48 倫子はショックを受けたがまひろに道長を頼む。そして再び旅へ。
ドラマのネタバレをしてますので、お嫌なかたは回れ右を。
私見がかなり入ってますので、それも嫌な方は回れ右を。
第四十八回 物語の先に
「お、ロールケーキか」
トレイの上のケーキを見て、梅里様が目を輝かせる。もうすぐクリスマスなのでブッシュ・ド・ノエルにしようか迷ったのだけど、シンプルにココア生地にガナシュのチョコロールです。生地が少し固めで厚めなのが特徴。アクセントにマーマレードを使用。
「はい。厚さのリクエストがありますか?」
言ったとたん、梅里様の目がさらにキラキラになる。
「あのな、これくらい」
ほぼ直径と同じほどの厚さをリクエスト。うん、分かる気はします。
ナイフでリクエスト通りにカットして、皿に載せる。今回の飲み物は紅茶だ。アールグレイ。個人的にチョコと合うと思っている。
私は梅里様の半分の厚さにして、皿に載せる。さて。
「倫子(ともこ)は、気づいてないと思っていた?と言ったあと、まひろが土御門殿に来てからの道長の様子が変わったことを言って、誰もが気づいていることを伝える」
厚めのひと切れを食べ終わり、紅茶を飲んだ後、梅里様はそう話し始めた。最終回だ。
「そして、妾になってくれないか、と言う。そして重ねて、いつからなの、と問う」
いつからなの、か。
「まひろは迷うように黙り、観念したように、初めて会ったのは九つの時だったと伝える」
そこから話すのか…
「そして、母親を道兼に殺されたこと、直秀(なおひで)が殺され一緒に弔ったこと、悲しみを分かち合えるのは互いしかいなかったと伝える」
それを話すのか…。
「倫子は、九つと聞いた時に、驚きを見せていた。おそらくそんなに昔からとは思っていなかったのだろう。そして、悲しみを分かち合えるのは互いしかいなかったという言葉を聞いて、漢詩の件に思い至ったらしい。あれはまひろが書いたものかと確認をする。まひろが頷いたのを見て、彰子(あきこ)はこのことを知っているの、と言い出す」
ああ、怒り、だ。
「そして、どういう気持ちであの子のそばにいたのかと、本心を隠して私から彰子を奪っていったのねと、言い出す。あれは、八つ当たりだ」
うん、と頷く。
道長の心の中に居る誰かがまひろだとは考えてもいなかったのだろう。だから、いつからなの、と聞いた。しつこく。道長の様子が変わっても、それは近くにいるからだと、嫡妻の余裕を見せたのか。妾にならないか、と言ったのは。
「そして、他に隠していることはないかを確認して、このことは胸にしまって生きてくださいと話を終わらせる。妾の話は棚上げだ」
それでも、冷静さを取り戻した、ということか。
「倫子のところから退出して帰り際に賢子(かたこ)に会う」
「あ」
「そう、まひろは賢子のことは倫子に伝えていない」
「バレたら恐いですね…」
「そうだな…」
梅里様も遠い目をした。
「このあと道長の具合が悪くなるんだが、その間に、四番目の娘である嬉子(よしこ)が東宮に入内し、皇子を産むが、その二日後に亡くなってしまう。出家した顕信(あきのぶ)、三条帝の中宮だった姸子(きよこ)も亡くなっている。それから、ききょうと仲直りしたようだぞ」
「わ、本当ですか」
「うん。まひろの家に来て互いに自画自賛し合っていた。やはり二人が一緒にいるのはいいな。その直前も面白かったな。若い娘がまひろに源氏の物語について語ってるんだ。この作者は…とか言っているんだ。あきらかに、まひろが本人だとは気づいていない」
「なんでそんなことになっちゃってるんですか…」
「なんか、市で本を落としたのをまひろが拾ったらしい。それが源氏の物語で、いつの間にか家にまで来て読んで聞かせてくれるようになったらしい」
「え、自分が作者だって知らせないんですか?」
「ききょうも同じことをきいていたぞ。知らせないほうが面白いとまひろは言っていたな」
面白い……
「ちなみにこの娘は『更級日記』の作者である菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)らしい。源氏物語オタクだったらしいぞ」
昔からあったのか…
「この時に、乙丸(おとまる)は庭で仏像を彫っていて、働いている女が映るんだが、それがきぬではない。おそらく亡くなっている。あ、まひろの髪にも白いものが増えているし、ききょうも年寄りな動きだ。大宰府から帰ってきて、かなりの年月が経っているようだ」
「百舌彦(もずひこ)がまひろの元を訪れる。倫子の使いだ。道長の具合が悪いことは少し前に隆家(たかいえ)から聞いている。知ったとしても、押しかけるわけにはいかぬからきっと心配していたであろう。そこへ倫子からの使いだ。まひろが行くと、倫子は道長が読経を止めるように言ったと言う」
「読経って、当時は一種の治療ですよね、確か」
物の怪が憑いて病になると考えられていたような…
「うん、おそらく治療を諦めたのだろう。この後まひろに語るのだが、晴明(はるあきら)に寿命を十年やったことを何度も悔やんだと言っている。だが、寿命はここまでだ、と思うようになったらしい。倫子は道長の言葉を聞いて、まひろの顔が浮かんだそうだ。どうか、道長の魂を繋ぎとめて欲しいと頼む」
そう、倫子は、道長の為に何が一番良いかを選択できる女。それだけの度量を持った女。
「まひろが道長の元を訪れると、道長の目はもう見えていなかった。声も弱々しい。まひろが、倫子の許しを得ていることを伝え会いたかったと言うと、手を投げ出すようにまひろに差し出す。もう、体のコントロールもままならないんだな。まひろはその手を両手で包んで、声を殺して泣く。それで、道長が言うんだ。新しい物語があれば、それを楽しみに生きていられるかもしれない、と。まひろは、ではそれを世に広めてください、と言う。道長が、まひろはいつも俺にきびしい、と言ったところに倫子が『そろそろ』と声をかけてくる。まひろは、『明日、また』と声をかけて帰る」
ああ、道長の死を描くのか。このドラマは。
「薬湯を飲ませたりもしているから、話すだけではなく、身の回りの世話もしているのかもしれない。このあと、まひろは毎日、道長のもとを訪れ、新しい物語を毎日語る。そして、『明日、また』と言って終わる。ある夜、雪が降っているのにまひろが気づく。寒いかと道長に問うと、生きることはもういい、と返してくる。涙をこらえ、気持ちを落ち着けてから、物語の続きを語るのだが、気づくと道長が目を閉じている。眠ったのかそれとも、という不安がまひろの顔に表れる。『続きは、また、明日』と言うと、道長が目を開ける。ほっとして帰るのだが、明け方頃か、倫子が様子を見に来て、道長の死に気づく。まひろは自宅にいる時に、若い頃の道長の声で名を呼ばれ、逝ってしまったことに気づく」
うう。涙が出てくる。
「本当は、語るのをここで終わらせておきたいほどだったのだが」
小さく息をつき、梅里様が言う。
「ドラマはここでは終わらない。これは、まひろの物語だからな。まひろはこの後旅に出るのだが、道長の死の後のことも少し描かれる。まず、行成が同日に死ぬ。史実らしい。それから、彰子(あきこ)は立派に成長し、未だ皇子のいない帝に新たな女御をという頼宗(よりむね)に、他家の姫が皇子を産むことは良くないと、言う」
「ええとそれは、道長の血筋以外を入れたくない、ということですか」
「うん、そうだな。天皇の外戚は政治的力を持つ。それを避けたいということだ」
彰子、立派になったね…
「あと、まひろの家だが、為時(ためとき)はまだ健在だ。いとは認知症なのか、惟規(のぶのり)がまだ生きていると思っていて探している。皆それに慣れていて、まひろは『そこにいる』と為時を指す。為時も、今日は休みだなどと答える。いとはそれで満足する」
ああ、優しい人たちだ。
「まひろは、自分の詠んだ歌をまとめたものを賢子に渡して、旅に出る。途中、双寿丸に会う。東で戦が始まったのだと言う。そして、『道長様、嵐が来るわ』と言い、それでも歩き始めるまひろを映し、画面を静止させて終わる」
「え、不穏ですね?」
「うん。まひろの最後のセリフも不穏なんだが、最後の静止画が五秒くらいあるんだ。六時からの少し早い放送でも、本放送でも、再放送でもそうだったから、もうこれは放送事故ではないのだろう」
放送事故とまで言うということは、それくらい不自然に感じる静止画だったということか。
「だが、まひろの決意を表すようでもあった。十五分延長の放送だったが、満足だ」
本当に満足そうに言う。
「それはなによりです」
「ということで、お代わりだ」
じっとロールケーキを見つめた梅里様は、やはり同じだけの幅を指示する。厚いのが好きなんですね…
「はい。承知しました」
私はやっぱり梅里様の半分で。
「あとな、総集編が二十九日の昼からある」
「そうですか」
「今日は二十一日だ。あと七日しかない」
「……? そうですね?」
「全四十八話だから、一日七話は観ないとダメだぞ」
「え、総集編観るんですか? もしかして、私も一緒に?!」
「当たり前だろう!」
「無理ですよ。一日に七話も観られません。時間の問題じゃなくて、多分気力が持ちません」
だって、毎回聞いてるだけで盛沢山なんだもの。
「大丈夫だ」
「根拠がありませんよ」
意味不明な『大丈夫』に切り返すと、実に悲し気な五歳児の顔になった。
「そんな顔したって、無駄ですからねっ」
梅里様は何も話さない。ただ、いたいけな五歳児のまなざしを向けてくるだけだ。
「え、だって、どう考えても…」
どんどん気弱になってしまう。でも、下手に頷くわけにはいかないのだ。
負けないぞと心を強く持って、梅里様とにらめっこをするのだった。




