第69話 万海一体、至高の貝使い
「来たな、王宮――!」
「わたくしにとっては懐かしいですわ。――もっとも、こんな寂しい雰囲気ではありませんでしたけど」
マリーナを下した俺達は、ディノフィスが籠もっている王宮へとたどり着いた。
コーリーとしては懐かしい我が家のはずだが、憑依した身としてはあまり実感が無い。夢の中で会えたら聞いてみるか。
パールの方は幼少期より出入りしていた場所だからか、懐かしさは感じるようだ。『寂しい雰囲気』と評したのは、人の気配がほとんど無いからだろうか。
「マリーナは王宮内を罠で張り巡らした的なことを言っていたな。ちょっと試してみるか」
俺はドローンを飛ばし、正面玄関から侵入させた。すると――。
「なん……だと……」
「矢が大量に飛んできましたわ……!!」
ドローンが正面玄関に入った瞬間、左右から矢が大量に飛んできて撃ち落とした。墜落したドローンは蜂の巣になり、原型を留めないほどだった。
「罠が発動した瞬間はすこしビックリしたが、わかったことがある。おそらく感知機能と罠は1対1で繋がっているんだろう。感知装置一つが反応すれば、作動する罠は一つだけだ」
「確かに、他の罠が発動した形跡はありませんわね」
「まぁこれ以外の罠が複数発動するタイプの可能性もあるし、技術的に一つの罠しか発動できないとしても感知機能を密集させて擬似的に複数発動させることも出来ると思うから、油断は出来ないけどね」
とにかく発動する罠の位置がわかってしまえば、そこを破壊してしまえば良い。だから俺達はドローンを飛ばしてわざと罠を発動させ、罠の位置を確認してそこを破壊するという手段で王宮内を進むことにした。
確実に進める方法だが、欠点もあった。
「時間がかかりますわね……」
罠は俺達の武器であれば数秒で破壊できるが、数が多くなればちりつも方式で時間がかかり、牛歩の歩みを強いられる。しかもここは敵地のド真ん中で、夜を越すには危険すぎる。
必ず今日中にディノフィスの元へたどり着かなければならないのに、遅延をさせられているのだ。
そしてドローンを使った罠の察知方法にも限界があった。長い廊下の真ん中で罠の解除作業をしていた時のことだ。
「あれ? 今カチッて音が聞こえたような……」
次の瞬間、廊下の先から巨大な岩の玉が落ちてきて、俺達を潰そうと転がってきた!
「退避、退避ーーーー!!」
状況を察知した兵士の叫び声で、俺達は慌てて来た道を逆走した。
「どうやら床のスイッチを踏んでしまったようですわ。ドローンは飛んでいますし、そもそも軽いからスイッチが作動したかどうか……」
「そのようだな。全く、昔のトレジャーハンティングの映画じゃあるまいし」
俺は焦りを隠すようにぶつくさ文句を垂れてみたが、内心焦っている。
「お困りのようですね、マスター」
「ハミット! 急にどうしたんだ?」
現れたのはヤドカリの姿をした俺のスキル『貝使い』のガイド役、ハミットだった。
「これまでの戦いで、『貝使い』スキルは10段階目――最終段階に達しました。その中にこの状況を打開する機能があります。ステータスをご覧下さい」
ハミットに促され、俺は自分のステータスを見てみた。
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スキル:貝使い
称号:万海一体(第10段階)
召喚可能な貝:イワクイデンデン、アクウナメクジ、オオシンガイ、コントンクリオネetc...
<既に召喚可能な貝は非表示>
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俺は新たに召喚可能になった貝を見て、状況を打開できる貝があると確信出来た。
「イワクイデンデンを召喚する!」
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イワクイデンデン
超大型のカタツムリ。殻が岩で出来ており、殻を維持・成長させるため岩を食べる。食べる速度は非常に速く、大岩を数分で食い尽くす。
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召喚したイワクイデンデンは、転がってくる岩とほぼ同等の大きさがあった。イワクイデンデンは迫り来る岩にのしかかり、岩を押しとどめた。
「おお!」
「岩を止めたぞ!!」
「助かりましたわ、姫様!!」
「驚くのはまだ早いぞ」
命の危機を脱したため安堵の声が兵士やパールから聞こえてきたが、イワクイデンデンの能力はそれだけでは無い。
ゴリゴリという音が響いたかと思うと、岩が両断されてしまったのだ。半分にされた岩は重みに耐えきれず、左右に分かれて転がっていく。
「イワクイデンデンは岩を食べることができる。岩の真ん中付近を食べたことで、岩を両断した」
「すごいですわ!! 岩を止めただけでは通行できなくなりましたから、別のルートを探さなければならない所でしたわ」
こうして岩の罠を乗り越えた俺達だが、朗報はもう一つある。
「『アクウナメクジ』を召喚する」
召喚したのは、イワクイデンデンと同等の大きさを持つ、紫とピンクのマーブル模様をしたナメクジだった。
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アクウナメクジ
大型のナメクジ。空間が揺らぐ粘液を分泌する。この粘液で円を描くと亜空間に繋がるゲートになり、亜空間のトンネルを形成する。
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「姫様、この夢に出てくるような色味を持つナメクジは一体……?」
「アクウナメクジ。亜空間に繋がるゲートを作るナメクジで、言ってしまえば――近道を作るナメクジなんだ」
「近道、ですか」
「説明するより実際に見てもらった方が早いな。頼む」
アクウナメクジが動き出し、円を描いた。その動いた軌跡はアクウナメクジの体色と同じ粘液が残されており、粘液で円が描かれた。
そして次の瞬間、円の内側が光り輝き、紫とピンクのマーブル模様の空間に繋がったのだ。
「これで穴が出来た。行き先は玉座。ディノフィスが待ち受けていると思われる場所だ。これでクソ真面目に順路を守り、一々罠を探し解除しなくて済むぞ」
「な、なるほど――。ちなみにこの穴、本当に通っても大丈夫なのですよね? 入った直後に壁の中――なんてことは?」
「大丈夫、アクウナメクジは空間認識能力が高いから、そういう事故は起こらない」
パールの心配事を俺は否定した。瞬間移動において怖いのは、身動きが取れない場所に飛んでしまうことだからな、パールの懸念もわかる。
しばらくして、パールは覚悟を決めた。
「覚悟が決まりましたわ。いつでも飛び込みます」
「わかった。俺の後に続いてくれ。兵士達の中で精鋭10人程度、俺に続いてくれ。残りは王宮内の制圧を頼む」
『了解!!』
そして俺とパール、兵士10名は亜空間の穴に飛び込んだ。




