第61話 艦隊を襲う奇策
「戦況の方ですが」
イカネスが話の方向を変えた。
「湖にクーデター軍の艦隊が展開しているようです」
「艦隊って言うと……」
「バーナクル・ポマチェアの艦隊ですね」
バーナクル・ポマチェア。海上で俺達をつけ回したクーデター軍の幹部であり、パールと因縁がある人物だ。
「旗艦を含めた艦隊の半数以上が、ここ東側を狙うように動いています。この東砦の重要性を敵も理解しているのでしょう」
俺達反クーデター軍はルビーハーバーに拠点があり、そこからの補給でこの戦線は成り立っている。補給線を構築するためにいくつも砦を建てたのだから、俺は身を以て東側の重要性を認識している。
もちろん敵も同じだ。単純にルビーハーバーとアクアリウムの位置関係を考えれば、東側を通って補給物資や兵力が届くことくらい簡単にわかる。
だからこの東砦を狙っているのだろう。
「素朴な疑問だけど、よく海を航行するような船が湖で行動できるよな」
「ブラキッシュ湖はエルマリス王国最大の湖で、外海用の船も問題無く航行できるほど深いのですわ。海から直接乗り付ける商船や軍艦もよく見かけますわ」
パールが解説してくれた。どうやらブラキッシュ湖の深さや交通については、エルマリス王国民であれば周知の事実らしい。
「まぁいくら船を集めようとも、砦を攻略することは出来ない。今までと同じく防御結界を張っているし、結界を破る目があるのはレヴィアタンのブレスだけだったしな」
あの時はホントにヤバかった。結界が破れる寸前まで行ったからな。
だが今回の場合、あの艦隊の装備を見る限り特殊な装備は積んでいないように思える。だからそう簡単にこの砦が落ちることは無いはずだが……。
「攻めるには邪魔だな」
「はい。我々がアクアリウムの奪還を目指す以上、艦隊を掃討しなければ攻めることが出来ません」
アクアリウムはブラキッシュ湖に浮かぶ島にあるからな。アクアリウムを奪還するためには船で兵士を運ばなければならない。そう考えると敵艦隊を放置するわけにはいかない。
「なにか方法はないかなぁ……」
ラデン号は持ってきていない。さすがにストレージトランクでも収納出来ない大きさだし、喫水が深いから川を遡上できないからな。
仮にラデン号を持って来れたとしても、隊列を維持して動けるような艦隊相手に正面から挑んで壊滅まで持って行けるかというと怪しい。チームワークに翻弄されて返り討ちに遭うのがオチだろう。
「しっかし、本当に綺麗な隊列で動いているよなぁ……」
その時、俺の頭の中で閃いた。マンガであれば、頭の上に豆電球が現れた事だろう。
「姫様、何か思いつきましたの? 悪い顔をなさっていますわ」
「わかるか、パール。実は少し思いついたことがあってさ」
俺は一呼吸置き、こう告げた。
「綺麗な隊列で動いている艦隊だけど、一部の船が突然おかしな行動を取ったら面白いと思わないか?」
「それは、まぁ――」
「敵艦隊に大きな混乱を招くことが可能ですな」
普通に考えたら、パールとイカネスの言うとおりだ。敵艦隊は大きな混乱を起こし、足並みが乱れるだろう。
「そういうわけだから、作戦に向けて準備しよう。まずは必要な物を調達するぞ」
***
~バーナクルside~
「クソッ、忌々しい」
バーナクルは目の前の砦をにらみつけ、吐き捨てた。
現在、バーナクルは自ら艦隊を率いてエルマリス湖を巡回していた。その目的は、エルマリス湖を閉じ込めるように建っている砦を1つでも攻略し、穴を空けること。特に反クーデター軍の要とも言える東側の砦を攻略することが彼の任務だ。
「攻める糸口が見つからねぇ。結界が強すぎるし均一だ。どんな結界核使ってんだよ」
結界の強さについては既にマリーナから聞いていたが、この世界の人間にとってはあまりにも非現実的な話であったため、バーナクルはほぼマリーナの話を信じてはいなかった。
だが実際に砦を目にしたことで、ようやくマリーナの話を信じたのだ。
「レヴィアタンのブレスで崩壊寸前まで追い詰めたと言っていたが、ワシの船にそんな兵器などない……」
バーナクルの艦隊は性能が良い武装を装備しているが、あくまで常識の範囲内で性能が良いだけだ。コーリーが作る武器やレヴィアタンのような飛び抜けた性能を持っているわけではない。
当然、砦を攻略するには火力不足だ。
そういうわけで、バーナクルは艦隊を航行させ敵がアクアリウムへ上陸するのを防ぐ位しか出来ないのだ。
「こうなったら業腹だが、あいつらに頭を下げることも視野に――ん?」
その時、バーナクルは気付いた。艦隊は旗艦を戦闘にくさび形陣形で航行しているが、後方にいるはずの船が追い越そうとして旗艦に並んだのだ。
「おい、陣形を崩すな! 基本中の基本だろ――な!?」
その瞬間、並んだ船が旗艦に向かって砲撃を行った。




