第27話 ドラゴンヴェイルの主
~シェルドンside~
「――そうか、報告ご苦労」
コーリー一行を追っているシェルドンは、コーリーの遙か後方でその動向を探っていた。
「全く。本当はもっと近い距離で様子を探るつもりだったが、あんなふざけた方法で移動するとは……」
元々シェルドンはコーリーの後を付けながら隙を見つけ襲いかかるつもりだった。
だがコーリーは自動車を作り出して馬よりも速い速度で移動し、さらに襲い来る魔物を何らかの状態異常で動けなくしている間に逃げるという、この世界の住人、特にシェルドンのようなドラゴンヴェイルに詳しい人間からすれば非常識な手段で移動していた。
集団で追えないほど速いスピードで移動されたため、シェルドンは当初予定していた距離よりもかなり離れた所から様子を探るしかなかったのだ。
「だが……報告によれば、このまま進めば『アレ』の住処近くまで行くだろう。何か仕込むとすれば、そこだな」
『アレ』とは、ドラゴンヴェイルの生態系の頂天。シェルドンをはじめドラゴンヴェイルに詳しい人間はもちろん、ドラゴンヴェイルに住むほぼ全ての魔物から恐れられている存在だ。
「よし、斥候部隊に新たな命令を下す。十分な休息を取った後、アレの住処近くでコーリー・ノーチラスの乗り物に『コレ』を燃やし、ニオイを付けろ」
「ははっ」
シェルドンの命令を受けた斥候部隊の隊長は、受け取った『ソレ』を袋に入れ命令に従い準備を始めた。
「待ってろよコーリー・ノーチラス。こっちは修行でドラゴンヴェイルの恐ろしい所も知ってるんだ。その恐ろしさ、お前らにも味合わせてやる」
***
~コーリーside~
昨日に引き続き、俺達はドラゴンヴェイル北の海岸目指して旅を続けている。
今は昼休憩ということで一休み出来る木陰にいるのだが……休憩に入る前に試しておきたい事があった。
「おー、集まってるな」
「効果てきめんですわね、姫様が作った『誘引ホラ貝』」
『誘引ホラ貝』。見た目は普通のホラ貝なのだが、誰かが吹いているわけでもなくひとりでに音が鳴り続けている。
それもそのはず、この魔導具はホラ貝に加え音を録音・再生する『レコードガイ』を素材に錬金したものだからだ。
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レコードガイ
数十秒程度なら音を録音できる巻貝。耳を当てると貝がもっとも印象に残った音を再生する。
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そして誘引ホラ貝が出している音は、魔物を引き寄せる効果がある音だ。その音に魔物の注意を引きつける、それが誘引ホラ貝の効果だ。
「遠いところに魔物をおびき寄せておけば、多少危険な場所でも安全に過ごせる」
「集まった魔物は一網打尽に出来ますわね。もしかしたら、魔物同士で戦い合ったりするのでしょうか? そうすれば労せずして魔物狩りが出来ますわね」
イイ笑顔でえげつないことを言うパール。こいつ、以外と黒い部分があったんだな……。
「そういえば姫様、もう1つ錬金されていたものがありましたわよね?」
「ああ、『ヤシオリ』か。かなり強力すぎるし魔物がどういう行動を取るのかわからないから、使いどころがなかなか難しいんだよな」
『ヤシオリ』とは、カモシガイを使って発酵させた酒とガスガイを素材に錬金した物だ。非常に強力な酩酊効果を持つガスを放出する魔導具で、巨大なドラゴンすら一発で酔わせるほどだとハミットは言っていた。
いつか使うかもと思って誘引ホラ貝と一緒に作ったが、酩酊した魔物がどういう行動を取るかわからないからちょっと使うのに勇気がいるんだよな。
「ま、どうしようもなくなったときの奥の手って事で。休憩したらまた出発しよう」
***
さらに自動車を走らせていると、洞窟が見えてきた。ただこの洞窟、今までキャンプ地として利用してきた洞窟とは少し違っていた。
「デカいな」
「大きいですね」
入り口がとにかく大きいのだ。今まで大きいと思った洞窟はトラピースパイダーの巣になっていた洞窟なのだが、その時の巣窟よりも3倍以上はデカい。
「……ちょっと覗いてみるか」
「覗くのですか、姫様!?」
「ああ。何もなければそのままキャンプ地にしてもいいし、何かあっても危険材料を早めに発見できたって事で無駄にはならないだろうさ」
「そういう事なら。私もついていきますわ!」
というわけで、俺たちは洞窟の様子を探ることにした。だがその前にハミットが何かに気付いたようだ。
「気をつけて下さい、マスター。強力な魔力を感じます」
「強力な魔力?」
「はい。魔石のような魔力をため込む鉱石であれば問題は無いのですが、魔物であればかなり危険でしょう。トラピースパイダーとは比べものにならない強さです」
「わかった。気をつけるよ」
自動車を降り、音を立てないよう静かに洞窟へ足を踏み入れた。
洞窟の中はドームのような広い空間だった。その奥にあったのは……。
「あ、あれは……」
「ド、ドラゴン……?」
乾いた岩のような色合いである事以外、頭に角が二本生え翼を一対持った典型的なイメージ通りのドラゴンが丸まって寝ていた。
「ここドラゴンヴェイルの生態系の頂天にして、地名の由来になったとも言われているドラゴンですわ……。こんな所に巣があったのですわね……」
「腹の辺りをよく見ろ、パール。卵を抱えているぞ」
ドラゴンの腹を見ると、そこには黄金色に輝く卵があった。きっとこの卵はあのドラゴンの子供なのだろう。眠っている間も我が子を守るためなのか、翼と尻尾を交差させながら守っているようだった。
「ドラゴンは国一番の強さを持った物でも相応の準備と覚悟を持たなければ戦闘できないといわれる危険生物ですわ。ですから生態には不明な点もあるのですが、一般的な生物の常識から考えれば――」
「特に危険な状態だよな」
一般的に、産卵や子育て中の生物は攻撃されないように外敵に対して敏感になっている。だからあのドラゴンも卵を守るため、非常に攻撃的になっている可能性がある。
「よし、このままそっとしておいて、さっさと先に行った方が良いな」
「そうですわね。下手に刺激しない方が賢明ですわ」
というわけで洞窟から出たのだが、そこで信じられない物を目にした。
「自動車から、煙が……?」
なんと自動車から真っ白い煙が出てた! 煙の量は尋常ではなく、自動車が煙ですっぽり覆われてしまっているようだった。
慌てて自動車に駆け寄ってみると、車内にある物が置かれていた。
「燃えた草……?」
なんと、赤くパチパチと燃える草の塊が自動車の中に撒かれていた。明らかに人為的な物だった。
幸いにして自動車に燃え移るような火ではなく、パールにお願いして風の杖でエアブローのように風魔法を放って草を全て追い出したので大事はなかった。
だが、悪いことは続けざまに起こる物だった。
「なんだ、この音……?」
「ドシンドシンと、何か大きい物が歩いているような音ですわ……」
音はさっきまでいた洞窟から消えてきている。つまり、この音の正体は――。
「グガアアアアアァァァァァァ!!!!!!!!」
寝ていたドラゴンが、起きたのだ。




