第31話 新造戦艦、その実力
翌朝。前日から進めていた出港準備を終えた俺達は、ついに出港の時を迎えていた。
「と言っても、船の内装を整えていただけですけどね」
「食料は貝使いの能力で食用になる貝を召喚すれば良いだけだし、なんならちょっとした漁も出来るしな。漁場を通れば、だけど」
そんなことをハミットと話しつつ、陸地に残したドックガイを送還。いよいよ陸を離れるときが来た。
ブリッジに登った俺達は舵輪を握り、出向を高らかに宣言する。
「ハミット、周囲の状況は?」
「他船、大型の魔物、他危険源となり得る物はありません」
「了解。ではこれより出こ――」
「お待ちください!!」
だが出港を宣言するタイミングで、パールがなぜか止めてしまった。
「どうした、パール?」
「船の名前を決めていませんでしたわ。モーターボートみたいな小さい舟ではないのですから、名前がないと不便ですし格好が付きませんわ」
そういえば、船を作ってからずっと作業しっぱなしで船の名前を決めるヒマがなかったが。言われてみれば確かに、船の名前を決めてなかったな。
「ハミット。一応聞くけど、船の名前はあったりする?」
「ありませんね。マスターが決めて下さい」
「俺かぁ……」
俺は目を瞑り、船の名前を考えた。そういえばこの船、貝を素材に作られているからか、やたら螺鈿細工が多いんだよな。船の中も外も。
ある意味、螺鈿細工が船のアイデンティティになっているのかもしれない。それに『螺鈿』って言葉自体、語感がいい。
「決めた。この船は『ラデン号』だ。螺鈿細工を多用しているからそう名付けた」
「ラデン号。いいですね」
「いいですわね! では、この船の名前は『ラデン号』ですわ!」
ハミットとパールも高評価のようだ。決まりだな。
「ラデン号、出航!!」
大声で航海の開始を宣言し、陸から離れた。一応前日にハミットから出航の手順を教わっていたので、特に何もなければ問題無く大海原へ繰り出すことが出来るだろう。
「わ、船が横に動いていますわ!?」
「『サイドスラスター』のおかげだよ。微速ながら横に移動出来る動力を装備しているんだって」
これもハミットから聞いた話だが、ラデン号はサイドスラスターを搭載しているため真横に移動出来る能力を持っている。といっても微速なので大きな動きは出来ないが、離岸・着岸がかなり楽になる機能だ。
サイドスラスターで十分陸から距離を離すと船首を外海に向け、本格的な航海が開始された。
***
「ハミット、進路は順調?」
「測量装置からのデータに異常はありません。計画通りの航行です」
現在、俺達はエルマリス王国北の沖を航行している。すでに陸は見えなくなっているので、測量データが頼りだ。そもそも陸が見える位置で航行してはいけない。ラデン号は派手で大きいので沿岸から見られると俺達の現在位置が筒抜けになり、攻撃対象になるだろう。
ラデン号がこの世界の戦艦に負けるはずは無いが、自ら危険を呼び込む必要は無い。そのため俺達の現在位置を悟られないように、沿岸からは離れた海を進む必要があった。
もちろん陸地を目視せず航行するので自分たちの現在位置を知るには天体観測が必要だし、進行方向を知るには方位磁石が不可欠。
それらを一遍に集約した装置『測量装置』がラデン号に備わっている。『ワタリガイ』という渡り鳥のように季節によって旅をする貝を素材に作っているのだ。
測量装置から送られたデータはブリッジに送られ、アカリガイを素材にしたディスプレイに表示されている。このデータを解析するのはハミットの担当だ。
目的地であるルビーハーバーの座標はパールから得た情報である程度目星が付いているので、あとはその座標に航路を向けるだけ。もちろん、陸から距離を離した状態を維持しながらだ。
続いて俺は舵輪の脇にある通信用マイクを手に取った。
「パール、そっちはどうだ?」
『こちらパール、甲板の船首付近にいますわ。天候は良好。10時の方向に岩がありますわ』
ブリッジのスピーカーからパールの声が響く。こんな通信設備をラデン号の各所に配置しており、どこにいてもブリッジと連絡が取れるようになっている。
通信設備をこの世界で実現できているのは、ラデン号の素材として使用した『シナプスウミウシ』のおかげだ。特殊な電気信号を伝える粘液を分泌するウミウシで、この粘液と電気信号で仲間と意思疎通を行う習性がある。この習性を利用し、通信機器を錬金出来るのだ。測量装置とブリッジを繋ぐシステムもシナプスウミウシを利用している。
「マスター。岩が手頃そうなので、武装の的にしてみませんか?」
「そうだな。どんな武装があるか教えてもらったが、一度自分の目で見てみたいし。パール、今からその岩を的に武装の試射をやるから、観測頼む」
『了解しましたわ』
ということで、ラデン号のメイン武装である砲身を出す。船の側面からいくつもの細長い管が飛び出した。この管はホウシンガイを素材にした砲身で、全てやや上向きになっている。
「まずはミサイル試射から始める。ミサイル発射準備」
「装填完了。いつでも撃てますよ、マスター」
「よし。発射!!」
発射スイッチを押すと、砲身から何発もミサイルが発射される。
発射された瞬間はバチン! と泡が始める音が大きくなったような音がするが、これは砲身の素材になったホウシンガイの性質に由来する。ホウシンガイは泡を使って様々な物体を発射するので、砲身も同じく泡でミサイルを発射するのだ。
さらにこのミサイル、頭部を硬く鋭い円錐状の殻で覆われたイカだ。というのも、ラデン号のミサイルや魚雷の弾は『テッコウイカ』という俺が召喚したイカを使っているからだ。
------
テッコウイカ
硬く鋭い甲殻を頭に持つイカ。非常に強力な漏斗を持ち、岩を貫通するほどの威力のある突進を繰り出せる。ミサイルや魚雷の素材になる。
------
発射されたテッコウイカは頂天に到達すると、漏斗から勢いよく水を噴射。そのまま岩に突撃し大穴を開けた。
『着弾確認。見事に岩を貫通していますわ。ヒビも一切ありません』
「ヒビが一切無い……。本当に強力な貫通力なんだな」
ヒビがないと言うことは、突撃したときのエネルギーをほぼ完璧に集中させていると言うこと。変にエネルギーを分散させていないのだ。命中すればひとたまりも無いだろう。
「続いて魚雷を発射する」
「砲身を下向きに変えます。装填完了しました」
「よし。魚雷、発射!!」
魚雷といっても、ただ砲身を海に向けるだけ。発射する弾もテッコウイカだ。
発射されたテッコウイカは海に潜ると漏斗から水を噴射。ものすごい勢いで岩の根元を貫通し……。
『岩が崩れますわ。根元が完全に破壊されたようです』
「これは破壊力抜群だな」
崩れた岩が波に乗って漂っていくのを見届けると、俺は一言つぶやいた。
「バルカンの性能評価もしたかったんだが……」
「まぁ、仕方が無いですね。そもそも迎撃用の武装なので岩相手に性能評価できるのか怪しいのですが……」
実は、甲板の何カ所かに飛来物の迎撃用としてバルカンをせり出せるようにしているのだが……今回は見送りかな。
『姫様、あまりバルカンの出番はないかと思いますわ。この世界の大砲の性能と比べたら飛距離も命中精度もラデン号のミサイルの方が圧倒的に上ですし、魚雷なんて海中を泳ぐ弾の存在を知るものはおりませんもの。魔法攻撃はありますが、実態がないので打ち落とせないですし、対人兵器として見ても今のわたくし達の人数ではわざわざ近づいて挑む必要がありませんわ』
パールの言うとおり、バルカンの必要性はあまり無いかもしれない。相手の射程外からミサイルや魚雷で対処する方が威力が高いし安全だからな。
とりあえず武装の使用感を確認できたので、これでよしとしよう。
「これで武装の試射を終了する。予定通り航路を進むぞ」




