第53話 第三砦、嵐の前の静けさ
~マリーナside~
コーリー達が居る砦から離れた森の中。マリーナ達魔導騎士団は、なんとか砦を離れることに成功。自軍の状況を確認していた。
「状況は?」
「全員無事、確認が取れました。しかし十数名重傷者がおり、治療のためアクアリウムに戻さなければなりません」
「そう。死者がいなかったことは幸いね。普段の訓練の賜物だわ」
魔導騎士団は全員が好意の魔法使いだ。そして身を守るための防御魔法を全員一通り使える。その強度や範囲は人によりムラがあるが。
そんなことも相まって、激しい反撃に晒されても死者は発生していなかった。しかし重傷者が多数発生したことで、別の問題が起こっていた。
「でも数十人の重傷者は致命的ね。陣形魔法を使うのに支障が出るわ」
くさび形陣形を形成して放つ魔法によって、ようやくあの強固な結界にヒビが入ったのだ。同じ場所に何度も当てれば結界を破れもしただろうが、陣形を形成する人員が居なければ使えない。
そして魔導騎士団は、人員の補充が難しい。全員が高位の魔法使いである上に馬の扱いにも長けている。一つ極めるのにも大変なものを、二つも極めなければならない。なかなか人員が育ちにくいため人員補充がままならないのだ。
「稼働できる人員に合わせて陣形を縮小するのはどうでしょう?」
「あまり気は進まないわね。人数が少なくなった陣形魔法であの結界を貫けるかどうか……」
陣形魔法は人数を増やせば増やすほど魔法の威力や性能が上がる。ようやく結界にヒビが入ったのに、今よりも少ない人員で放った魔法で同じ結果を出せるかどうかわからないのだ。
なお、他の部隊から魔法使いを陣形魔法要員として借りるのもNGだ。陣形魔法を放つには綺麗な陣形を作るだけで無く魔力を合わせる、放つ魔法のイメージを統一するなど、かなり繊細に息を合わせなければ放つことが出来ない。
だから普段から陣形魔法を放つ訓練をしている魔導騎士団出なければ陣形魔法は使えないし、緊急で入ってきた魔法使いで代わりが出来る技では無いのだ。
「『レヴィアタン』を出すわ」
「レヴィアタンですか!? 確かあれは実戦で耐えられるか試験をしていないはずでは……」
「そうね。でも、自分達にはもうこれしかない。どこに砦を建てるか自分達に知る術が無い以上、敵が砦を建ててから攻撃するしか手段が無いのだから」
マリーナはコーリー達がルビーハーバーとアクアリウムの間に3つの砦を建てると正確に予想してはいるが、どこに建てるかは予想できていない。考えられる場所はいくつか特定出来ているが、全ての予測場所に兵士を張り付かせておくと、いくら魔導騎士団が少数精鋭部隊とはいえ人数差から確実に撃破されてしまう。
他の部隊から斥候だけを借りてくるのもできない。マリーナはクーデター軍の調和役になってしまっている。そんな状況で誰かに借りを作ることになればマリーナの中立性に疑問が生じマリーナのどんな言葉も届かなくなるし、逆に火に油を注ぐ結果となったりもするだろう。
最悪組織が空中分解してしまう。そんな事態を避けるため、マリーナは他の部隊に借りを作ってはならないのだ。
もちろん、レヴィアタンの実戦投入を決断したがこれで勝てる見込みはない。マリーナにとって、この判断は確実な勝利を確信できない、なんなら部下達を危険に晒してしまうかもしれない『賭け』に等しい判断だった。
それでも組織が空中分解してしまうリスクと天秤にかけ、レヴィアタン投入の方が勝率が高いと判断したのだ。
「起動試験は成功しているわ。ぶっつけ本番だけど、破壊以外の要因で行動不能になる事は無いはず。それに、このためにレヴィアタンと連携した戦法も訓練してきたんだしね。みんな、腹を括って」
『ハッ!!』
魔導騎士団の覚悟は決まった。反クーデター軍の3つめの砦を攻略するため、マリーナ達は素早く準備に入ったのだった。
***
~コーリーside~
第二砦の防衛戦から一週間が経とうとしていた。『第二砦』っていうのは、今居る二番目に建てた砦のことだ。同じ要領で初めに作った砦を『第一砦』、これから建てる予定の三番目の砦を『第三砦』と呼ぶ事になった。
さすがに名前がない状態は不便と言うことで、イカネスが名前を付けたのだ。
「姫様、補給の安定が確認できましたので、第三砦への移動・建築を開始しようかと」
「ああ、わかった。思ったよりも早いな、イカネス」
「はい。様々な要因がありますが、いずれにしろ姫様のお力が大きいのです」
補給物資を運搬する部隊は大規模になれば多くの物資を運べるが、機動力が落ちるし臨機応変に対処できなくなるのでトラブルに対する回避が難しくなる。
だが俺が提供したストレージトランクのおかげで少人数でも大人数の部隊に匹敵する運搬力を実現している。しかも少人数だから素早く臨機応変に行動できる。この辺りが安定した補給を実現できている秘訣らしい。
「本日中に準備を行い、明日には出発します。明日の夜に目的地に着くよう調整する予定です」
「なるほど、暗闇に紛れて砦を建築することで、建築前や建築中の敵の攻撃を防ぐのですわね!」
「パール様のおっしゃるとおりですが――実は、その可能性は低いと見ているのですよ」
イカネスが言うには、そもそもクーデター軍は別の部隊が共同で任務に当たる環境にないという。まぁルビーハーバーで目撃した、シェルドンの騎兵隊とバーナクルの艦隊が同士討ちをわざと始めたのを見る限り『そうだろうなぁ』という感想しか浮かばない。あの時は『戦闘中に何やってんだこいつら』って思った連中が多かったみたいだからなぁ。
「そして、砦を建築するにふさわしい場所は複数箇所あります。魔導騎士団の兵士数や兵士の補充が難しい部隊特性である事を考えると、純粋に数が足りません。候補地を見張るにはただでさえ少ない兵士を更に分散させることになりますし、そんな状況で我々に戦闘を仕掛けても返り討ちに合うでしょう。いくら魔導騎士団がエリートとはいえ数に差がありすぎれば勝ち目は無くなりますし、分散した兵士を終結させるにしても時間が足りません。援軍に来た部隊を各個撃破されるのがオチです」
そういうわけで、砦建設前に襲撃を受ける可能性は低いらしい。なんなら昼間に砦を建築しても安全だとか。夜に建築するよう時間を調整するのは保険のような物らしい。警戒すべきは砦を建築した後なんだとか。
「イカネスの意見はわかった。その方針で行動しよう。すぐ準備する」
そして今日いっぱいで移動の準備――第三砦へ移動する者と第二砦で守備を行う者の組み分け、食料や第三砦に持ち込む物品の用意、装備の確認など――を行い、翌日に出発した。
結果、イカネスの予想通り行軍中何も妨害を受けず、砦も俺の貝使いの能力ですんなり建ち、防衛体制を整えることに成功したのだった。まぁ、俺達にとって本番はこれからなんだけどな。




