第70話 決戦の玉座
「な、何!?」
亜空間の穴を抜けると、奥に豪華な椅子が一つだけある広い空間に出た。ここが玉座の間なのだろう。
天井から吊り下げられている、王家の紋章が書かれているはずのタペストリーは見るも無惨に裂かれ、破れたり焦げている部分があり、以前起こったクーデター軍と王国軍の激闘を物語っている。
そして玉座に腰掛け、俺達の登場に目を見開き驚愕している、整った顔立ちの男性こそ――。
「ディノフィス・アンモーンだな」
「そういうお前は……コーリー・ノーチラス……それにパール・オイスターもいるか……。いきなり床から飛び出てくるから驚いたが、よくここまでたどり着いたと言っておこう。歓迎するよ」
そう言ってディノフィスはゆっくりと席を立った。
「シェルドンやマリーナを見事打ち破ったようだが、ここで君達の物語は終了だ。なんせこの玉座の間は、マリーナが丹精込めて改造してくれた、僕の武器そのものなんだから――ね!!」
瞬間、ディノフィスが手に持っている身の丈ほどの杖を突き立てたかと思うと、俺達の周囲に巨大な火柱が立った!
「うおっ!?」
「危ないですわ!!」
「君達の床下から火を出そうとしたが、上手くいかなかったな。床に張り巡らせた魔力回路の一部がおかしい。あの変な穴のせいか?」
ディノフィスの攻撃について、パールが見解を言った。
「今の攻撃、ディノフィスの言葉から考えると部屋一面に魔力回路を配置して、部屋中どこにでも魔法を発生させることが出来るのだと思いますわ。魔法を発生させる魔導具が、ディノフィスが持っている杖では無いでしょうか」
「なるほど。アクウナメクジで亜空間を開いたせいで、床の一部の回路が損傷しているのか」
俺達のやり取りを聞いていたディノフィスだが、その表情はまだ崩れていない。
「この一瞬で僕の魔導具の仕組みに気付くとは。だが残念ながら、回路を設置できたのは床だけでね。壁や天井に設置する時間は無かった。だが、床だけでも十分なのさ!!」
「そこまでネタばらしするとは、よっぽど自信があるんだな……。全員、床を攻撃しろ! 魔力回路を破壊するんだ!!」
俺の号令で、兵士達は手に持ったレールガンを床に向けて撃ちまくる。だが床から激しい竜巻が発生し、弾を空中に巻き上げてしまった。
「今度は風魔法だと!?」
「この杖、僕の手の位置にリング状の部品が見えるだろう? このリングを回転させることで火、水、風、氷、雷の5つの魔法を切り替えることが出来るのさ。状況に応じた魔法を選択することで、常に戦いを有利に運ぶことが出来る」
マジかよ……。俺も今まで魔法の杖を作ったことがあるが、どれも一属性のみだった。だがアイツは一つの杖で俺が作った杖の属性全てを操れる魔導具を持っている。こんな魔導具を作ったマリーナがすごいのは当たり前だが、それを完璧に使いこなしているディノフィスもすごすぎる。侮れない相手だ。
「抵抗は終わりかい? では終わりにしてあげよう。別に君達の周囲の魔力回路が死んでいても、攻撃手段はあるんだからね」
ディノフィスは水魔法で俺達の周囲に霧を発生させた。その直後、床全体が帯電し始め――。
「ヤバい。ディノフィスのヤツ、雷魔法で俺達を殺るつもりだ」
「この霧、わたくしたちを感電しやすくさせるためですの!? 絶体絶命ですわ!!」
このままでは殺されるのは必至。なんとかこの危機を乗り越えるものはないのか? 俺のスキルで出来る事をよく思い返してみろ、俺……!!
「そうだ、この貝なら――!!」
「終わりだ!!」
部屋全体に紫電が走り、俺達は迫りくる雷に呑まれ、一瞬で消し炭になった――かに思われた。
「――間一髪だな」
「な、何だと……!?」
驚愕しているディノフィスを尻目に、俺達は無事であった。俺達は光の壁で包まれていたので雷攻撃を防いだのだ。
この壁を展開したのは俺達の後ろに浮いている、熊みたいなクリオネだ。
「姫様、この……貝? は一体……?」
「『コントンクリオネ』さ」
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コントンクリオネ
巨大で魔法を繰り出すことが出来るクリオネ。聖属性魔法を繰り出す姿と闇属性魔法を繰り出す姿を状況によって変える。
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実は、クリオネは巻貝の一種で正確には『ハダカカメガイ』と呼ばれる。だから貝使いで召喚出来る貝の中にクリオネ型の貝があるのだ。
「コントンクリオネは聖魔法を扱える。この光の壁も聖魔法によるものだ。そして――闇属性魔法も使える」
するとコントンクリオネは頭部の形を変えた。捕食時にあらわにするというバッカルコーンだ。
コントンクリオネが玉座に向かって闇の魔力を照射した。
「クッ、身体が重い……。魔力を杖に上手く注ぎ込めない……」
この世界において闇属性魔法とは、平たく言えばデバフを振り撒く魔法だ。身体が不調に陥ったり、上手く魔力が操作できなかったり、今まで出来ていた戦闘技術を一時的に忘れさせたり出来る。
今、ディノフィスは身体と魔力にデバフがかかっている状態だ。しばらくは部屋中を覆う魔法を使うことは出来ないだろう。
「そして、相反する二つの属性の魔法を使えることで出来る芸当がある」
コントンクリオネは部屋の中心に移動した。そして右半身はバッカルコーン、左半身は普段の天使らしい姿になった。その直後、コントンクリオネは聖属性魔法と闇属性魔法を同時に発生させ、混ぜ合わせ――。
「伏せろ!!」
ズガアアアアアアァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!
「キャアッ!?」
「相反する魔法を使ったから大爆発が起きたんだ。これで床に張り巡らせた魔力回路はおシャカだ」
部屋は爆発による黒煙が充満しているが、床の所々で電気がショートしたような火花を放っている。雷魔法を撃たれたときとは違うから、確実に魔力回路を破壊できたのだろう。
そして黒煙が晴れる直前、前方から火魔法が向かってきた。コントンクリオネが光の壁で防いでくれたが、この魔法を撃った犯人は――。
「意外としぶといんだな」
「当たり前だ……ここまで来るのに、色んな人の思いを託されたんだ……簡単に終われるか……」
ディノフィスしかありえなかった。しかもあいつはあいつで、何かを背負って立っている。なら正々堂々、立ち向かわなきゃ無作法だよな?
俺は背負っていたストレージバッグから二つの武器を取り出した。一つはホウシンガイを元に錬金した拳銃。もう一つはエメラルドの森で生活していた頃から使っていたナタ。拳銃を左手に、ナタを右手に持ち、俺はディノフィスへと突撃した。




