第17話 夢の世界の対話
「もしもーし、聞こえますかー?」
「うん? 誰かが俺を呼んでいる……?」
目を開けると、そこは真っ暗な空間だった。そして目の前にいるのは……?
「お、俺!?」
なんと、自分――『コーリー・ノーチラス』がいたのだ!!
ただ髪型や服装は異なっている。俺はポロシャツと短パンで髪を後ろで束ねているが、目の前のコーリーは白いワンピースにストレートヘア――俺がこの世界に来たときと同じ格好だったのだ。
「あなたと私の関係は複雑ですが、とりあえずこう挨拶しますね。初めまして、エルマリス王国王女、コーリー・ノーチラスです。よろしくお願いしますね」
「コーリー!? ということは、まさか……」
「はい。あなたが私の身体に憑依するまで実際に生きていた、『本来の』コーリー・ノーチラスです」
やっぱりそうか。俺と同じ姿で実際に着ていたファッションに身を包んでいるのにかなり気品を感じると思っていたが、そういうことか。
「今まで私の意識が完全に起きることはありませんでしたが、今ようやく完全に起きることが出来ました。身体の主導権はもう握ることは出来ませんが、こうして夢の中で対話するくらいは出来ます」
「夢? そういえば、今俺は寝ているんだっけか」
よくよく思い出してみれば、ベッドに潜って寝始めた覚えがあるわ。なるほど、確かにここは夢の中の空間だな。
「ちなみに、私が完全に起きる前にもあなたの夢に影響を与えることがありました。私の記憶を夢として見たはずですが……覚えてませんか?」
「もしかして……」
以前、めちゃくちゃ豪華な空間で二人の男女に逃亡を促された夢を見た覚えがあるが、まさかそれがコーリーの記憶!?
「クーデター軍がアクアリウムの王宮に迫ったときの光景ですね。あの後、私は護衛の騎士と共に舟で脱出したのです」
「舟で?」
「アクアリウムは国の中央にある巨大な湖『ブラキッシュ湖』に浮かぶ島に建てられた街です。なので舟で脱出し、ブラキッシュ湖に繋がるいくつかの河から南に流れる河を使って逃げようとしましたが、追手に攻撃され舟を破壊され、死にかけの状態で南の海岸――『ブリリアントビーチ』に流されたのです」
その後、俺がコーリーの身体に憑依した、と。なるほど、話の流れが大分わかってきたぞ。
「そうそう、この際なのであなたに言っておきたいことがあります」
「何だ?」
すると、コーリーは少し頬を染めて、こんなことを言い出した。
「お風呂の時とかお花摘みの時とか、女の子の大事な場所を触るときに一々感じるの、なんとかならないんですか!?」
「ちょっと待て!」
いきなり何言ってんだ、この王女は!?
「私、あなたの意識の奥で眠っているからあなたが何を考えたりとか感じたりしたとかがわかるんですよ。だから、今まで私が何も感じなかった行動で感じてしまうのが違和感というか、すごく恥ずかしいんです!」
「仕方が無いだろ! 俺だって身体のつくりが突然変わって、まだ慣れないんだからな!!」
「じゃあ早く慣れて下さい。それとあと1つ――」
え、まだ何かあるの?
「あなた、時々考えていますよね? 男性の象徴が生えてこないかなとか、男性の象徴が生えている女の子が見つからないかなとか」
「う……」
そこまで筒抜けだったとは……。確かに、俺は男。だから、その……女の子の身体に憑依したから、男の象徴が自分に生えるんじゃないかとか、ファンタジー世界なんだから男の象徴が生えている女の子がいるんじゃないかなとか、そういう願望が時々頭をよぎる。
「まぁ、別にそういう考え自体は否定しません。これでも淑女教育を受けてきた身ですから、男性のそういう考えを受け入れることくらい出来ます」
「うおお……、それはありがたい!」
流石王女。俺みたいな考えを否定しないでいてくれるなんて、優しいなぁ!
でもよく考えてみたら、すごい世界だな。11歳でそういう教育を受けているとは……。性教育については前世よりも進んでいるんじゃないか? 目的は前世と異なっているかもしれんが。
「あなたの希望が叶えられる見込みはありませんが、もし叶う見込みが出来たならパールに相談するといいですね」
「え、パールに?」
なぜこんな下世話すぎる話題でパールの話が出てくるんだ?
「あれは、8歳か9歳くらいの事だったでしょうか。同じ女性で遊び相手という事もあってパールと一緒にお風呂に入っていたときのことでした。パールの私を見る目つきが変わっていたのです。それから彼女の私に対する態度が変わりましたね」
「……つまり?」
俺はこの時点でコーリーが何を言いたいのか察したが、言葉にする勇気が無かった。しかしコーリーは一切躊躇せず言い放った。
「パールは私に対して、男性が女性に対する欲望と似たものを持っていると思います。事実、それ以来スキンシップが多くなりましたね」
「やっぱり……」
「さすがにそれ以上のことはしてきませんでしたが、許可が下りれば喜んでそれ以上のことをするでしょうね。なので、あなたの願いが叶うことがあればパールに相談してください。喜んで力を貸してくれるはずです」
うーん……。何というか、一言では表現できない複雑な気持ちになってしまった……。俺の願望の手助けしてくれそうなことに喜び半分、パールの本性を知って衝撃やら驚きやらが半分というか……。
というか、そもそも。
「パールが俺にそんな協力を喜んでしてくれるのか? 身体はコーリーだが、中身は別人なんだぜ、俺。そのこともパールは知ってるし」
「それは本人に直接聞いてみないとわかりません。ただ五年以上付き合ってきた者の勘として協力してくれそうだな、という事なので」
つまり明確な確証は無し、と。これは機会を見て直接聞いてみた方が良いかもな。ちょっと怖いけど。
「……そろそろ朝ですね。残念ですがあなたと私のおしゃべりは、今回はここまでのようです。
また会う機会があったら、あなたとお話ししたいですね」
「そうか。それじゃあな!」
「最後に一言。偶然とはいえ私の身を助けていただいて、そして大切な友人を助けていただいて、ありがとうございました」




