表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元社畜令嬢、婚約破棄されたので隣国で本気出します  作者: ハル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/48

第二十七話 「道中」

 馬車は朝のうちに出た。


 アリシアは膝の上に書類を置き、手を止めなかった。

想定される質問の順序。数字の確認。クロイツ側の立場

として答えるべき範囲。整理すべきことは書き出してある。


 正面のディアスは窓の外を見ていた。


 「読んでる」


 「はい」


 「ずっと」


 「必要なことです」


 ディアスが何か言いかけて、やめた。


━━━━━━━━━━━


 一時間半ほどして、アリシアは書類を束ねた。


 あと確認するとすれば、想定外の質問への対処だけ

だった。それは準備できるものではなかった。


 「終わった?」


 「おおよそは」


 「おおよそ」ディアスが繰り返した。「残りは」


 「数字に関係しない質問です。国王がどういう方か、

書類には書いていません」


 ディアスが窓から目を離した。少し考えてから言った。

「よく笑う。意地が悪い。頭はいい」


 「……三点ですか」


 「数字より人を見る方だ」


 アリシアは書類を揃えた。「分かりました」


━━━━━━━━━━━


 街道が広くなった頃、馬車の速度がわずかに落ちた。


 「王都、初めて?」


 「……はい」


 「どう見える」


 アリシアは窓の外を見た。「思ったより大きいです」


 「そう」とディアスが言った。「俺も、初めて来たとき

そう思った」


 「……公爵様も」


 「国王に連れてこられた。まだ子どもの頃。父が亡く

なった年だった」


 アリシアは何も言わなかった。


 「怖かったな、あの頃は」ディアスが窓の外を見なが

ら言った。声の調子は変わらなかった。「今日みたいな

日。知らない部屋で待ってて、扉が開いたら何が始まる

か分からなくて」


 「……そうでしたか」


 「終わってみれば大したことなかった。でも待ってる

間が一番長い」


 アリシアは前を向いた。「……覚えておきます」


 馬車が速度を落とした。石畳の音が変わった。


 アリシアは書類を鞄に入れた。手の動きを止めずに

言った。


 「……ありがとうございます」


 ディアスは答えなかった。窓の外を見ていた。口の端

が、少し動いたかもしれなかった。


━━━━━━━━━━━


 門をくぐったとき、空気が変わった。


 石造りの廊下。天井が高い。足音が響いた。案内の

侍従が前を歩き、ディアスがその隣に並んだ。アリシア

はその後ろだった。


 廊下の窓から中庭が見えた。整えられた芝。噴水。

手入れに相当な人手をかけていることが造りを見れば

分かった。


 (規模が、違う)


 クロイツ公爵邸も小さくはない。ただここは別の種類

の大きさだった。国の予算が石の一つ一つに積み上げ

られている。前を向いた。今は計算する場面ではなかった。


━━━━━━━━━━━


 待機室に通された。椅子が二脚。テーブルに水差し。


 侍従が「しばらくお待ちください」と言い、扉を閉めた。


 二人になった。


 アリシアは椅子に座らなかった。立ったまま部屋を

一度見渡した。


 「座らないの」


 「……落ち着かないので」


 ディアスが椅子に座りながら、少し見た。「正直だ」


 しばらく、静かだった。廊下を通り過ぎる足音。遠く

で扉が閉まる音。それだけだった。


 ディアスが立ち上がった。アリシアの隣に来て、同じ

方向を向いて立った。特に何も言わなかった。


 アリシアも何も言わなかった。


 ただ、少し前より落ち着いていた。理由は分からな

かった。


━━━━━━━━━━━


 扉がノックされた。


 「お時間です」


 アリシアは息を一つ整えた。書類の確認は終わっている。

準備すべきことはした。あとは扉の向こうだけだった。


 ディアスが先に動いた。扉に手をかけて、一度だけ

アリシアを見た。


 何も言わなかった。


 扉が、開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ