第22話 荒野のキャンプ
しばらく自動車を運転しているが、特に問題は無い。全く整地されていない荒れ地でも楽々踏破している。
運転の方だが、何十年も乗り慣れているのではないかというほど余裕で運転できている。前世ではほぼペーパードライバーだったはずだが、『貝使い』の恩恵で運転技術が向上している。
「パール、どうだ?自動車の乗り心地は」
「風が気持ちいいですわ。こんな経験、馬車では出来ませんわ!ただ……」
「ただ?」
パールは歯を食いしばり、何かに耐えているかのような表情で告げた。
「お尻が……お尻が痛いですわ!」
この自動車、揺れについては押さえられている。しかしドラゴンヴェイル特有の悪路のせいで揺れが激しいままなのだ。ただパール曰く、この世界の未熟なサスペンションを搭載した超高級馬車が舗装された道を走る時の揺れと同程度に押さえられているので、決して自動車のサスペンションが劣っているわけではないとのこと。
問題は、シートなのだ。
「クッション無しのシートはキツすぎますわ~!!」
この自動車のシート、クッションがなく硬い貝殻素材だけで作られているのだ。だからシートの硬さに加えて揺れの衝撃がダイレクトに尻と腰に来るため、結構つらいのだ。
「この自動車、俺はまだ改良の余地があると思っているんだ。キャンプを設営したら自動車を改良しよう」
「お、お願いしますわ……」
この日の夕方、キャンプを張るのに良さそうな洞窟を見つけた。
「よし、この洞窟の中でキャンプするか」
「マスター、十分注意して下さい。魔物の中には洞窟をねぐらにしたり巣をつくったりする者も存在します」
「わかったよ、ハミット」
俺は自動車を降り、ナタを抜きつつ警戒して洞窟に入った。
幸い中に魔物はいなかったし、ねぐらにしている痕跡もなかった。
しかも都合が良いことに、入り口は狭く内部は広く天井が高い構造になっていた。外敵を防ぎつつキャンプ道具を広げるのに理想的な洞窟と言えるだろう。
俺はパール、ハミットと共に自動車を洞窟内に入れると、レンキンガイを召喚した。
「姫様、テントは出さないのでしょうか? ハミット様からテントなどキャンプ道具を錬金していると聞きましたが……」
「そうだけど、どうせなら改良しようと思って。ブリリアントビーチでキャンプしていたときとは違って色々貝を召喚出来るようになったし、実はシェルドンと戦ったのがきっかけでスキルが成長したんだぜ」
エメラルドの森でシェルドン率いる騎兵隊と戦闘したときにスキルが成長したらしく、『貝使い』は5段階目になったのだ。
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スキル:貝使い
称号:貝殻の創造主(第5段階)
召喚可能な貝:イカ、タコ、スウィートシェル、カウシェル、エッグシェル、カモシガイ、ホラ貝、ツツミガイ、ガスガイ、ニオイガイ、レコードガイ、ヒカクイカetc...
<既に召喚可能な貝は非表示>
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「なるほど。それで姫様は、何をお作りになるのでしょうか?」
「テントの改造だな。本当は第4段階でも作れたんだが、また使うとは思わなかったから作らなかったんだよ」
まず簡易浴室をストレージバッグから取り出してレンキンガイに投入。さらにフンスイガイを加えることで出来たのは――。
「『浴室(屋外用)』だ」
「今までの浴室と何か違うのでしょうか? 見た目はあまり変わっていないような……」
「前は水源にパイプを繋げて水を供給しないといけなかった。でもフンスイガイを取り付けることでどこでも使えるようになったし、パイプを水源に繋げなくてもよくなったのさ」
以前は苦労して作った自動海水浄水装置の水槽にパイプを突っ込んで水を確保したが、フンスイガイ登場でそれが不要になった。パイプを繋ぐ必要が無いからよりコンパクトになるし、水源がなくても使えるのは便利だな。
「次にトイレを改良していくぞ」
トイレ(簡易水洗・屋外用)をレンキンガイに入れ、フンスイガイ、ドロウミウシ、チャッカタツムリを投入。錬金して出来たのが『トイレ(屋外用)』だ。
外観は錬金前と変わっていないが、フンスイガイの効果により自力で水を供給出来る。便器がただの長方形の穴から洋式に変わり、ウォシュレット、便座の保温機能も追加。
手を洗う場所が水槽から流しに、おまたや尻を拭く物が海綿からトイレットペーパーに変わった。
要するに、家で使っていたトイレと同等の仕様になったのだ。
「そしてドラゴンヴェイルを旅するなら必須の物を作る」
俺は第5段階になって召喚出来るようになった『ニオイガイ』を召喚し、レンキンガイに入れた。
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ニオイガイ
ツノガイの一種。様々な匂いを発生させる。ごくわずかな量のニオイ成分しか発さないが、どれも匂いが強烈。
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錬金して出来たのは、白いツノガイ型の置物だった。
「『魔物避けお香』。魔物が嫌う匂いを発して寄せ付けなくするんだ。ドラゴンヴェイルでキャンプ張るなら必須だろうからな」
「すごいですわ、姫様!」
「だけど匂いが一定以上ないと効果は無いし、かなり滞留しやすい匂い成分だから、移動中は使えない」
キャンプ中の魔物対策はこれでOK。以前キャンプで使っていたオーブン付きコンロは家でキッチンを作る時に使ってしまったから、再度オーブン付きコンロを錬金。そしてベッドを新しく錬金した。
キャンプ用なので家で使っていたクイーンサイズではなく、セミダブルサイズだけどな。
「とりあえずこんなもんか。あとは休みながらちょくちょく必要な物を錬金していこう」
「賛成ですわ。ところで姫様、1つお願いしたいことが……」
お願い? パールのお願いって何だ……?
「移動中お尻が痛かったので、少し見ていただけませんか? もちろん、姫様の我慢が限界なら、近くの穴を触ったりなめたり差し込んだりしても構いませんわ。というか、積極的にそうしていただきたいですわ!!」
「長めに風呂入ってさっさと寝ろ。朝どうしても痛みが取れなかったら別の方法を考えてやる」
あまりにも下らなく、欲望ダダ漏れのだった。
というか差し込むって、俺には差し込むモンを持ってないぞ? あれか、指で良いのか!?
「うぅ~、姫様のいけずぅ~」
「今、俺達は追われているんだからな。そこら辺を忘れないように」
と釘を刺しておいたが、パールはそれをわかってて言ってるんだろうな。結構頭が良いやつだから。おそらく、俺にちょっかいを出しては反応を楽しんでいるのだろう。俺も完全に嫌って訳でもないしな。




