第36話 因縁の決着、砂上の奇策
「ちょっと失礼しますわ!」
「あ、パール!?」
突然パールがブリッジから飛び出した。そしてあれよあれよという間に甲板へ足を踏み入れていたのだ。
デッキに到着したパールは氷の杖を手に、バーナクルと対峙していた。
「わたくし自ら相手してあげますわ! お覚悟はよろしくて? ポマチェア伯爵!!」
「オイスター公爵の小娘か。思えばオイスター公爵とは因縁浅からぬ間柄だったが……それも今日までよ。覚悟せい!!」
パールが氷の杖を構え、大量のつららを発射。だがバーナクルは剣を向け、風魔法でつららを切り刻んだかと思えば、突風を生み出しつららの破片をパールに浴びせた。どうやらあの剣が魔法の杖の役割を果たすらしい。
破片はパールの身体を傷つけ、服に血がにじむ。
「クッ……。この程度でわたくしが……!!」
パールは一歩も引かない。魔法を構築しようとしているのか、両手を広げて集中し始める。
バーナクルは風魔法でパールの首を拘束する。
「ぐうぅっ……」
「パール!!」
パールが自由を奪われながらも魔法を発射しようとする姿を見て、俺は思わず声を上げた。
「援護する!!」
俺はバルカン砲を遠隔操作し、バーナクルに照準をセット。そのまま発射しようとしたが――。
「無駄だ!」
「何っ!?」
なんとバーナクルは、水魔法で高水圧の水鉄砲を発射。バルカン砲を一瞬で全て破壊してしまったのだ!!
やはりさっきパールが言っていた通り、バーナクルは魔法に関しては優秀な人物らしい。だが、パールを救出する手段を失ってしまった。
俺が直接甲板に赴いてもいいが、果たして間に合うのか……?
「このままワシの手で貴様を始末してやろう。貴様の親と同じようにな」
「え……?」
パールの顔に、困惑の色が浮かんだ。バーナクルは不敵に笑いながら語りかける。
「冥土の土産に教えてやろう。知っての通りワシと貴様の親父――オイスター公爵は反目し合っていた。『政敵』というヤツだな。だからワシはオイスター公爵やその一族が憎くて憎くてたまらんかったのよ。だからディノフィスと手を組むと決めたとき、オイスター公爵領の襲撃をワシにやらせてくれと頼んだのよ」
パールが顔を歪めた。
「では……わたくしの領地を襲撃したのは……」
「その通り。ワシはオイスター公爵領に攻め込み、オイスター公爵と貴様の母親は始末したが貴様だけが取り逃がした。だからこうして追って来たのだ。そして今この場で貴様を始末することで、貴様の一族の断絶に成功するのだ」
パールの顔が悲しげに歪む。だが、すぐに気を取り直し、こう言った。
「そうですか。では、わたくしから一言言わせていただきますわ」
「ほう。言ってみるが良い。貴様の最後の言葉として聞いてやろう」
「この辺り、砂地になっていますわよね? 実はこの砂地には姫様が召喚した貝が色々と住み着いておりますの。その中に面白い貝がおりまして――人の物を盗む、手癖の悪い貝がいますのよ」
「何ッ!?」
瞬間、砂地から何かが飛び出してバーナクルの剣を奪い取った! テクセガイが粘液を投げ縄のように射出し、バーナクルの剣を取り上げたのだ。
実は敵が甲板に乗り込んできた場合を想定し、防備の一環としてテクセガイを住み着かせていたのだ。そしてこの対策は功を奏したようだ。
テクセガイがバーナクルの剣を持ち去った瞬間、パールにかかっていた風魔法による拘束が解けた。
その瞬間、パールは懐に隠していたポイズンガンを取り出しバーナクルに向けた。
「これで!」
「グッ!?」
クリティカルヒット。ポイズンガンの毒針はバーナクルの腹に命中した。バーナクルの命は、あとわずかだろう。
だが、いつまで経っても死ななかった。思うように身体が動かせないようなので、毒は効いているとは思うが。
「……とっさに風魔法を身体に纏わせたのですわね。杖無しで有用な魔法を発動できるその技量、侮れませんわ」
「あ、あ……。無傷とは……いかなかったが……その辺の魔法使いと、同じにするな……!」
神経毒により声が上手く出せなくなっているようだが、バーナクルは致命傷を免れたようだ。
「この砂場……水があるな……。ワシにとっては……光明だ……!」
すると、バーナクルは砂場にある海水を操り高波を発生させた。その波に乗り、ラデン号から脱出したようだ。
その様子を見届けたパールは、甲板からブリッジに戻ってきた。
「申し訳ありませんわ、姫様。バーナクルを取り逃がしました」
「いや、別に良いよ。今の俺達の目的はルビーハーバーへ向かうことだし、あいつらを追い払えただけで上出来だ。それにパールが無事で何よりだ」
「姫様……」
「よし、あとはルビーハーバーまで無事に辿り着ければ一件落着だな!」
「そう簡単に済めば良いのですが」
ハミットは苦笑いしながらそう言った。それに対して、俺は不敵に笑って返す。
「そりゃ、何があるかは分からないけどな。その時はその時さ。何とかするしかないだろ」
「マスターがそういう人なのは知っています。それに、今の我々に選択肢はありません。マスターの意見に賛同しましょう」
「よし。それじゃ、ルビーハーバーまでフルスピードで向かうぞ!!」
俺はラデン号をルビーハーバーに向け、走らせた。




