第41話 海底の脅威、ネレイド
「突然船が沈没する!?」
数日後、真珠養殖をしている俺の元へイカネスが『話をしたい』とやって来た。作業を中断し代官屋敷の執務室で話を聞くと、停泊している船がいつの間にか沈没してしまう事件が最近発生しているそうだ。
「何か手がかりは?」
「何隻か沈没しかけている状態で発見された船があります。その船を引き上げて見聞したところ、このような物が……」
イカネスは数枚の写真を俺に見せた。この写真は、俺が真珠養殖の合間に錬金して作成したカメラを使って撮影した物だ。カメラガイとセンイガイを使って錬金できる。センイガイは印刷用の紙の素材だ。
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カメラガイ
映像を記憶できる巻貝。覗くと記録した映像を見ることが出来る。
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作成したカメラは全てイカネスに渡している。イカネスなら有効に活用してくれそうだからな。
さて、イカネスから見せられた写真についてだが――。
「これは船底か? 大きな穴が空いているな。しかも綺麗で内部がなめらかだ」
「はい。船底の穴は、不自然なほど内部はつるりとしています。錬金術師に分析させましたが、この穴の内部には薄い石灰質の膜が張られているようなのです」
石灰質の膜。それが船底に張られているということは……。
「もしかして、『フナクイムシ』か?」
フナクイムシ。海のシロアリとも呼ばれる、木材を食べる貝の仲間だ。木造船が主流だった時代は、海に出る際に注意すべき生き物の一つだった。この世界も木造船が主流だから、餌には困らないのだろう。
そしてフナクイムシは自らが空けた穴が木材の膨張によって潰れたりしないよう、石灰質の膜を穴の内部に生成させるのだ。
この辺の知識は、前世で工事のバイトをしていた時に仲良くなった技師のおっちゃんから聞かされた。なんでもフナクイムシが石灰質の膜を作る生態をヒントにシールド工法が考案されたとかで、熱く語っていたな。
「おや、姫様はフナクイムシをご存じだったのですね」
「まあな。だがこんな大きな穴、普通のフナクイムシでは無いようだが」
「その通りです。人一人が通れるような穴を作るなど、普通のフナクイムシには出来ません。ですが、一つ心当たりが」
心当たり。それは、いかにも不穏な雰囲気を漂わせていた。嫌な予感がするが……聞かない方が怖い気がするな。俺は慎重に言葉を選びつつ質問したのだった。
「一つ心当たりがある?」
「はい。私も実際に目にしたことは無く、資料で読んだことがあるだけなのですが。それほど滅多に見つかることはない、珍しい魔物です」
「魔物……。どんな奴なんだ」
俺の質問に対し、イカネスはこう答えたのだ。
「『ネレイド』。巨大なフナクイムシ型の魔物です」
「ネレイド、か」
俺はイカネスから『ネレイド』について説明を受けた。この魔物は海を住処とするが滅多に人前に姿を見せず、またその生態も謎に包まれているそうだ。
その理由は、普段は海底の砂の中に生息しているから。詳しく海中、しかも海の底を調査する術が無いこの世界の人にとっては、ネレイドの情報は非常に乏しい。
ただ、時々ネレイドの住処の上を通る船を襲っては船体の木材を食い荒らし、船を沈める事例が時節報告されているそう。
「おそらく、ルビーハーバーの近くにネレイドが住み着いたのでしょう。そこで姫様にお願いしたいことがあります」
「何をすればいいんだ?」
俺の質問に、イカネスはこう答えた。
「ルビーハーバー近辺の海中を調査し、ネレイドを討伐していただきたい。今の姫様であれば、それが可能です」
「……そう言える根拠があるのか?」
「はい、あります。ネレイドは海底を住処にする魔物。すなわち、海底で戦闘する必要があります。今の姫様であれば、それを可能にする装備を装着し戦えます」
確かにイカネスの言うとおり、海中で戦闘できる術を得ることは出来る。
「わかった。準備をすればお前の言うとおりネレイドと戦う事は出来る。数日時間が欲しい」
「かしこまりました。ネレイド目撃情報の収集と精査は私の方でやっておきます。それと真珠貝の養殖についても引き継ぎを……」
こうして俺は、ネレイドと戦う準備を始めた。
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真珠養殖を行っている海岸に戻ってきた俺は、早速ネレイドと戦うための準備を行うことにした。この海岸にレンキンガイを召喚していたので、錬金を行うにはうってつけの場所なのだ。
「ま、海底で戦うんだから潜水用具は必須だよな」
ということで、俺はセンスイガイ、ガスガイ、フンスイガイ、アカリガイを召喚しレンキンガイに投入した。
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センスイガイ
巻貝の一種。耐圧性が高く下に重心が行くような殻の構造をしている。またガスだまりが殻の内部にあり、ガスをそこに溜めて浮力を調整する。潜水服の素材になる。
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錬金して出来た物は『潜水服』。全体的に黒真珠の様な色と輝きを持った色合いで、ボディラインが見えてしまうほどスリムなシルエット。背中にはガスボンベを搭載しており、その両脇にフンスイガイ由来のジェット噴射装置を搭載。海中を俊敏に動くことが出来る。
さらに肩と手首にアカリガイ由来のライトを装備しており、暗い海底でも明かりを確保できる。
「海中の活動はコレでヨシ。あとは武器だな」
まずはライデンガイと貝殻をレンキンガイに投入し、『雷の杖』を作成。
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ライデンガイ
殻が雷属性の魔石で出来ている貝。微弱な電気を放出し同族間でコミュニケーションを取っているほか、電気で狩りをしたりもする。
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雷の杖は他の魔法の杖と同様、杖の先に素材となる貝が付いているデザインだ。今回はライデンガイだな。効果としては、雷魔法を放てる。海の中で戦うからな、電気攻撃は有効だろう。
「もう一つ武器を作るか。アイディアもあるし」
ということで、俺はライデンガイ、テッコウイカ、キンゾクガイを素材に錬金して別の武器を生み出した。
見た目は二丁の細長い砲身。だが前世ではようやく開発されたばかりの、未来チックな武器だ。
「出来たぞ、『レールガン』」
この武器『レールガン』は、金属メッキしたテッコウイカをローレンツ力で打ち出す武器だ。弾速は非常に早く、水中でも問題無く使える。爆発はしないが貫通力に優れ、硬い殻も容易に打ち抜く――と期待している。
俺はレールガンを潜水服の両腰に装備。使いたいときは砲身を前方に向けるだけで使用できる。
「とりあえず装備はこれくらいか。あとはひたすら装備を使い込んで問題無く戦えるようになるだけだな」
俺は潜水服を着込んで海中へ潜水。装備を使いこなすための訓練を始めたのだった。




