第56話 最強の一撃、弱点看破
「時間が無い……。すまないパール、イカネス」
「ひ、姫様!?」
「何をなさるつもりですの!?」
俺は自分のストレージバッグから、ドラゴンヴェイルを旅していたときに作った跳躍ユニットを装着。窓を開け、イカネスとパールの引き止める声を横目に飛び出した。
跳躍ユニットの効果でゆっくりと落下する最中、ついにレヴィアタンがブレスを発射した。
「させるかあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺はワナシンジュガイを召喚。両手でレヴィアタンのブレスの着弾地点へぶん投げた!!
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ワナシンジュガイ
オオシャコガイに似た大型の貝。地面に潜み、上を通った敵を飲み込んで真珠にして殺してしまう。さらに魔法を真珠に変えることが出来、この真珠は飲み込んだ魔法と同等の性質・威力を持つ。
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チュドオオオォォォォォォン……パキン!!
シュウウウウウウゥゥゥゥゥゥ!!
レヴィアタンのブレスは、結界を破壊してしまった。だが、丁度結界が破られた部分にワナシンジュガイがスッポリはまり、ブレスの魔力をそのまま吸収してしまった。
「……なんとか俺の目論見は成功したか。おっと!」
レヴィアタンに近い城壁に軟着陸した俺は、ワナシンジュガイから吐き出された真珠をキャッチした。
ワナシンジュガイの機能は2つある。まずは地面に潜り、直上を通った敵に襲いかかり真珠にして殺す能力。これは名前の通り罠として用いる方法だ。
もう1つが、魔法を吸収する能力。魔力そのものを吸収するマナススリガイとは違い、きちんと放たれた魔法しか吸収できない。だが吸収した魔法を真珠に変え、こちらの任意のタイミングで吸収した魔法を放つことが可能だ。
今俺の手に持っている真珠は、あのレヴィアタンの超高出力ブレスがそのまま閉じ込められている。これは強力な武器だ。
そしてもう1つ、この強力な武器を有効に活用するために必要な貝を召喚した。
「シンを召喚。俺の予想が正しければ、的確に弱点を突けるはず……」
俺は『シン』を召喚し、短パンのポケットに入れた。
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シン
派手なマーブル模様をした二枚貝。人数名分の範囲だけ幻覚を見せる。シンによって発生した幻覚は実態を持つ。
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俺は『発生した幻覚は実態を持つ』という部分に注目している。この説明は、例えば幻覚の火を放ったとすると、幻覚の火から本当に着火してしまうというものだ。
俺はこの能力を使えば、一時的にスキルを獲得できるのではと考えた。そのスキルとは――。
「『弱点看破』!!」
『弱点看破』。その名の通り、敵の弱点を見抜くことが出来るスキルだ。――まぁ本当に存在するスキルかどうかはわからないが、少なくとも俺はこのスキルを獲得しようとしている。
「よし、獲得できた!!」
存在するか定かでないスキルですら獲得できてしまう。効果範囲は狭いが、シンの能力はめちゃくちゃ破格だ。
そして俺が見抜けた、レヴィアタンの弱点は――。
「口の中か!」
レヴィアタンの口は今にも閉じようとしている。時間が無い!
俺は手近な大砲にワナシンジュガイの真珠を装填。素早く狙いを付けて発射した。
大砲はホウシンガイを素材に錬金したものだ。つまり貝使いの補正がかかる。真珠の装填から照準合わせ、発射までほぼ一瞬で終わらせるのも簡単だ。
真珠がレヴィアタンの口に着弾したと同時に、レヴィアタンは口を閉じた。つまり真珠を噛む形になった。
レヴィアタンが真珠を噛んだ瞬間、口の中でドオオオオオォォォォォォン!! という巨大な爆音が発生。そしてレヴィアタンは頭の付け根辺りからがっくりとうなだれ、動かなくなった。
「やった……のか?」
やがて、レヴィアタンの身体の各所から煙が上がり、それが身体全体を覆った。
その煙が見えなくなると、レヴィアタンの姿は消えてなくなった。イカネスの指示で斥候部隊が派遣され調査した結果、レヴィアタンを完全に退けた事を確認。俺達はようやく、この砦防衛戦に勝てたことが証明された。
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~マリーナside~
「被害状況は?」
「負傷者二十数名、重傷者数名。移動のみであれば支障はありません」
第3砦から離れた森の奥。マリーナ率いる魔導騎士団はここに退却していた。
コーリーから予想外の反撃を受けレヴィアタンに大ダメージを与えられた。そのせいで、レヴィアタンの継戦は難しくなってしまった。
戦闘続行は不可能と判断したマリーナは、黒霧型の目くらまし魔法の発動を命令。発生した黒い霧はレヴィアタンの各所から噴き出し、故障しているように見せかけつつ姿を消した。幸い足回りは無事だったので、コーリー達に退却方向を悟られること無く戦場を離脱出来たのだった。
「さて、気が進まないけど報告しないと……」
マリーナはそうつぶやきながら、通信魔導具を取り出した。
「ディノフィス様、いらっしゃいますか?」
『ああ、マリーナか。首尾はどうだい――と言いたいところだけど、その様子じゃあまり良くない報告なのかな?』
「……はい、その通りです。実は――」
マリーナはこれまでの作戦状況と、その結果敵の侵攻を阻止できなかったことを詳しく伝えた。
『そうか。遅まきながら、ようやく理解出来たよ。コーリー王女の能力は破格すぎる。しかも王女の能力で作成されたと思わしきものを兵士一人一人が使える。これでは我々が押されるのも頷けるな』
「……あの、シェルドンとバーナクルは?」
『少し前にアクアリウムへ呼び戻した。色々と準備しないといけなくなったからね。』
今二人がいたら君の事を散々なじっていただろう。君にとってはラッキーだったねと軽口を言った後、ディノフィスは真剣な顔つきでマリーナに質問した。
『ところでマリーナ、君はどうする?』
「どうする、とは?」
ディノフィスの言葉の意味を理解しかねたマリーナは、オウム返しのように聞き返した。
『今なら引き返せる、ということだよ。すぐに王女の元へ投降すれば、処罰は避けられないが命だけは助かるかもしれない。僕と一緒に心中する必要は無いんだ』
要するに、自分のクーデターに最後まで付き合う必要は無い、とディノフィスは言っている。だがマリーナは、この提案を断った。
「いえ、最後までお供します。自分は王族に色々と思うところがあります。コーリー王女も王族の一人であり、自分は彼女の事を信用しきれないのです」
『……そうか。君がクーデターに参加した理由は君自身の口から聞いていたが、僕の想像以上に王族への不信感が根強いんだね。わかった、君の覚悟を受け入れよう。魔導騎士団はすぐにアクアリウムへ戻り、最終決戦の準備を進めるように。これが最後の正念場だ、奮戦を期待している』
「かしこまりました。すぐにアクアリウムへ戻り、準備を整えます」
『ところで話は変わるけど、レヴィアタンはどうするんだい?』
「残念ながら、格動力部や配線を破壊して破棄するしかないかと。心臓部は取り出して持ち帰ることが出来ますが……」
『そうか。あれはアダマンタイトの塊のようなものだから非常に惜しいが、仕方が無い。処分は君に任せるよ』
「はい。……では、これで通信を終了いたします」
『ああ、わかった』
ディノフィスとの通話を終えた後、マリーナはしばらくうつむいていた。だがやがて顔を上げ、ディノフィスからの命令を実行するため兵士達に指示を出した。




