第16話 公爵令嬢との出会いとコーリーの正体
「アクアリウムが陥落し、姫様も行方不明になってしまったと聞き心配しておりましたが――こうして再会できてうれしいですわ!」
「ちょ……ちょっと待って。まず色々と確認させて欲しいんだけど、『姫様』って俺のこと?」
「『俺』!? それに口調が……」
なんだかお互いに混乱してきた。ハミットと相談した結果、まず俺の素性と憑依してしまった事実を伝えた方が良いということになった。
「とりあえず、俺のことから説明するよ。俺の名前は『コーリー・ノーチラス』。だけど完全にコーリーというわけでもないんだ」
「それは……どういうことでしょう?」
「信じられないかもしれないけど、俺、違う世界で死んでこの世界に流れてきた転生者なんだよね。どうも死にかけの人間に憑依する形で転生したみたいで、コーリーの身体に憑依したっぽいんだ」
「あの姫様が、そんな……」
姫に憑依したと言われてもピンとこない様子の女の子。まあ当然か。
「ちなみに転生前は男だった。だから男っぽい口調が抜けないんだ」
「なるほど……。確かに信じられない話ではありますが、元男性の転生者だと考えれば今の状況に説明はつきますわね……。髪型や服装は変わっても、顔の輪郭や髪の色艶、匂いも姫様のものですし……」
ん? 匂い? 気になる言葉が出たが、女の子が改まって自己紹介をしたので流してしまった。
「それでは改めて自己紹介ですわ。オイスター公爵家令嬢、パール・オイスターと申します。姫様と同い年であり、貴族最高位の公爵家の者でもあるので幼き時より姫様の遊び相手と友人を務めておりましたわ。改めてよろしくお願いしますわ、姫様」
それからは、パールから色々と教えてもらった。まず俺――『コーリー・ノーチラス』の素性についてだが……。
「この国の王女ぉ!?」
「はい。エルマリス王国国王の第一王女、それが姫様の肩書きですわ。ちなみに国王陛下の子供は姫様しかおりませんので、姫様がいなくなると大変なことになりますわ」
とんでもない経歴の持ち主だった……。でも、そうだとすると気になる点がある。
「俺、この森に来る前に騎士団っぽい連中に襲われたんだけど、なんで王女を襲うんだ? そもそも、俺――というかこの身体だけど、なんで南の海岸で死にかけていたんだ?」
「まぁ、追手から逃げ切れたのですわね! 幸運ですわ! その点につきましては説明するのは簡単です。クーデターが起きたんですの」
「クーデター!?」
パールの説明によると、国王の重臣を代々務めていたアンモーン家の四男、『ディノフィス・アンモーン』が突然クーデターを起こし、瞬く間にエルマリス王国の首都『アクアリウム』を占拠。そのままの勢いでエルマリス王国のほぼ全域を掌握してしまったらしい。
「手際の良さからかなり周到に準備をしていたと思いますが――。とにかく、今の姫様は高額な賞金首をかけられている状態ですわ。人里に出るのは、慎重になさった方がよろしいかと」
「そうか……。ところで、パールが森の中で倒れていたのも……」
「はい。オイスター領でもクーデター軍が攻めてきて、両親が命からがらわたくしを逃がしてくれたのですわ。それで人目を避けようと、この『エメラルドの森』に入り込んで行き倒れた、という訳ですわ……」
その後、俺に発見され保護されたと。
そしてこの森の名前がわかったな。『エメラルドの森』。どうやらエルマリス王国でも有数の広大かつ深い森で、未だ森の全てが踏破されていないことから樹海に近い扱いらしい。
「ところで、パールの両親は……」
「おそらく殺されたと思いますわ。生かして利用するよりも殺した方がクーデター軍にとって得ですから」
「そうか……。つらい話をさせてしまったな」
「お気になさらず。むしろ、国王夫妻の最期の方が悲惨ですわ。首をはねて長い間さらし首にして、国中に国王と王妃の死とクーデター軍の力を誇示したのですから」
ああ、それは確かに嫌だな。戦闘中に首を切ったのか処刑するように斬首したのかわからないが、さらし首なんて遺体の扱いとしては悪い部類だろう。
さて、他にも色々と聞きたいことがあるが、パールも疲れてしまうだろう。事実、行き倒れていたんだからな。
「パールもおいそれと人里に出られない身になったことはわかった。だから提案だが――俺と一緒に暮らさないか? 生活したり戦う上で便利な力が合って、この家もその力で作ったんだ。まぁ、中身男の俺と一緒に暮らすのは嫌かもしれないが……」
「いえ、そんなことはありません。わたくしは姫様に命を預けた身。この身、全ては姫に仕えるためですわ! それに、中身が殿方の方が色々と都合が……」
「うん? 何か言った?」
「何でもありませんわ! とにかく、ふつつか者でございますが、どうぞよろしくお願いしますわ!!」
ちょっと小声で何言ってるかわからない部分はあったが、パールと同居することが決まったのだった。




