第10話 漁師デビュー?
翌日の朝、ハミットからこんなことを言われた。
「マスター。魚を食べたくはありませんか?」
「魚かぁ……」
この世界に転生してから、まだ魚を口にしていなかった。基本的に食事は召喚した貝や貝を錬金した食材だけだからなぁ……。
それにせっかく海に拠点を構えているのだから、魚を食べたいという気持ちもある。
「賛成だぜ、ハミット」
「かしこまりました。では、魚を捕る道具を作りましょう」
「魚を捕る道具かぁ……。釣り竿とか?」
「違います。釣りも結構ですが、考えたり用意しなければならないことが多く現状では限界があります」
ハミットの説明では、釣りは魚の生態を知り尽くさないと成功させるのは難しいらしい。餌を使うのかルアーにするのか、餌ならどういう餌を使うべきなのか、ルアーの形状や動かし方はどうすべきかなどなど。
とにかく生息している魚の生態がある程度わかっていないと難しいそうだ。
「なので、魚を捕る道具はそういった複雑なことを無視出来る物にしましょう。投網です」
確かに、投網なら泳いでいる魚を捕まえられる。岩陰とかに潜む魚を捕らえることは出来ないが、活動さえしていれば魚種をあまり気にせず使えるな。
「それで、どんな風に作るんだ?」
「センイガイを素材に錬金します」
ということでセンイガイから投網を錬金したわけだが、結構小ぶりな網ができあがった。俺一人分の魚を捕る程度なら、この大きさで十分なのだろう。
それにかなり丈夫な網らしく、ちょっとやそっとじゃ破けないらしい。これなら魚が網を壊して逃げてしまう心配もなさそうだな。
「で、どこで投網を使うんだ? 磯の上とか?」
「それもいいですが、少し沖に出てみましょう」
「沖? どうやって沖に出るんだ?」
「舟を使います。錬金して作ってみましょう」
ハミットから指示された素材は貝殻、モーターガイ、デンチガイ。これを錬金すると――。
「出来ました。これが舟です」
「おお、確かに舟だ……」
出来上がったのは貝殻製の小舟だ。6人乗っても余裕があるほどのサイズで、船体の後ろにモーター動力を搭載している。
よく見ると船外機型のモーターで、船外機のスクリューの角度を直接操作してコントロールするタイプだ。ハミットが言うには『モーターボート』らしい。
「漁へ出る前に、もう1つ必要な物があります。氷です」
「ああ、魚の保存に必要だからな」
おそらく魚の種類によるだろうが、魚を捕った後に氷水の中に入れて仮死状態にした方が、鮮度が落ちないそうだ。そのためには『氷』が必要らしい。
「貝殻とコオリガイを召喚して下さい」
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コオリガイ
氷を纏う巻貝。殻が非常に柔らかく薄い代わりに冷気を発し、周りの水を氷にして殻を補強している。殻や氷が氷属性の魔石そのものになっている。
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貝殻とコオリガイを錬金すると、コオリガイの殻が先端に付いた杖が出てきた。どことなく炎の杖と似ている。
「『氷の杖』です。炎の杖の氷属性版だと思って下さい」
「これを使って氷を出すんだな」
「それとバケツを用意しましょう。そしたら漁に出発です」
「いいけど、漁場を知っているのか?」
魚は海の中であればどこでも取れると思われがちだが、実は魚が集まるポイント以外は何もない。何なら生物の気配すらない。
だから漁師の人達は必死で漁場を探したり魚礁を作ったりしているのだ。ネットの動画で知った事だが。
「大丈夫です。近辺の海流や海鳥の動きなどから漁場になり得そうな場所を見つけてあります」
「……すげぇなお前」
これでデリカシーがない発言をしなければ完璧なんだけどな。
そんなわけで、俺達は魚を捕りにモーターボートに乗り漁へ出たわけだが。
「俺、船外機どころかモーターボート自体乗るの初めてなんだけどさ、なんか何年も乗ったみたいに動かせるんだが!?」
「『貝使い』のプラス補正ですね。貝使いの能力で作った道具を使う際、ベテラン並に使いこなす事が出来るので」
なるほど……。だからモーターボートを身体の一部かのように動かせるのか。そういえば炎の杖を初めて使ったとき、妙に使い慣れている感覚があったが、『貝使い』の恩恵だったんだな。
さて、漁場に到着して船外機を止めると、俺は早速投網を投げ込んだ。やはり『貝使い』の恩恵だろうか、投網をどうやって投げるのか、どのタイミングで引き上げるかなど、まるで身体が覚えているかのように自然に動かせる。
「お、結構取れたな。どんな魚かは知らないけど……」
「どれも食用魚ですね。何回か取れたら拠点に戻りましょう」
「了解」
思ったより簡単に魚が捕れるので、調子に乗ってどんどん投網を投げ込む。捕獲した魚は海水に氷を入れたバケツに入れて仮死状態にする。
20匹程度取れたくらいで拠点に戻った。
拠点のテントに戻ると、俺は魚を捌きにかかった。
魚は三枚下ろしにし、塩焼きにして食べる。魚の下ろし方はネット動画で見ていたからあらましは知っている。うまく出来るかどうかわからなかったが、包丁はレンキンガイの錬金で作ったからな。貝使いの恩恵で上手く扱えた。
「うん、いい出来だ。醤油があればなお良いんだけどな」
「作る材料が無いですからね」
まぁ、今は食生活が少し豊かになったことを喜ぼう。ちなみに刺身は食べる気にはなれなかった。生で食べていい魚かわからないし、万が一食中毒になったら治す手段が無いからな。




