第51話 陣形魔法の脅威
「敵襲、敵襲ーーーー!!」
「各員、迎撃態勢を取れ!!」
翌日の朝。敵の襲撃を知らせる見張りの兵士の声が、この日のモーニングコールになった。
俺はベッドから飛び起きるとすぐさま着替え、砦最上階にある司令室へと赴く。
「すまん、遅れた」
「いえ、十分素早い行動です、姫様」
「わたくしも今来たばかりですわ」
司令室には、既にイカネスとパールの姿があった。二人とも、既に戦いの準備を完了している。
「敵は?」
「馬に騎乗した魔法使いの部隊のようです。おそらく、クーデター軍の魔導騎士団かと」
魔導騎士団。確かクーデター軍の3つある主力戦力の1つだ。俺を散々追いかけ回したシェルドン率いる騎兵隊、海で俺達を追跡したバーナクル率いる海軍、そして今この砦を襲撃している魔導騎士団がクーデター軍の主力戦力と呼ばれる部隊だ。
魔導騎士団は、平たく言えば馬に乗っている魔法使いで構成された部隊だ。この世界では強力な戦力である魔法使いが『馬』という機動力を手に入れたことで、戦場を縦横無尽に駆け回りながら高い威力の魔法を撃ちまくるという、相対した勢力から見れば悪夢とも言える戦術を可能にしている。
もちろん弱点もある。魔法は生まれ持った才能がなければ使えないし、馬を乗りこなすのも長い時間がかかる。総じて人を集めにくい上に訓練に長い期間を必要とするため人員補充がままならない。
とまぁ魔法騎士団についてつらつらと説明したが、この情報はイカネスから聞いた。ルビーハーバーにいた頃から時間があれば色々な情報を聞かされていて、中には現在判明しているクーデター軍の情報もあった。クーデター軍の主力についてもそうした流れで聞いたのだ。
俺は窓から双眼鏡で敵の様子を見た。この双眼鏡はスイショウガイを素材に錬金して作った物だ。
「敵の数は、20~30人程度か」
「魔導騎士団のほぼ全数ですな」
「敵も本気を出してきている、ということですわね」
そして敵の中に、一人だけ服装が違う女性を見つけた。他の団員は軽鎧に白いローブを身に纏っているが、その女性だけローブに金糸で刺繍が施されているのだ。しかも指示を飛ばしている様子が見受けられる。
「イカネス、あの女は……」
「はい。私が国王陛下の側近であった頃に何度かお会いしました。エルマリス王国の学術部で魔法研究を行っていた、マリーナです」
学術部というのは、エルマリス王国で運営されている研究所のようなものらしい。そこで研究者をしていたのだが、なぜかクーデター軍に、しかも主力部隊の指揮官をしている。
その辺りの疑問は後回しにしよう。とにかく今は、敵を撃退するのに集中だ。
「敵、魔法を撃ってきます」
敵の兵士から日や氷、雷、風といった様々な魔法が放たれる。しかし、砦に放たれた結界を破ることは出来ない。
「さすが姫様の結界ですわ!」
「魔物3体の攻撃にも耐えた結界だぞ、パール。人間が出せる攻撃でどうこうできる代物じゃない」
「ですが、それは敵も織り込み済みの様です。攻撃が散発的ですから、おそらく様子見の攻撃でしょう」
イカネスの言うとおり、敵は全力を出しているようには見えない。馬に乗り移動しながら時々魔法を放っているという印象だ。
だが、敵が一通り攻撃を終えた瞬間、行動がガラリと変わった。
「うん? 敵が一カ所に集まっている……?」
「本当ですわ。円形に隊列を組んでいるようですが……」
「何なのでしょう? 何かで似たような情報を見た覚えがあるのですが……」
そして敵の陣形が整ったと同時に、火魔法を放ってきた。しかも個別に放つのでは無く、息を合わせて放とうとしているようだった。
敵陣の上に巨大な火炎球が形成され放たれると、砦全体を飲み込んでしまった!
「ひ、姫様!? だ、大丈夫ですの!?」
「攻撃範囲は広いみたいだけど、威力はそこまでではないっぽいな。結界を破壊するまでには行かないが、これは一体……?」
「お、思い出しました!!」
敵の攻撃のカラクリに頭をひねっていると、イカネスが突然何かを思い出したようだ。
「確か、以前目を通したマリーナの研究テーマの中に、多人数で威力を高める魔法についての記述があったはずです。その時のアイディアでは軍で使われる陣形を利用した物が提示されていましたが……まさか完成していたとは」
どうやら敵の魔法は、多人数で陣形を組むことで威力を高める代物のようだ。
そうこうしている内に、敵はまた陣形を変えた。Vの字の様な陣形――『雁行陣形』だ。そこからまた火魔法が放たれるのだが、飛距離が異常に長い。あっという間に砦の反対方向まで飛んでしまった。
その後も敵は、長い飛距離を生かして砦のあらゆる場所を狙って魔法を放った。魔法の種類も色々変えている。
「結界に異常は無いが……何をしているんだ?」
「おそらく、結界の弱点を探しているのかと。普通の結界は強度にムラがある上、結界が破れやすい弱い属性があります。魔法の種類を変えているのは、弱点属性を探っているのでしょう」
サキモリアコヤの真珠の結界核は強度にムラがない上、弱点属性など存在しないが……そうか、そういう結界は珍しいのか。
しばらく結界の弱点を探っていた敵だが、また陣形を変えようとしている。だが、そう易々と敵のすきにはさせない。
「敵陣に向かって撃て! 陣形を整えさせるな!!」
イカネスの号令で、城壁から大砲やレールガンが次々に放たれる。だが、敵は防御魔法を展開し魔法の盾で味方を守った。どうやら陣形を整えやすくするよう、防御専門の人員を配備していたようだ。
「練度が高いですな。我々の武装では個人で展開する防御魔法など砕けるものと思っていましたが……。ヒビが入るだけで済んでおり、しかも修復も早い」
「邪魔するのも難しいのか……」
そして敵の陣形が完成。今度は三角形の陣形『くさび形陣形』だ。そこから放たれた火魔法は円錐の形をしており、速度が非常に速い。その魔法が砦の結界に衝突すると、パキッという音が鳴り――。
「な、なんだと……?」
今までビクともしなかった結界に、ヒビが入った。




