第35話 激突!大海原の死闘
俺は敵船団の陣形の空いた部分へ突撃を仕掛けた。もちろん、それを黙って見ている敵ではない。
「姫様、左右の船の船体から大砲が大量に出ていますわ! それに魔法使いも甲板に集結していますわー!!」
やはり魔法が存在する世界だからか、海戦において大砲の他に魔法使いも重要な船の武器になるわけか。
「ま、こんなチャンスを見逃すわけないか。だったら揺さぶりをかけるまでだ! 魚雷を発射する!」
俺はラデン号の砲身を海面に向け、テッコウイカを発射する。
敵から見れば、おそらく『何やってんだあいつ?』と思うことだろう。魚雷なんて存在しない世界だからな。
だが、あいつらはすぐに恐ろしさを思い知ることになる。俺がテッコウイカを発射してから数秒後、俺達を待ち受けていた船のすぐ隣の船が徐々に下がり始め、あっという間に沈没してしまったのだ。
「姫様、甲板にいる敵の表情に困惑の色が見えますわ。突破するなら今かと」
「よし。それじゃどこかに掴まってろよ。ジェット噴射、起動!!」
ラデン号の尾部には、フンスイガイとガスガイを組み合わせて作ったジェット噴射装置がある。水圧と気圧の力で水を吹き出し、その勢いで加速するのだ。
もっともジェット噴射が使えるのは短時間だけで、しかも結構負荷がかかるので一度使うとしばらく使えなくなる。そのため緊急時に使うような立ち位置の装置なのだ。まぁ、今がその緊急時なのだが。
そしてジェット噴射を起動した瞬間、ラデン号が急加速を始め、あっという間に最高速度に達した。
「キャッ! 立っていられませんわ!」
「乗組員にも負担がかかる航行法だったんだな……」
予想外の負担に耐える羽目になった甲斐もあり、俺達は敵船団の陣形を一瞬で突破。さらに距離を広げることに成功した。
「ついでだ、置き土産をプレゼントしてやる」
俺はラデン号の後方へ向けてミサイルや魚雷を撃ちまくった。その結果、敵船団の多数が沈没もしくは大破したのだ。
これで俺達は敵を振り切ることに成功。あとはゆっくりルビーハーバーを目指すだけかと思ったのだが――。
「マスター、妙な挙動をする船が追ってきています」
「は……?」
ラデン号の後方を見ると、確かに1隻だけ他の船と速度の違う船が追ってきていた。さらに挙動も俊敏で、左右にキビキビ動いてミサイルや魚雷を躱している。明らかに帆船の動きではない。
『コーリー・ノーチラス! パール・オイスター! その程度でこのワシから逃げ切れると思うなぁ!!』
「マジかよ……」
拡声の魔導具で俺達に怒鳴り散らしている声は、戦闘前に俺達へ降伏勧告をしてきた声と同じだった。
つまり、この船団の大将――『バーナクル・ポマチェア』が乗っている船だった。
さらに悪いことは続く。
「マスター、もうすぐジェット噴射が切れてしまいます。再使用には少なくとも30分は時間を空けなければ」
「クソっ! そうか……!」
俺は舌打ちをした。これ以上はラデン号に負荷をかけすぎてしまうのでリミッターがかかるのだ。
だが通常のスクリュー推進だけでも帆船相手なら振り切れるはずなのだ、本来は。
「あの船、明らかに速いよな」
「ポマチェア伯爵は水と風魔法を使える魔法使いで、魔法『だけ』に関して言えば優秀な人物ですわ! 魔法を使った船の軌道操作や加速は彼にとってお手の物なのですわ!!」
パールの言い方にトゲがあったが、どうやらバーナクルは水と風魔法を上手く駆使して帆船にしてはあり得ない動きやスピードを実現しているのか。だとしたら、ジェット噴射が使えなくなったラデン号に追いつくのも時間の問題か……。
「沈めれば問題無いな。ミサイルと魚雷を撃ちまくれ!」
ラデン号の砲身からテッコウイカが発射されるが、バーナクルの船はまるで水の上を滑るように移動しながらミサイルを避け続けている。これでは命中させるのも難しい。
ついにラデン号のジェット噴射が停止。加速力を失い、徐々に速度が下がり始めた。
その間もバーナクルの船は速度を維持したままラデン号の攻撃を避け続け接近したが、なぜか大きく迂回を始めた。
「あいつ、何を……?」
「姫様、敵船の舳先に兵士が集中しています! 側面からこちらに乗り込んでくる気ですわ!!」
「バルカンを起動する! 兵士を倒すことに集中するぞ」
俺は甲板から全てのバルカン砲を起動させ、敵兵に向けて発射した。無数の弾丸は敵兵を容赦なく撃ち抜いていく。
その間にもラデン号と敵船は接近し、ラデン号にも異変が現れ始めた。
「波が荒くなった……? 風も強くなった気がする……」
「バーナクルの魔法の効果ですわ! 水魔法で波を荒らし風魔法で強風を吹かせることで、こちらの動きを縛ってきているのですわ!!」
どうやらバーナクルの魔法の効果範囲に入ってしまったことで、ラデン号に魔法で航行の妨害を行っているらしい。
そういった行為によって、とうとうバーナクルの船の舳先の先がラデン号の甲板に乗り上げてしまった。
「マスター、敵船が接触しました!」
「バルカン砲の攻撃を続ける! それとミサイルを至近距離で発射だ! とにかく引き離すぞ!!」
乗り込んできそうな敵兵はバルカンであらかた片付けた。敵船もミサイルを撃った反動で引き剥がせた。
だがちょうど敵船が離れる間際、何か大きい影が飛び出し、ラデン号の甲板に着地した。
「バーナクル・ポマチェア……」
パールのつぶやきが、誰がラデン号の甲板に飛び乗ったのかを明確に示していた――。




