第11話 生き残りバトル
舟で漁を始めてから数日が経った。最初からベテラン並の技術で投網を使っていたが、今ではさらに上達している。もう老練な漁師レベルの技量だろう。
時刻は夕方。そろそろ夕食の準備かなーと思い浜辺からテントに入ろうとしたところ、ハミットがかなり真剣な様子で俺を呼び止めた。
「マスター、何か近づいている音がします。馬の蹄の音のようです」
「馬の蹄? 誰かが近づいているって事か?」
「はい。それも数人ではありません。数十人です」
それは――どうなんだろう? いずれはこの世界の人達と交流を持ちたいと考えてはいるが、この出会いは果たして吉と出るか凶と出るか……。
「とにかく、警戒して対応しましょう。友好的でない場合を想定し、慎重に対応するのです」「ああ、わかった」
しばらくすると、陸の方から数十人の馬に乗った人達がやって来た。全員揃った鎧を着用しており、剣や槍、弓などを持っている。明らかに兵士の身なりだ。
この一団のリーダーらしき20代くらいの男が前に出てきて、叫んだ。
「見つけたぞ、コーリー・ノーチラス!!」
……コーリー・ノーチラス? それって誰?
「マスターの事ですよ。最初にその身体の名前について教えたでしょう」
「そういえばそうだった」
今まで話し相手はハミットしかいなかったし、ハミットは俺のことを『マスター』としか呼ばないから自分の名前のことをすっかり忘れていたな。
そして、目の前の男は俺のことを探しているらしい。保護しようっていう雰囲気ではないが。
「王宮からうまく逃げ出せたようだが、このシェルドン様から逃げられると思うなよ?」
この男の名前は『シェルドン』と言うらしい。そして理由はわからないが、追手として俺の行方を追跡していた……と。
「おとなしくオレ様についてディノフィス様のところに行くんだったら乱暴はしない。だが抵抗したり逃げようとすれば、少々痛い目に遭ってもらう」
「その大人数で俺のことを輪姦しようっての?」
「り、りんか……? お前、いつの間にそんな下品な言葉を使うようになったんだ!? あんな上品な姫様っぽかったのに!」
お、シェルドンが動揺している。俺、そんな変なこと言ったかな……?とにかく、あいつの言葉から察するに俺を捕まえてディノフィスとかいう男だか女だがに差し出すつもりなのか。
つまりこれは悪い出会い――それも最悪の部類に入る出会いだ!!
「せっかく人生やり直し出来るチャンスなんだ! こんなところで知らない誰かに捕まるなんてゴメンだね!!」
俺はストレージバッグから炎の杖を取り出し、炎の玉を発射。砂にぶつけて爆散させた!!
「魔法……いや魔導具か! あんなものを持っているなんて情報は聞いてないぞ!!」
シェルドンは何かわめいているようだが気にしない。それよりも今は、炎の玉の爆散で砂が煙幕になっている間に、迎え撃つ態勢を整えることが先決だ。
「よし、砂が落ち着いてきたな……これは!?」
敵が驚くのも無理はないだろう。なにせいつの間にか貝殻で出来た巨大な壁、しかもしっかり凍結している壁が出来ていたのだから。
貝使いの能力で貝殻を積み上げ、氷の杖でガッチリ凍らせただけなので結構速くできあがった。
「迂回している時間は……ないか。仕方ない、全力で壁に穴を空けろ!!」
どうやら敵は、壁を必死に攻撃して壊そうとしているらしい。
「マスター、おそらくあの壁は長く持ちません。敵の中に炎や雷の魔法を使う者がいて、一時間もすれば破壊されるかと」
「ってことは、逃げるしかないか……」
とっさに作っただけだからな。敵に破壊力を持つ者や手段があれば壊されるか……。せっかく快適になりつつあり生活に慣れてきた拠点で非常に惜しいが、命には代えられない。
正確に言えば俺を捕まえるのが目的らしいが、捕まったところでロクな目に合わないと思う。
俺は海岸に撒いていた貝を送還し、自動海水浄水装置をストレージバッグに収納。テントは縮めて収納。トイレと浴室も同様に収納――する前に、ある事を思いついた。
「マスター、排水栓に手をかけてどうしたんです?」
「ちょっと良いことを思いついたんだ」
トイレや浴室の外にある排水栓は、実は二種類ある。1つは水だけを抜く小さい栓、もう1つは中に入っているロカカキごと排出する大きい栓だ。
俺は大きい方の栓を外し、ロカカキを排出。そのまま送還していなかったレンキンガイに移動させた。さらにセンイガイを召喚し同じくレンキンガイに投入した。
「ハミット、小さい紙の包みでロカカキの粉末を入れた物を錬金出来るか?」
「――なるほど、マスターの狙いがわかりました」
少しして、手のひらに収まるサイズの紙の包みが排出された。
その瞬間、ボコッという重い物が砕かれた音が響いた。音がした方向を見てみると、貝殻の壁に大人の腕一本分の穴が空いていた。
「丁度良い。あの穴に向けて、シュート!!」
俺は壁の穴を通すように紙の包みを投げつけた。壁を通り抜けた辺りでポンッという包みが弾けた音が聞こえた。
「何だ、粉末?」
「うわっ、クセぇ!!」
「なんか身体が、だるい……」
当たり前だ。あの紙の包みに入っていたのはロカカキの粉末。しかも俺がここで生活してからずっと汚れやら毒やらをため込んできたロカカキだ。だからその粉末は毒そのもの。即効性はないが少々体調が悪くなる程度には効果があるぞ。
名付けるなら『簡易毒爆弾』だろうか。
効果を見届けた俺は、トイレと浴室を収納した。そしてレンキンガイを送還しようとした矢先。
「マスター、私も思いつきました。先程の簡易毒爆弾のチャッカタツムリ版を作りましょう」
「いいね。『簡易爆弾』か」
俺はハミットの提案に乗り、チャッカタツムリとセンイガイをレンキンガイに投入。そして先程と同じような紙の包みが出てきた。俺はそれを周囲にばら撒くとレンキンガイを送還。モーターボートに乗り込んだ。
「よし、壁が壊れた! ……な、舟だと!? 待て……うわっ!?」
俺がモーターボートに乗ったと同時に、壁が壊れた。そこからシェルドン達がなだれ込むが、ボンッ!! という派手な爆発により兵士や馬がパニックになり、海岸はカオスな状況になった。
もちろん、爆発の正体はさっき急いで作った簡易爆弾による物だ。もう日が暮れつつあるので足下が見えづらく、簡易爆弾の所在に気付いていないのだろう。
「あばよストーカー。もう二度と追ってくるんじゃねーぞ!」
「おい待て逃げるな……ウッ!?」
あ、爆発をもろに食らった。だが、俺のことを狙っているヤツがどうなろうか知ったこっちゃ無いし自業自得だと思っている。
俺はモーターボートを操作し、大海原へ逃げ去った。




