第38話 鑑定魔法の示す道
「おお、姫様! それにオイスター公爵令嬢もご無事で!!」
「そちらこそ息災で何よりですわ、イカネス様!」
桟橋にラデン号を停泊させた後、俺達は入港管理所に案内された。そこには白髪に鼻髭を生やした、50歳程度のダンディな男性が待っていた。
そしてこの男性、パールと知り合いであるらしい。さらに『俺』が憑依する前のコーリーの事を知っている様子だった。
「そういえば『今の』姫様はこの方をご存じありませんでしたわね。彼は『イカネス・ユープレクテラ』。国王陛下の側近ですわ」
「……オイスター公爵令嬢。どういうことか説明いただけますかな? 今の口ぶり、まるで私と姫様が初対面かのようなものですが」
やはり元のコーリーと彼――イカネスは知り合いであったらしい。そして俺のことを初対面の人間のように紹介されたことで、イカネスが訝しんだ表情を浮かべている。
「そうですわね……結構複雑な話なのでどう説明したらいいか困ってしまいますが、イカネス様の魔法を使えば全てわかりますわ」
パールはそう言うと、俺の方をチラリと見た。
「姫様。イカネス様は高度な鑑定魔法をお持ちですわ。人間限定の鑑定魔法ですが、その人の来歴や能力などを詳細に把握することが出来るのです。姫様の事情を理解し、信じてもらうためには非常に有効な手だと思いますが……いかがされますか?」
鑑定魔法かぁ。元の世界だとよくあるファンタジー能力だけど、この世界だとまだ知らない魔法だった。
パールが俺の承諾を求めているのは人間相手、しかも来歴を詳細に把握出来るからプライバシー的なものを気にしているんだろうな。この世界でのプライバシーの概念がどうなのかわからないけれど。
「まぁ、俺が説明したところで信じてもらえるかわからないからな。鑑定魔法の方が話は早い。イカネスさん、俺を鑑定してくれ」
「男言葉ですか……いえ、今は関係ない話でしたね。ではお手を出して下さい」
イカネスは手を差し出し、俺は握手する形で右手を差し出した。俺の手を握るなり、イカネスは目を瞑る。
「私の鑑定魔法は対象と接触しなければならないので、こういう形を取らせていただきました。では始めます」
イカネスがそう言うと、目を瞑ったまましばらく黙り込んだ。そのまましばらくすると、イカネスは目を開けて話し始めた。
「なるほど……あなたはこの世界の人間ではない。さらに元は男性であった。今は王女様と融合して一つになったということですね。そして王女様の人格は意識の奥深くで眠っている。これは……なかなか信じられないような話ですが、あなたが『異世界からの転生者』という部分から事実なのでしょう」
俺の身の上を鑑定魔法で読み取ったイカネスは、俺の方を向き直ってこう言った。
「あなたが元々男性であったという所に色々と思うところはありますが……今は王女様の御身を守っていただき感謝申し上げます。ありがとうございます」
イカネスはそう言うと深々と頭を下げた。
「別に俺は……ただ生きていたかっただけだよ。転生早々また死んでしまったら元も子もないからな」
「それでもです。あなたの御尽力の甲斐あって、姫様の御身は無事です。その点だけでも私はあなたに感謝しているのです。それは忘れないで頂きたい」
そう言うとイカネスは再び頭を下げた。
「そして、ここからは未来の話になります。我々はそろそろ、クーデター軍に対し反撃を開始したいと考えています」
イカネスはそう言うと、俺の方をじっと見つめた。
「苦難の道になるでしょう。そしてその道を踏破するためには旗印――すなわち姫様が必要です。ですが、今の姫様の中身はたまたま姫様の御身に憑依した、異世界からの来訪者です。我々の都合で戦いの渦中に放り込むわけにはいきません。もしお望みであればここルビーハーバーで身分を偽り平穏に暮らすことも、外国へ逃げることも可能です。その場合は別の旗印を立てます。
私共としては、姫様の意思を尊重したいのです」
俺にこの国の行く末を委ねるなんて――随分と大胆な話だ。だが確かに、俺の意思は尊重してほしいとも思う。
俺はしばらく考えるふりをしてから回答した。もう決まっているが、それっぽい方がカッコつくだろ?
「俺は――ここで逃げるわけには行かない」
「それは……何故でしょうか」
「この世界で今まで過ごしてきて思い知ったが、あいつらはしつこい。俺が身分を偽ろうが、外国に逃げようがどこまでも追ってくるに違いない。なら立ち向かった方がマシだし、最前線で必要な情報を知ることが出来るから精神衛生上いいと思うぜ」
俺の言葉を聞いたイカネスは、深く頭を下げた。
「ありがとうございます。そう言っていただけるだけで千の軍にも匹敵する心強さを感じます」
イカネスはそう言うと顔を上げた。
「さて、実は私の鑑定魔法ですが、少々面白い効果がありまして……」
「面白い効果?」
「そうです。実は鑑定した対象の人物が持つ魔法や特技が成長するとどうなるか、見ることができるのです。そして姫様のスキル――『貝使い』でしたか。それが成長することで召喚出来る貝の中に、反攻作戦で非常に有用になりそうな物がありました。なのでひとまず、姫様にはスキルの成長を目標に日々を過ごしていただきたい」
まさか、成長後の能力まで鑑定できるなんてな……。それに反攻作戦に有用な物ってなんだ?
「反攻作戦に有用って、いったい何を召喚できるようになるんだ?」
「それは実際に成長してからのお楽しみです。私には姫様のスキル成長プランをある程度思い描けていますので、まずは私の方針で行って頂きたい」
なるほど。鑑定結果は教えてくれないってわけか。まぁイカネスも反攻作戦を立案して準備も進めているだろうし、それを優先してくれるならそれでいい。
「分かった。じゃあイカネスに従ってスキル成長に向けて努力するよ」
「ありがとうございます。ですが今日はお疲れでしょう。私が住まいにしているルビーハーバーの代官屋敷にご案内します。本日はゆっくり身体を休めて、明日から頑張って参りましょう」




