第19話 バスタイムと……?
パールと一緒に暮らし始めてから数日。二人の生活にも慣れてきたし、拠点周辺の探索も大体完了した。まぁ、北の方で採取できたバネツルとストレッチロープ以上のめぼしい物は特に無かったけど。
それともう1つ。二人の生活に慣れたと言ったけど、一部を除いて慣れないことがあるんだよね。それが――。
「お風呂上がりましたわ、姫様」
「ああ。それじゃあ次は俺の番……って、なんだよその格好は!」
俺の視界に入ってきたのは――バスタオル一枚のみを身に包んだ、パールの姿だった。パールは毎日、何らかの手段で俺を誘惑しようとしてくるのだ。
今日は入浴後にかこつけて、バスタオル一枚というあられもない姿で俺を誘惑しようと試みているようだ。
そしてパールはいつものように、俺のツッコミに対してのらりくらりと、かつ誘惑的に答えるのだ。
「お着替えを忘れてしまいまして、こうする他なかったのですわ」
着替えを忘れたというのは、おそらく本当だろう。絶対にわざと忘れているだろうが。
「ところで薄々思っていたのですが。もしかして姫様の前世は、童貞なのでは……?」
「ちょ、おま、なんでそんな言葉知ってんだよ!!」
貴族令嬢であるパールが童貞という言葉を知っているとは……。というか、俺の態度ってそんなにバレバレなのか!?
俺自身はなるべく平常心を保っていたつもりなんだが……。
「その反応で答えを言ってしまっているようなものだと思いますが、そうですわね――淑女教育の賜物、と言っておきますわ」
このままでは風邪を引きますので、着替えてきますわ、と言ってパールは自室に戻っていった。ちなみにパールの部屋は使い道がなく空き部屋になっていた二階の部屋の一室をあてがっている。
「すみません、マスター」
「何だよ、ハミット」
ハミットが疑念を持った目で話しかけてきた。
「もしかしてマスターは、ロリコン……?」
「おい、なんでそんな疑惑をもたれにゃならんのだ」
「いやだって、パール様の年齢を考えると……」
「それについては疑義があるだろ!」
今の俺はパールと同い年なんだからな。相手の年齢だけでロリコン判定するのは尚早だろう。もっとも、肉体年齢と中身のどちらを重視するかで結論は変わるだろうが、答えはないんだろうなぁ。
そしてもう1つ、俺がロリコンと断定できないと主張するに足る重要な要素がある。
「そもそも俺、自分の性的指向がよくわからないんだよな」
「それはまた、どういう?」
「前世の俺はさ、その日生きるので精一杯だったから、結婚はおろか恋愛について考える暇が無かったんだよな。だから自分の好みの
タイプについて考えたことないんだ。そういうわけだからパールが俺の好みかって言われると、断言できない」
俺が告白すると、ハミットは同情したような目になった。
「そうですか。では、今世はそういうことを考えられるような余裕が出来ればいいですね」
「ああ。さて、俺も風呂に入るか」
そうして俺は風呂に向かって歩き出した。
「……ん?」
風呂に向かう途中、窓から森の中に松明っぽい明かりが見えた気がしたが……気のせいか? 一瞬しか見えなかったし。
***
~シェルドンside~
エメラルドの森に近い村。ここは辺境かつ小さい村ということもあり滅多に客は来ないが、この日だけは違った。立派な装備に身を包んだ騎兵隊が、物々しい様子で駐留しているのである。
この騎兵隊は、以前コーリーを襲撃したシェルドンの部隊であった。
「隊長、森の中へ偵察に行った斥候が戻ってきました」
「そうか。それで、どうだった?」
シェルドンは、部下の報告を落ち着いた様子で聞いた。
「村民の証言通り、確かに森の奥に湖があり、その畔に貝のような建物が建っていたそうです」
「なるほど。貝、か……」
シェルドンはブリリアントビーチでコーリーを襲撃したときの事を思い出す。あの時、コーリーは貝殻を操作し壁を作った。また、貝を大きくしたような小型建造物(テントやそれを素材にしたトイレ、風呂のこと)もあった。
コーリーが隠していたのか突然発現したのかはわからないが、貝にまつわる能力を持つことはほぼ確定。さらに、高貴な服を着た10歳くらいの少女が森に入ったという村民の目撃証言もある。
それらの情報を総合すると。
「おそらく、森に入っていった少女というのはコーリーで間違いないだろう。どこかの海岸から上陸し、この村を経由して森に入ったに違いない」
盛大に間違っている。コーリーは森の西端の崖から直接森に入ったのだ。ただ、偶然ながらコーリーが森の中に入っている事だけは正解だった。
「よし、今度こそコーリーの身柄を捕らえるぞ。作戦開始は明日の夜。それまでに準備を整え、英気を養え!!」
『はっ!!』
シェルドンの号令と共に、騎士団は早速準備に動き出した。
***
~コーリーside~
「ふー、食った食った」
「今日もおいしかったですわ」
いつものように晩御飯を食べ終えた俺たちは、寝る準備を始める。
まずは風呂に入るのだが……。
「姫様、今日こそわたくしと一緒に入りませんか? お背中を流しますわ」
「いや、いい……」
このやりとりも毎日続いている。一緒に風呂に入らせようとするパールと、拒否する俺。
ただ、毎日説得は諦めないのだが、結局最後は俺が断るのでパールの希望が叶ったことはない。
理由はパールの目的が分かり切っているので身の危険を感じていることと、俺の覚悟が決まっていないからだ。
結局パールが折れて一人ずつ風呂に入るのがお約束なのだが、今日は違った。
「緊急事態です、マスター! この家が囲まれています!」
「はぁ!?」
ハミットの言葉に俺は、信じられないという声を上げた。
窓の外を確認すると、見覚えのある鎧を身にまとった集団が……。
「あの装備――騎士団の装備を改造したもののようですわね」
「わかるのか、パール?」
「はい。エルマリス王国の軍の装備は一通り見たことがありますから。それにしても、エルマリス王国軍の精鋭中の精鋭である騎士団の装備がクーデター軍に使われてしまうとは……。可能性としては十分ありうると頭では理解していましたけど、いざ実物を見ると悲しくなりますわね……」
なるほど、あの装備はそういう由来があったのか。そんなことより、今早急に対処しなければいけない問題は――。
「コーリー・ノーチラス! 今度こそ貴様を捕まえに来たぞ!!」
ブリリアントビーチで襲ってきたあの男……シェルドンの魔の手から、どう逃げるかだ!!




