第66話 使い捨ての剣、復讐の盾
「みんな、少し時間を稼いでくれ」
「わかりましたわ」
「お任せ下さい!」
パールは様々な杖を持ち替えつつ魔法攻撃を行い、戦闘続行が可能な兵士達は各々散会し銃撃を浴びせる。
「無駄だ、無駄ァ!!」
それでもシェルドンにダメージを与えることが出来ずにいるが、俺から注意が逸れたことでそこそこの時間稼ぎになっていた。
俺は適当に走り回りシェルドンに攻撃を仕掛けている様に見せかけ、裏では秘策を着々と遂行した。ガレキの下にレンキンガイを召喚し、ガレキを飲み込ませていたのだ。しかも一カ所では無く、何カ所もだ。
十分ガレキを飲ませたところで、俺は行動を起こす。
「シェルドン! 俺を殺せば全て終わるんだろう? なら殺してみろよ!!」
「そこまで言うんだったら、望み通り今すぐ殺してやるぜ!!」
戦場の熱気に当てられたからだろうか、シェルドンは感情のままに俺へと突っ込んでくる。俺は逃げつつ、広場の中央におびき寄せ――。
「今だ!!」
レンキンガイから巨大な岩のボールを発射した。ガレキを圧縮した質量兵器と言ってもいい代物だ。
さすがにホウシンガイ製の大砲ほどスピードは出なかったが、それでも人間には避けられないほどのスピードが出ている。特に、スピードに重きを置かなかった重装甲系の人間にとってはなおさらだ。
「ぐふっ!!」
岩のボールはあらゆる角度から弾幕としてシェルドンを襲い、衝突と共に砕けた。全ての攻撃を受けた彼はまだ立っていられるほどの生命力を見せたが、魔獣由来の甲殻はひび割れ、場所によっては砕けてしまっている。攻撃の要となっていたハサミと尻尾はもう使い物にならない。
「パール、今だ!」
「承知しましたわ!!」
パールは右手に水の杖、左手に雷の杖を構えた。水の杖でシェルドンをびしょ濡れにし、雷の杖で雷魔法の威力を高める。黄金の威力増強コンボだ。
「ぐわああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
電撃魔法を受けたシェルドンは苦悶の叫びを上げながら体中のあちこちから黒煙を吹き出し、全身黒焦げになり、焦げ臭いニオイを放ち、ついにガクッと膝から地面に崩れ落ちた。
「クソッ……ここまでかよ……! ここでオレ様が倒れたら、また同じ人間が生まれちまう……!!」
「同じ人間?」
「知らなかったとは言わせねぇぞ、コーリー・ノーチラス。オレ様のような兵士の雇い主に連なる立場のクセして、待遇のことを知らぬ存ぜぬなんて言い訳はなぁ」
俺はとっさに口をつぐんでしまった。俺自身はそういう兵士の待遇なんて初耳だからだ。シェルドンは一方的に話を続ける。
「この国――いやこの世界の軍はなぁ、ほとんど傭兵なんだよ。必要な時に兵士を雇って、用済みになれば躊躇無くクビを切る……。俺もそんな傭兵の一人だったんだよ。生活のために仕方なくな」
生活のために始めた傭兵だったが、意外とシェルドンの性に合っていたらしい。本人の強さはもちろん、カリスマ性も持っていたため部隊を上手く束ねることが出来ていた。そのため現場を管轄する上官からの評価は上々だったらしい。
そしてシェルドン自身も傭兵業に生きがいを感じ始め、ドラゴンヴェイルへ武者修行に行くほどになっていた。
「だがな、王国は『契約更新はしない』と言ってきたんだ。直属の上官からは『正規兵に雇用する価値がある』って意見書を書いてもらったのになぁ……。その上官曰く、平時の軍ってのは貴族出身の子息を優先する体質なんだそうだ。家を継げない次男・三男以降のドラ息子共の就職支援の一環だとよ。要するに、オレ様達平民は割を食ったんだ」
そうして、ディノフィスは理不尽な理由で無職になってしまった。
「路頭に迷い、これからどう生活しようか考えていたその時、あの方――ディノフィス様に声をかけられた。奴らに復讐出来る仕事を用意すると言われた。しかも成功した暁には軍の要職に就けてやると約束してくれた。まぁ、失敗すれば死ぬのはもちろん、死よりも恐ろしい運命が待っているとも言われたがな」
それでもシェルドンは、ディノフィスの話を受けたらしい。
「オレ様には失うもんなんて無かったしな。それからディノフィス様の計画通りクーデターを進め――後はお前も知るとおりだ」
クーデターは成功。シェルドンは約束通りクーデター軍の騎兵隊長という要職に就けた、というワケか。
「もっとも、軍の要職に就けたからといって全てハッピーってワケじゃ無かったぜ。バーナクルなんていう自分の利権と打算だけで、上っ面でディノフィス様に与したヤツなんて存在自体許せなかったしな。マリーナは……あいつがディノフィス様に協力した理由は理解出来たからな、嫌いじゃなかったぜ」
そしてディノフィスは、シェルドンに約束したことがあるという。
「ディノフィス様は、俺のような理不尽な理由で使い捨てにされるヤツが生まれ出ないようにすると約束してくれた。それが、俺がディノフィス様のために何でもやってこれた理由だ。汚いことも、ディノフィス様のためであれば何でも出来た。
だが……それももうここまでか……。情けねぇ……おなじ身の上を経験した仲間達に、会わせる顔がねぇ……」
シェルドンは最後の気力を振り絞り俺のことを睨みつけた。これまで見たなかでも一番鋭く、怒りに満ち、そしてどことなく訴えるような眼差しで。
「なぁ、王女様……。今の、俺の話を聞いて……どう……思った…………?」
その言葉を最後に、シェルドンは息を引き取った。
「……もしかしたら、この国にはクーデターに至る火種が色々あったんだろう。お前が経験した事も、その一つだったんだろうな。俺も約束してやるよ。この国を取り戻したら、お前みたいな理不尽な目に遭う人間を無くしてやるって」




