幕間 「気になった数字」
月次の財務報告は、いつも午後の会議室で行われる。
財務卿が書類を読み上げる。南部商業区、前年比マイナ
ス十一パーセント。北部農地の税収、前期比マイナス六パ
ーセント。王都商業区は横ばい——
数字は改善していない。去年の秋から続く傾向だった。
「以上です」
「北部の輸送量は」
財務卿がわずかに間を置いた。
「……先月より七パーセントほど、回復しております」
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レオナルドは書類から目を上げた。
「回復した」
「はい。先々月から続いていた遅延が、ほぼ解消されて
おります」
「原因は」
「……調査中です。我々の側では、特段の施策は打って
おりません」
何もしていないのに数字が戻った。それは、誰かが何か
をしたということだ。
「調べろ」
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その夜、エミリアから呼ばれた。
南部の夜会の件だという。侯爵令嬢との間でまたひと悶
着あったらしく、先方の家から正式な書状が来ているとい
う話だった。
「私は悪くありません」とエミリアが言った。「あちら
が先に——」
「分かった」とレオナルドは言った。「後で確認する」
確認はしなかった。翌朝から、別のことが気になってい
た。
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三日後、側近のヴィクトルが報告を持ってきた。
「北部輸送路の件ですが。根本の原因が分かりました」
「言え」
「我が国の北部貿易管理の構造に問題があったようです。
商会間の手形が循環していて、輸送業者も含めて全員が現
金を持っていない状態になっていたと。それを、外部から
解消した者がいたようです」
「外部」
「カルディア王国、クロイツ公爵領の顧問です。クロイ
ツ側も同じ問題の余波を受けていたようで、根本から修正
したところ、こちらの数字まで回復した、と」
レオナルドは少し黙った。
「顧問の名は」
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「アリシア・フォン・ランベルト、と報告にあります」
静かになった。
ヴィクトルが書類を差し出した。レオナルドはそれを受
け取らなかった。
「……三ヶ月、誰も分からなかったのか」
「はい。財務卿も、顧問たちも、原因の特定に至りませ
んでした」
「そうか」
それだけ言った。ヴィクトルが一礼して退室した。
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部屋が静かになってから、レオナルドは書類を一枚手に
取った。北部輸送量の推移を示す表だった。
回復が始まったのは先々月からだ。
アリシアがクロイツに移ったのは去年の春。数字が崩れ
始めたのは去年の秋。そして今、彼女がいる国の側から問
題が解消された。
(関係があるとは限らない)
そう思おうとした。
ただ、その言葉が、今日は最後まで続かなかった。




