第30話 大海原への船出
ハミットに言われたとおりドックガイを召喚したら、工場の建物の様な大きさの超巨大巻貝が現れた。
この巻貝は横向きに召喚されており、口の部分が海の方に出っ張っている。まぁ、そういう風に召喚しろってハミットの注文だったからそうしたんだけどさ。
「説明を見れば理解できると思いますが、ドックガイは大きな物を錬金することに長けた貝ですよ、マスター」
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ドックガイ
超大型の巻貝。横に倒れるような姿で生活している。レンキンガイやケンチクガイの近縁種で、大型の物品を錬金する。
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確かにハミットの言うとおり、大きな物を作りたいときに使う貝のようだ。
大きな物というと家なんかを錬金した経験があるが、あれはケンチクガイを使った。ケンチクガイは建築物に特化した貝なので、ドックガイとは役割が違うのだろう。
つまりドックガイは建築物以外で大きな物を作れる貝、ということになる。ここまで情報を整理すると、ハミットの意図が読めてきた。
「もしかしてさ、大きな船を作ろうとしてる?」
「ご名答です、マスター。モーターボートは早さがありますが長距離の航海には向きません。夜を明かそうとする度に上陸しなければなりませんし、海にも魔物など色々脅威がありますから、それらに対応するとなると相応の大きさと機能を備えた船が必要となるでしょう。
というわけで、今から大型船を作ります」
そしてハミットが提示した船の素材は、まずフレームや外殻となる貝殻、動力となるモーターガイ、船のエネルギーを供給するデンチガイ、照明系になるアカリガイ、水回りの要となるフンスイガイであった。
また、新しく召喚可能になった貝も要求されている。シナプスウミウシとホウシンガイ、そしてワタリガイだ。
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シナプスウミウシ
特殊な電気信号を伝える粘液を分泌し、遠く離れた仲間と意思疎通することが出来るウミウシ。遠隔操作機器や有線通信機器の素材になる。
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ホウシンガイ
黒い金属光沢がある巻貝。周囲の石などをくわえ、体内で発生させた泡を利用した衝撃波で石を飛ばし敵を攻撃する習性を持つ。銃や大砲などの素材となる。
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ワタリガイ
ホタルイカと巻貝が合体したかのような姿の貝。夏に北、冬に南に移動する習性を持つ。体内に磁性粒子を持ち方角を感知できる。さらに天体観測を行い自分の現在地を把握しているのではないか、という説もある。方位磁石や現在地を知るための器具の素材となる。
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「シナプスウミウシで船の各機能の一元化を目指します。ホウシンガイは武装の材料になります」
「つまり武器はバッチリ、乗組員が二人しか居なくても船の機能を100パーセント発揮できるッてことか」
「そのとおりです、マスター」
そして最後に、ガスガイと砂を要求された。これらの使い道をハミットに聞いてみたが……。
「船が出来てからのお楽しみです」
だそうだ。まぁ、すぐわかることだし気にしないことにした。
これらの素材を用意すると、ハミットは素材をドックガイの口に詰め込んだ。
待つことしばし。ドックガイからゆっくりと吐き出されたのは――。
「うわ、綺麗すぎるな……」
「大きいですわ……」
全長50メートルほどの、全身に螺鈿細工が施された、光沢がある美しい船だった。
シルエットは戦艦に近く、後ろ半分に3階建ての構造物があり、前半分は甲板になっている。
「じゃ、早速乗ってみるか」
「折りたたみ式のタラップを出します」
甲板の一部からタラップが展開されると、俺とパールは甲板に登った。そこにあったのは――。
「え、砂浜?」
「はい。マスターが召喚した貝を住まわせるための、砂浜を模したプールです。砂と海水を一緒に入れています。レンキンガイなどを設置する際にお使い下さい」
続いて船内設備を見て回ることにした。船内に入ってまず目に付いたのは。
「なんかかなりゴージャスな廊下だな」
「床も壁も螺鈿細工でいっぱいですわ~。壁のランプも貝の意匠を取り入れた上品さで……。こんな船、この世界では存在しませんわ~!」
「航海中の船は閉鎖空間になりますので、なるべくストレス無く快適に過ごせるよう配慮しました。戦闘用の船ですが、居住空間に手抜きは一切ありませんので」
廊下を歩きながら食堂、風呂、船室などを見て回ったのだが、気付いたことが何点かある。
「まず、どの部屋も豪華なのはわかった。でもさ……がらんどうなんだけど!?」
「家具用の素材を入れていないからですね。以前家を建築したときと同様の方法で家具を錬金・配置しましょう。私に素材を渡してお任せいただければ、いいデザインの家具を近い勝手のいい配置で置いておきますよ?」
そういうことだったら、ハミットに任せよう。
「それとさ、なんか船室の数が少なくない? 部屋の大きさからすれば一人用の部屋っぽいし、住数人程度しか乗せられない気がするんだけど」
「その通りです。船長室や貴賓室といった特別な部屋以外は一人用の部屋として設計しています。そもそもこの船は少人数で動かせる設計になっているので、あまり船員を必要としません。極論、一人でも動かせます。その証拠をお見せしましょう」
そう言うハミットに案内されたのは、船の後方にある構造物の最上階。ここは前後左右が全面ガラス張りになっている部屋で、舵を取る舵輪の他、様々な計器が並んでいる。
「ブリッジか」
「その通りです、マスター。船の頭脳とも言うべき場所ですね。ここから船のあらゆる状態が把握出来るほか、全ての操作が可能です」
「そんなことが可能なのでしょうか?」
パールがハミットに疑問をぶつけた。この世界では、遠隔操作の技術は存在しないらしい。
「可能ですよ、パール様。船を作る素材の中に『シナプスウミウシ』を使っているからです。シナプスウミウシは特殊な電気信号を伝える粘液を分泌して遠くにいる仲間と意思疎通を図るウミウシです。この能力を利用し船のあらゆる機能をブリッジに伝え、またあらゆる命令を実行させるシステムを構築しました」
「すごいですわ、ハミット様!」
パールが目を輝かせて褒めた。俺もすごいとは思うが、パールの『すごい』とはベクトルが違うと思う。前世では当たり前だった遠隔捜査技術をこの世界で再現できてしまった事に対し、俺はすごいと思ったからだ。
「とまぁ少人数で船を動かせますので、その分船のスペースを備蓄倉庫や武装に回せるのです」
「つまり、武装の密度はかなり高いということか」
「その通りです。よければご説明したいところですが――航海しながらの方がいいでしょう。あまりこの場に長く留まるのも危険ですし、出港準備も進めなくては」
「そうだな。よし、すぐに出港準備を進めて、明日の早朝に出発しよう」
そもそもここドラゴンヴェイルは危険な魔物の巣窟だし、シェルドン達がここまで追いつかないとも限らない。
ここをさっさと後にしてルビーハーバーを目指し、船のことは出発してから教わろうと俺は決めた。あまり一度に大量の情報を聞いても、全部覚えられないしな。少しずつ聞いた方が覚えも良いだろう。




