間界で無くなっていた」
「……それを、取り戻すお積りなのですか?」
「天界が其方の物であるように、魔界がライラの物であるように、人間界を余の物とする。至極当り前の世界にするだけだ」
「アデスは、たかだか3人程度の掌に収まるものではありませんよ?」
「どの口がそのような世迷言を。全能神、大神帝と崇められ、アデスの頂点に君臨する其方が?」
「私にはそのように思ったことは一度もありませんが……いいでしょう、それであなたはこれからどうなさるのですか?」
「アデスをあるべき姿に戻す」
「……人間界へ赴くのですね?」
「メーテオール、余は天界に干渉するつもりはない。傍観を決め込んでほしい」
「魔界はどうするのです?」
「余を引き裂いたことには責めを負ってもらう。だが、滅するつもりも隷下に置くつもりもない。もっとも余の邪魔をするのであれば話は別」
「アデスは日々刻々と変わっていっています。いつまでも同じ夢を見続けられるものではありません。時は常に未来へ進んでいるのですよ?」
「余は其方もライラも大好きであった。自我と言うものが目覚めてから3人で三界を飛び回り、それぞれが治める世界を共に愛でたな。我らが見守る美しいアデスを……。だが、なぜか余が、余だけが……」
「ミカド……」
「誤解するなメーテオール、そのことに余はなんの憂いもない。むしろ余に実体がない方が人間界のあるべき姿なのだ。余が実体を持つ時、人間界は終わる。この、サワダの身体とて仮初めよ」
「…………」
「余はそれでいいのだ、メーテオール」
「…………ミカド……あなたは……」
「余は人間界に行く。其方は関わらんでくれ。もしも天界が余を遮るつもりなら……その時は容赦はせん」
言い終わるより若干早く、ミカドの姿は一瞬光に包まれ、やがてその場から消えた。
――寂しい眼だ……
横たわるシランの目に映ったのは沈痛な表情のメーテオールの顔。彼女を敬愛するシランは見るだけで辛くなってくる。
「猊下……」
「……大丈夫? まだ痛い?」
シランの視線に気付いたメルは、いつもの笑みを浮かべた表情に戻ると、シランにそう話しかけながら彼の身体を労わった。
「申し訳ありません。また猊下にお手数を……」
「よく頑張ってくれましたわ、シラン」
「捜索隊の半分は僕の配下でした。彼らを守り切れず、猊下にも……」
「シラン、今は身体を厭いなさい。お城に連れて行ってあげましょう」
そう言いながらメーテオールは、小柄なシランの身体を抱きかかえた。シランの顔は自然と彼女の胸に埋めることになる。
シランは嘆いた。
彼女の胸に抱かれながら、自分は敬愛する彼女を守れるような男になりたいと常々、思っていたのに、この体たらく。
抱かれるメルの胸が優しく温かいほど、自分の不甲斐なさに、シランは悔し涙を止めることが出来なかった。
♦
良二たちは再び天界帝都府内に連行されたものの、今度は留置所ではなく、以前ホーラが軟禁された応接室に閉じ込められることになった。人数分のベッドも既に運び込まれていた。
第一応接室と、隣の第二応接室は内部のドアで行き来ができるので、とりあえず女部屋、男部屋に分けることになったが、それは夜だけ。遊撃隊が駄弁る時は何故かいつも誠一の寝泊まりする部屋になってしまい、男部屋たる第二応接室にみんな集まっていた。
「バカバカバカ! 嫌いだ、みんな嫌いだよ!」
薬を盛られて眠らされ、気が付いたらこの応接室に連れ込まれ、愛しの史郎の姿は影も形もなく、挙げ句その史郎はミカドの本体に乗っ取られてるなどと言われ、美月は今現在、絶賛激昂中である。
「まあ、怒りてぇのもわかるけどよ? 取り敢えず騙して眠らせたことはさ、俺の腹に三つ穴開けたこととでチャラにしようってことで。な?」
「ズルいよ! それとこれとは別じゃない! そんなのズルい! ズルいィ!」
「落ち着いてください、ミツキさま! それにシロウさまは……いえ、ミカドはミツキさまを騙していたんです。シロウさまへのミツキさまの気持ちを利用してたんですよ!」
シーナも美月を出来るだけやんわりと諭そうとした。しかし、頭に血が上りっぱなしの美月の耳に届くかと言うと、
「違う! 違う違う違う! 史郎くんは、ちゃんとあたしのこと考えてくれてたもん! 黒さんのことだって殺す気は無かったって言ってたもん! みんなで日本に帰るために頑張ってくれてたんだもん!」
甚だ難しい。
「まあ、気持ちはわかるけどさぁ。結局今、ここに彼は居ないわけよぉ? それが全てじゃない? あんたのこと心配なら何を差し置いても一緒に居るはずでしょぉ? チキュウに帰るのが目的なら少佐と手を組まないはずは無いわ」
意地になってる美月に、カリンがうんざり気味にいう。道理で考えればわかるでしょ、とでも言いたげに。
「うるさい! うるさあい! みんなのせいだ! みんなが寄ってたかって、史郎くんと……あたしと……」
「ミカドの攻撃で橋から50数名が落下。結局20人近くが死亡。地上では魔界軍相手に魔法戦、死者は400名以上。負傷者はほぼいない。無事か、戦死かのどちらか……。それが現実よ」
「聞きたくない! 聞きたくないー!」
美月は泣き出した。
目が覚めてからこっち、怒っては泣き、泣き止んでは怒っての繰り返しである。
「美月、冷静になって考えよ? あの沢田くんが、相手が隊長じゃなくても、あんたに人を撃たせるはずないでしょ? どうしても必要なら自分が撃つんじゃないの? あんたにそんなことさせるなんて、沢田くんなら絶対にしないよ」
今度は容子が諭す。この中では容子が一番、史郎や美月と長いし詳しい。
自分や誠一はともかく容子の言葉には耳を傾けてほしいところだ。
「容子までそんなことを!」
「あたしは沢田くんを信じてる。そりゃ、そんなに気の強い人じゃなかったけど、あんたの手を血で汚させるような事は……それだけはしないわよ。あれは……ミカドよ」
「う……ううう……うう! ううう!」
「すぐには気持ちの整理は無理だろうな。美月、部屋に戻るかい? 昼間は薬で眠っただけだから頭は疲れてるだろう。横になった方がいいかもな?」
良二が休むように……と言うか一人にさせて頭を冷やさせようとの思いで言った。
美月は周りの者を一瞥するように見回した後、何か言いたそうではあったが、こっくり頷いて第一応接室へ戻って行った。
外への出入り口には衛兵隊もいるし、部屋には防御結界が張られ、手には魔封環もかけられているので早まった真似はしないだろう。
「無理もないっすよね。形としちゃ、あたしらに嵌められたってのは事実だし」
「本人はわかってるさ。ただ、気持ちの落ち着き場所が無いんだよ」
「時間で癒すしかないかしらねぇ」
美月の就寝により、とりあえず静かになった第二応接室。
次の話題は良二たち遊撃隊の今後の方針について、に移った。
「さて、セイイチ。この先、貴公らの身の振り方についてだが……委員会の指示通りに動くならともかく、独自行動を取るならかなり制限されると心得ねばならんぞ?」
まず最初にホーラが話を切り出した。
「エスエリア他、人間界の様子は?」
「エスエリア首都周辺の市や町は8割がた、他国へ避難が完了しております。最終的には王都に残るのは軍と冒険者くらいでしょう」
「ラーさま、フィリア殿下の御身はどうなるっすか?」
「彼女は一時凍結中とは言え、人間界の委員長ですから残留するはずです。エスエリア近衛団らが護衛するはずですわ」
だとすれば、おそらくメイスやロゼたち戦闘メイドも残るだろう。尋ねたメアも本来ならその一員ではある。
「退避が完了した後、全体を見計らって御大がゴーサインを出す手はずだ。どの作戦プランを採用するかは、執行委員の意見を聞いて、御大が最終的に決断することになる」
「作戦前に宰相閣下と会っておきたいな」
直に話を聞きたがっている誠一。だがホーラはそんな誠一を諫めた。
「言いたいことがあれば我が届ける。貴公は警戒され過ぎてるからな」
「警戒?」
誠一は不機嫌そうに眉を顰めた。
「当然であろう? 知りたいことがあるからと言って、誰かれ構わずペテンにかける様なことばかりしおって」
「委員会が変に隠し事しなかったら、こちらだって探りを入れたりはしなかったさ。もう少し俺たちを信用して、オープンにすりゃ良かったんだよ!」
「どの口が言うか? そもそも貴公は人の気持ちも考えずに、裏をかくことばかり画策するから信用を無くすのだろうが!」
「もともとミカド計画を明瞭にしなかったことが原因じゃねぇか! 俺の性格云々言うのならそっちも大概だろ!」
「貴公は度が過ぎてるんだ! 嵌められた者の気持ちも理解しろ!」
「もう、うるさい!」
誠一とホーラの口論に、カリンがしびれを切らした。
「夫婦喧嘩なら外でやりなさいよ! いい歳してみっともない! ったく目糞鼻糞ってこのことよ!」
呆れ混じりにカリンが怒鳴る。
誠一は、言われて何か言い返そうとしたが反論は飲み込んだ。一息入れると、カリンに「勘弁な」と言いたげに手刀を切るような仕草をして詫びた。
「魔法陣がヤバい事になりそうだし、黒さんが焦るのもわかるよ。でもここは冷静にならなきゃ……」
「ああ、そうだ。そうだな……すまん、言い過ぎたよホーラ」
良二に言われ、今度は言葉にして改めて詫びる誠一。ホーラも一度深呼吸して、
「いや、我もアツくなった。許せ」
と、返した。
カリンに諫められ、良二に諭され、正に老いては子に従えである。
「でも主様やリョウジさまの意向を委員会……宰相閣下は聞いていただけるのでしょうか? 無視して自分たちの思惑通りに進めようとするのではないでしょうか?」
「いえ、とりあえず聞くだけは聞き入れるかと思われます。もしもセイイチさま方の予想通り、魔界に籠ったおり、陛下クラスの魔力を獲得したサワダ卿の力とミカド本来の力が合わされたとすれば、どれほどの能力を発揮するかは全くの未知数です。その点からも遊撃隊の戦力を自陣に引き込んでおきたいと思うでしょうから、ある程度の要望は聞き入れるものと」
「だといいがな。最終手段としてあの魔法陣を爆弾代わりにするってのが変わらん限りスッキリとはせんが」
「ミカド追放派を黙らせるためには、そういう手段もあり得ることを示して置かねばならん、ここはわかってくれセイイチ」
「ホーラさんやラーさんは作戦開始になったらどう動くんだい? 俺たちとは当然別行動だろ?」
「そうですね。私は魔界で魔獣の一斉討伐に参加します」
「我はミカドが来るであろう、エスエリアで12神と共に待機する」
「俺たち遊撃隊もエスエリアで待ち構えることになるだろう。ホーラ、作戦開始まであとどのくらいだと見てる?」
「5日後……いや、臣民の退避状況次第で1日くらいは早まるかも」
「早ければ3~4日後か」
「隊長、ミカちゃんはどうしよう? 本部かフィリアさんの屋敷に預けようか?」
(あの姉さん、予のことがずいぶん苦手らしいからなあ。邪魔じゃ無ければヨウコと一緒に居たいのじゃが)
「邪魔どころか、お前がミカドに引き込まれたら奴はまた数段戦力が上がると思っていいだろう。俺たちの手の届く所に居た方がいいんじゃないか?」
「ミカさんはヨウコさんと仲がよろしいのですね。なら、ミカさんとヨウコさんで魔力の同期とかは可能でしょうか?」
――魔力の同期? 谷底でミカが繋いだやつかな?
(同期とはまた違うかもしれんが、谷底で試した魔力を繋ぐってやり方には成功したな。いい塩梅で皆の魔力を底上げできたと思うんじゃが)
「ブースター狙いだったが、うまく嵌った感じだったな? 容子に全力で繋げば台風とか作れたりしてな」
「戦闘力が強まるんなら試してみたいわ。ミカちゃん、作戦開始までに練習しようよ」
(おお、いつでも付き合うぞ)
「じゃあ結論としては、俺たちは出来る限り早く人間界に戻ると言う方向で。委員会にはそう伝えてくれ。監視をつけたいなら歓迎する、ともな」
「本音か、セイイチ?」
「本音だ。ミカドに付くか、委員会に付くかなぞ考えるまでもあるまい? ただ、俺たちの主目的は魔法陣の保護だ。それも一緒にな」
「……わかった、伝える」
「あとは美月だね。すんなり言う事を聞くかな?」
今の美月はアデス人はもちろん、遊撃隊の良二らも信用していないだろう。
状況からして致し方ないとは思うが、彼女だけ単独行動と言うのは認めるわけにはいかない。
火力・戦力からしても大きなマイナスだし、先走って史郎……ミカドの元に走っても、彼奴にとって美月を手元に置くのはもはや何のメリットもない。戻った途端に消されるかも……
「別に、ヘソ曲げてここに居残るなんてマネはしないだろう。納得はしなくても、ついてくるさ」
「そう……そうだね、結局沢田くんと会うには人間界で待つしかないもんな。話すことはちゃんと話したし、俺たちから離れて沢田くんに付くとは考えにくいしな」
「サワダ卿を取り返そうと無茶しなけりゃいいんすけどね……」
「取り敢えず今夜はそっとしておきましょ。一晩、一人にさせた方がいいなら、私とヨウコは良二のベッドで寝るし」
「は?」
カリン、いきなり何を言い出す! そう思った良二の横で、
「うん、そうね」
と、さらっと同意する容子を見ながら、口がカパーンと開いてしまう良二。
ちょっと待て! 隣のベッドには黒さんが!
「じゃあ、私と先輩も、主様と一緒のベッドと言う事で」
「は?」
シーナ、いきなり何を言い出す! そう思った誠一の横で、
「ズ、ズルいですわ、シーナさん、メアさん! 今日は休姦日ですよ!」
と、普通に突っ込むラーを見ながら眉間にしわを寄せる誠一。
ちょっと待て! 隣のベッドには良が!
「このベッドじゃ三人が限度っす。しかもあたしたちは、ここ以外じゃ泊まれないから、ごめん遊ばせっすよ?」
メアちゃん、シーナちゃん、思わずニンマリ。だが、ラーさまも食い下がった。
「あなた方が右左で、私は上! これなら行けますでしょ!」
「おい、我が最初から爪弾きされてる件について説明して貰おうじゃないか!」
良二も誠一も頭を抱えた。




