第43話 日常と、その裏で
ネレイドを倒してから数日が経過した。
ルビーハーバーの港は平穏そのもので、付近や沖を通過する船が沈没するという事件がピタリと収まった。俺が倒したネレイドが船を沈没させる犯人でほぼ間違いなさそうだ。この件についてはイカネスはもちろん船乗りの人達からもお礼を言われた。海の脅威を取り除いてくれたことが何よりうれしいのだろう。
ネレイドの死体は回収され、学者達の研究材料となるそうだ。ネレイドはまだまだ謎が多い魔物らしいから、死体を解剖して調べてみたいと学者達は張り切っているらしい。
俺は代官屋敷の執務室で、パールと共にイカネスと話をしていた。俺のスキルの鑑定をしてもらうためだ。
「――姫様のスキルは確実に成長していると感じられます」
イカネスの報告に俺は頷き、さらに気になっていることを尋ねてみた。
「他に新しいスキルは身についているか?」
するとイカネスは一瞬考えるような仕草を見せてからこう答えたのだった。
「……いえ、ご報告できるほどのものはありません。内部的には確実に成長しているようですが、スキルの段階が上がるまでには至っていないようです」
「そうか……」
「がっかりすることはありませんわ、姫様。近いうちに必ずスキルが上がるはずです。そうですわよね、イカネス様?」
「もちろんです。あと1回戦闘を行えばスキルが上がるはずです」
ですが……とイカネスは続ける。
「姫様にお任せできるような戦闘系の案件がないのです。なので、それまでは――」
「スキルの使い込み、か」
「はい」
どうやら、まだしばらく真珠養殖の日々になりそうだ。
まぁ結構真珠貝の世話や収穫も慣れてきて時間的な余裕が出てきたし、錬金で色々作ってみてもいいかもな。
***
~クーデターside~
「みんな。僕は決断した」
占領したエルマリス王国の王宮、その会議室。クーデター軍の主要メンバーを集めたリーダーのディノフィスは、開口一番宣言した。
「王女はルビーハーバーに逃げおおせた。なんとか工作員を送り込もうとしたが連中の防諜術の方が上手のようでね、上手くいかなかった」
見事エルマリス王国王都を陥落させ王国の8割を手中にしたクーデター軍だが、弱点が無いわけではない。その1つが諜報や工作関係の人員の不足だ。
人数が足りていないのもさることながら、練度も圧倒的に足りていなかった。エルマリス王国の諜報・工作員のほとんどが反クーデター側に付いてしまったので、非正規戦でクーデター軍に勝ち目があるわけが無かった。
「王女を諦めるという選択肢は、僕達にはない。彼女は最も王位に近い存在だった。反クーデター勢力が王女を擁立し、本格的に反攻するのも時間の問題。そうなってしまってはせっかく僕達に恭順した都市や地方が離反してしまうからね」
そこで、とディノフィスは強い口調で決意を表明した。
「かねてより計画していたルビーハーバー侵攻作戦を開始する。この作戦が成功すれば王女を捕縛ないしは排除出来るだけで無く、僕達に反攻する勢力の一大拠点を潰すことが出来る。非常に重要な作戦だ」
コーリーを海上で捕縛する作戦が失敗してから、ディノフィス達はこの計画の準備を進めていた。今回の会議は、この計画の実行を宣言するために設けられたものだったのだ。
「シェルドン、バーナクル、準備はどうだい?」
「騎兵隊、準備完了しています」
「我らの艦隊、準備完了しております」
シェルドンとバーナクルが作戦の準備が整った旨を伝えると、いつも二人の仲裁役になっているマリーナが声をかけた。
「二人とも、今回の作戦は陸と海の両面作戦が鍵を握っているの。くれぐれも『仲良く』ね」
マリーナの忠告に二人は手を振って軽く答えた。一言で言うなら、『お前に言われなくても分かっている』だ。二人の喧嘩はいつもの事で日常茶飯事なので、もはや誰も止めようとはしない。むしろ『またか』とスルーしているくらいだ。
「シェルドン、バーナクル。マリーナの言うとおり仲良く作戦を遂行して欲しい。君達の協力が今回の作戦の成否を決めるのだからね。では、作戦開始!!」
その言葉と共に、会議に参加していた者達は慌ただしく行動を始めた。




