第18話 公爵令嬢の秘密
「よく似合ってるじゃん」
「姫様からお褒めいただき、光栄ですわ!」
翌日。俺はパールに服を渡した。パールが元々着ていた服はドレスで、森の奥で暮らしたり炭家印したりするのには不向きだからな。
だから俺と同じポロシャツを錬金してプレゼントした。それとセンイガイで作ったローブにヨロイガイを素材にした装甲を張り付けた、魔法使い向けの防具も渡した。
ただ下半身は短パンではなく……。
「本当にミニスカートで良かったのか?」
「ええ、もちろんですわ! 動きやすいですし、姫様も……」
「俺も……なに?」
「い、いえ。別に何でもありませんわ」
一瞬欲望に染まった笑みを浮かべたような気がするが……。夢の中のコーリーの話を聞く限り、パンチラで俺を落とそうとか思っているんだろうなぁ。
そのパンツも俺が錬金で作った物だから、今更見ても俺は何も感じないと思う。多分。きっと。
「それで、武器は水の杖でいいんだっけ?」
「はい。わたくしの回復魔法と相性がいいので」
パールは回復魔法の使い手らしく、戦闘中によく出来る傷であれば治せるらしい。そして回復魔法の使い手は副次的に水魔法を使えるそう。
攻撃に使えるほど威力は無いが、傷の洗浄や患者への水分補給に使うそうだ。
そういうわけである程度水魔法の知識や使い方を知っているため、水の杖はパールにとって使いやすいんだそうだ。
「それにしても、姫様の貝使いはすごいですわね。食料は種類豊富、お洋服や武器、石鹸、ポーション、家まで作ってしまわれるとは……。転生してから身につけたのでしたっけ?」
「そう。転生特典としてな。これでもまだ成長途中だから、どんどん色んな物を作れると思うぜ?」
ちなみにコーリーが言った石鹸はアブラナメクジにチャッカタツムリ、貝殻を錬金して作る。アブラナメクジの油とチャッカタツムリで焼いた貝殻のアルカリ成分を合わせて作るようだ。
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アブラナメクジ
粘液の代わりに油を分泌するナメクジ。雑食性で食べたものから油分を抽出・吸収し、分泌する油の原料にする。錬金することで様々な油が作れる。
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ポーションはポーションシェルという貝と水を合わせて錬金する。治療や回復に詳しいパールが言うには、このポーションは心臓が止めっても10分以内であれば組成できる特級品で、王室でもそんなに数を持っていない代物だとか。
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ポーションシェル
薬効成分を多く含む二枚貝。薬草よりも濃度が高いため簡単に上級ポーションを作れてしまう。欠損部位があっても元に戻せる効果がある。
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「それじゃあ探索に行くか。パールの準備はいい?」
「はい!私の準備はバッチリですわ!」
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今日は拠点にしている湖から北の方面を探索する予定だ。
道中、狼っぽい魔物や鳥っぽい魔物に襲われたが……。
「ナタ一振りで倒してしまわれるとは……。さすがですわ、姫様!」
「いやぁ、俺ちょっと驚いてるんだけど……」
ハモノガイから錬金したナタで初めて戦ったが、あっさりと倒してしまった。貝使いの能力で召喚した会から作った道具は最初からベテラン並に使いこなせるが、初めて使う武器でまさかここまで出来るとは思わなかった。
それからしばらく歩いていたが、ここでふと気になった事をパールに聞いてみた。
「そういえばさ。パールは信じられないかもしれないけど、俺が憑依する前の、本来のコーリーが俺の意識の中で眠っているんだよね」
「まぁ、そうなんですの!?」
「ああ、最近になって夢の中で会話できるようになった。それでコーリーから聞いたんだが……言いにくいんだけど、君、コーリーの事を恋愛対象として見ているんだって?」
「う……姫様、わたくしの感情に気付いていらしたのですね……」
やっぱりそうなのか。コーリーから聞いた通りだったな。
ただ、俺が聞きたいのはここからだ。
「まぁ、パールが誰を好きになろうが問題は無い。ただパールも知っているように、今の俺は身体はコーリーだが中身はコーリーじゃない。そんな俺の事を、パールはどう思ってるんだ?」
「以前と変わらず、姫様のことが好きですわ。なぜなら、わたくしは姫様の肉体が好みですので!」
……おい。堂々とそんな身体目当てのクズ男みたいな事を言うな。俺が前世から女性でパールが男だったら、確実にビンタを食らわせている自信があるぞ。
「もちろん、暴力を振るうとかお金をせびるとか、そんな性格に問題があるのであればお断りですけど。でも今の姫様はそんなことなさらないでしょう? これでも人を見る目はそこそこあるつもりですの」
「うん……。まぁ、そこまで俺のことをよく言ってくれるのはちょっと恥ずかしいけどな……」
「わたくしが姫様の肉体に惚れたのは、初めて姫様とお風呂を共にしたときですわ。綺麗な髪に無駄な凹凸がないほぼ直線的な身体の線、無駄な毛が一切無い艶やかな肌、薄桃色でちょこんと乗っている乳頭に理想的な位置にある下腹部の谷!
あらゆる要素がわたくしの美的価値観にピッタリ当てはまって、頭から尾てい骨まで衝撃が走ったのですわ!!」
熱く語るパールに気圧されて何も返事出来なかったが、どうもパールはいわゆるボンッキュッボンとは対極の体型が好みらしいな。
「そして、わたくしの下腹部が熱く切なくなるのを感じたのですわ。そしてこう思ったのです。姫様のお体をもっと堪能したい。もっと言えば触ったり触られたりしたい、と!」
「は……?」
あまりの発言にさすがにドン引きする。最初は清楚な貴族のお嬢様だと思っていたが、まさかここまでストレートに欲望をさらけ出すとは……。
一緒の家で暮らすのがちょっと怖くなってきたな……。
「ですがまぁ、わたくしも姫様の意思に反して無理矢理自らの欲望を満たすのは本意ではありませんわ。こういうのはお互い納得し、後悔しない前提で行うのがわたくしのポリシーですから。
ですので姫様、もしそういう関係に興味が出てきたいつでも申しつけてください。精一杯、お相手いたしますわ」
そういう相手をしてもらうかどうかはさておき、夢の中でコーリーが言っていた『パールに相談するといい』という言葉の意味が、十分すぎるほど理解できた。
しばらく歩いていると、ある植物が群生しているのが目に付いた。
「なんだコレ? バネみたいな蔓がある植物と……伸縮性がある蔦?」
「それは『バネツル』と『ストレッチロープ』ですわね。一部の職人が時々部品として使っていると聞いた事がありますわ」
「へぇ。一応取っておくか」
面白い素材だと思ったので、俺とパールで協力して大量に採取した。それでもこの群生地の半分程度しか採取できなかったけど、枯渇させないという意味ではこれくらいで丁度良いだろう。
ちなみに、パールにはポシェットタイプのストレージバッグを渡してあるので収集活動は可能なのだ。
採取が終わる頃、日が傾いてきたので急いで拠点の家へと戻った。
そして後に、バネツルとストレッチロープを採取しておいて良かったと思うことになるとは、この時は考えてもみなかった。




