表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元社畜令嬢、婚約破棄されたので隣国で本気出します  作者: ハル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/48

第二十六話 「波及」

 別の書類を広げていたとき、ノックがあった。


 セバスチャンだった。


 「北部農産物の流通量、確定値が出ました」


 書類を受け取った。数字を見た。先月比で二割三分の改善。見込みは二割だった。


 「ありがとうございます」


 「……それからもう一点」


 セバスチャンが続けた。いつもより、少し間があった。


 「アリシア様がいらした隣国……ヴァルナ王国側にも、波及が出ています」


━━━━━━━━━━━


 「どの程度ですか」


 「北部の輸送コストが先月比で八パーセント改善しています。商会筋からの情報ですので確度は六割ほどですが」


 「方向性としては合っています」


 「はい」


 アリシアは書類を机に置いた。「そうなりますね。クロイツの仕入れルートが回復すれば、川上から順に動く。ヴァルナ王国の北部はその川下にあたります」


 「……最初から、そこまで見えていたのですか」


 「計算はしていました」


 セバスチャンが少し間を置いた。「失礼しました。確認するまでもありませんでしたね」


 「いいえ」とアリシアは言った。「確認は必要です。計算と現実は違うことがあります」


 セバスチャンが一礼して、下がった。


━━━━━━━━━━━


 午後、ディアスが執務室に来た。


 手に書状を持っていた。「これ、届いたんだけど」


 差し出した書状の封蝋を見た。見慣れない紋章だった。受け取って、開いた。


 短い文だった。


 クロイツ公爵に謁見を求める。顧問を同席させること。日時の指定が続いて、最後に署名があった。


 「……どなたからですか」


 「国王」ディアスが言った。「うちの、ね」


 アリシアは書状から目を上げなかった。


 もう一度、最初から読んだ。内容は変わらなかった。


 「……謁見ですか」


 「うん」とディアスが言った。「顧問指名で」


 アリシアは返事をしなかった。書状を持ったまま、何も言わなかった。ディアスを見ようとして、目が書状に戻った。


 「……そうですか」


 声が、少し遅かった。


━━━━━━━━━━━


 「クロイツの件について話を聞きたい、ということですね」


 「そういうこと」


 「分かりました。準備することは」


 「それは後でいい」ディアスが言った。何かを言いかけて、やめた。軽く書状を指で示して、部屋を出た。


━━━━━━━━━━━


 一人になってから、アリシアは書状をもう一度手に取った。


 謁見。


 言葉として処理しようとした。業務上の対応。準備すべきことがある。資料の整理、想定問答、当日の所作。仕事として整理できることはいくつもある。


 (ただ)


 カルディア王国の国王が、顧問一人の話を直接聞きたいと言っている。


 それが何を意味するかは、分かっていた。分かった上で、仕事として処理しようとしていた。


 窓の外を見た。


 計算の外に出たのは、これが初めてだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ