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大河ドラマと梅里様  作者: 今西薫
39/50

38 ききょうの嫌味は通じない。敦康元服を嫌がる。彰子に甘える様子に道長は藤壺と光る君を連想。伊周ヒトガタを食べる

ドラマのネタバレをしてますので、お嫌なかたは回れ右を。

私見がかなり入ってますので、それも嫌な方は回れ右を。

第三十八回 まぶしき闇


「ん?」

 皿の上のものを見て、梅里ばいり様は首を傾げる。まあ、はい。気持ちは分かります。

「仕方ないです。栗を貰ってしまったので」

 冷凍しておけば良いといえばそうなのだけど、栗ご飯も食べたかったのだから仕方ないのです。栗ご飯を食べるために栗の皮を剥くついでです。ついで。

「ふーん」

「私も悩んだんです。ホワイトチョコも用意してあるので作るつもりだったのだけど、栗のほうが優先度が高いです。時季モノ大切です」

 嘘はない。嘘はないけど、気分が足りなかったというのもある。

「まあ、渋皮煮も好きだから良いが」

「ほっこり炊けてますよ」

 つまようじで切れるほどの柔らかさだ。今回は柔らかく煮ることができた。うん。

 皿の上に大きめの栗が二つ。黒っぽい色になっているのは重曹のせいだ。重曹と栗の成分が反応して黒っぽい色になる。黒といっても赤が濃くなって黒っぽく見える感じだ。どんぐりでピンクに染まるという話を聞いたことがあるけど、初めて渋皮煮を作った時に納得したものだ。

「あ、本当だ」

 つまようじで二つに割り、片方に刺して口に入れる。その表情で気に入って貰えたことが分かる。飲み物は玄米茶。

 梅里様はペロリと平らげた。



「前回の終わりに、内裏のまひろの所にききょうがやってきた。光る君の物語を読んだと告げて、待て次回だったのだが、ききょうの表情が実に見事でな」

「……はい?」

 表情? 内容ではなく、表情?

「前回の最後では険しい表情だったのが、今回の始まりは、険しい顔だったのが笑顔に変わるんだ。一瞬、挨拶までは表情を表に出してなかっただけではないかと錯覚するようなそんな表情だ。まひろも、ききょうの表情に緊張していたのだが、気を抜く。そこで作品を褒め、それを考え出したまひろは根が暗い、と続ける」

「ええと、ききょうは、きっと怒ってるんですよね?」

「うん。怒っている。だが、この『根が暗い』という言葉は、源氏物語を書き出す前に、惟規(のぶのり)に言われていた言葉でな、まひろは特に嫌味だとは感じない」

「……そういえば、自分はどんな人間かって聞いたんでしたっけ」

「そう。まひろの中でききょうは、自分と同じく文章を書く人間だ。おそらくだから、嫌味の意味で使ったのではないと思ったのだろう。ききょうは気をとりなおして、内容に触れる。そこでは光る君に気持ち悪さをこき下ろす。まひろは、深く読み込んでもらえたことを素直に喜ぶ」

「暖簾に腕押し…」

「うん。何を言っても通じないのに業を煮やしたのか、ききょうは、この物語を書いた理由を問う。道長に、帝の中の枕草子を消すように言われたのか、と。ようやくまひろは少し気づいたようで、言葉を選びながら、帝の心をとらえるような物語を書きたいと思った、と告げる」

「まひろって、鈍いですよね…」

「それだよな…」



「数日後の夜、まひろが月を見上げる。そこへ宮の宣旨(みやのせんじ)がやってくる。宮の宣旨というのは、彰子(あきこ)に仕える女房のトップだ。まひろが月を度々見上げていることを知っていたのだろう。いつも何を考えて見上げるのか訊いてくる。まひろは、その時々で違うが、と前置きしてその時の気持ちを伝える。宮の宣旨は、まひろが何かを迷っているように見えたのかもしれぬな。なんのために宮中で働いているのかと訊ねる。帝と中宮のためと答えると、生きるためだろう、と言われる。物語を書くだけなら、家で書けばいいが、そうしないのは働かなくては生きていけないからだろう、と」

「宮の宣旨、いい人ですね」

 確か、まひろは家で書いて渡すと言ったはず。道長に。それを却下したのが道長だ。強く出なかったのは、やはり生きていくためなのだろう。宣孝(のぶたか)が死に、収入がなければ生きていけないという現実は、貧乏時代をよく知っているまひろには切実だ。栄華とか名誉とかそんなものより、何よりも生活が大切だということは。

「うん。そしてな、娘と上手くいってないのでは、と言う。きっとありがちなことなのだろう。何故分かるのかとまひろは驚いていたがな。宮の宣旨は、親子でも夫婦でも、分かり合うのは難しいことではないかと言う」

「無茶苦茶いい人ですね」

「そうなんだ。まひろの中の本当の悩みがどうかは、宮の宣旨ももちろん分かっていないのだとは思う。だが、口にする言葉から、いくつかの小さな悩みは推しはかれるのだろう。それを多少なりとも軽くするための言葉をかけることはできる、そしてまひろがそれを受け取れる人間であることも分かっているということなのだろうと思う」



「まひろがらみの話は、あとは為時(ためとき)が臨時の除目により任官される。道長がやってきたときに、まひろは礼を言うんだが、その時に、賢子(かたこ)がもうすぐ裳着だと告げ、何か記念になるものを貰えないかと告げるんだ」

「ああ、本当の父親に」

「うん。だが、この時の道長の様子がな、気づいてないようなのだ」

「え?」

 あれ? 若紫の時に藤壺の不義の話になって、自分の体験したことだとか言ってなかったっけ?

「まひろも、気づいてないのか、という表情をしたように思う。だが道長は、まひろの子なら、きっと賢いから、女房として藤壺に召し上げようと言い出す。まひろは即答を避け、人気者になりそうな女房として、あかねを紹介するんだが」

 あかねって、ええと和泉式部だっけ?

「ああ、和泉式部だな。このあと挨拶に来て、そこで和泉式部と名付けられるんだ。……まあそれはいいとして、為時の任官について、為時といとも話をしている。越前の守からあと、道長の家で家庭教師はしていたが、任官はされていない。ずっと無官だ。それがここにきての任官だからな、これはきっと『あれ』(まひろがらみ)だろうと二人は話す。そこへ、賢子が帰ってきて、『あれ』って何、と問う」

「おお」

 プチピンチだ。

「まあ、二人はごまかすが」

 そりゃそうか。



「道長は、息子頼道(よりみち)に次の東宮は敦康(あつやす)ではなく、敦成(あつなり)にしなければならない。それが民のためだと告げる」

「民の為?」

「良い政治をするためには、自分たちの邪魔をしない帝が必要ということだな」

「詭弁…」

「本人はそれが正しい道だと信じている」

 ちょっと怖いかもしれない…

「最後は、伊周か」

 ため息とともに梅里様は言う。

 そんな、最後の連絡みたいに言わなくてもいいんですよーと心の中で伝えてみる。

「敦成の寝所の縁の下から呪符が見つかってな。呪詛をした僧が捕まり、そこから伊周の縁者が呪詛を依頼したことが分かった」

「縁者って伊周の母の妹とかいう」

「そこまでは言わなかったが、まあそうだろう。伊周をせかしても何も変わらぬので、業を煮やしたのだろう。依頼者は死罪、僧は還俗させて同罪、伊周自身は出仕停止となった。帝は伊周自身には罪は無いのではと言うが、道長は皆に白い目で見られるのは本人も辛いだろうと温情だと言う」

「温情…」

「実際、伊周の扱いは陣定(じんのさだめ)でも困ったようでな。道長が帝に言うには、重くしすぎて恨みを買わないためというのもあるらしい」

 実際のところはどうなんだろう…。

「呪詛の件が皆に知らされると、隆家(たかいえ)も驚いて伊周の元を訪れる。部屋に入ると、いつものように呪詛をしていて、呪符の木でできたヒトガタを噛み砕く。もう、正気はないかと思うほどだ」

「様子もおかしいんですか」

「目つきがな、理知的な光がまるでない。しばらくして出仕が許されて、伊周は道長の元を訪れる。そして、第一の皇子である敦康を次の東宮へと強く言う。道長は答えず、どうして内裏に来なかったのかと理由を問うと、おまえのせいだと言うんだ。はじめは呟くような小さな声だったが、気が高ぶってきたのだろう、どんどん大きな声になり、懐に入れていた呪符がどさどさと床に落ちる」

「呪符が」

「呪詛は大罪なのだそうだ。SNSによると」

 梅里様はため息をつく。

「伊周は連れ去られる。道長は沈鬱な面持ちでそれを見送るんが、それをまひろに見られていたことに気づく」

「まひろが、見ていたんですか」

 直秀のような人の出ないような世の中を作ってと言われた、その人に。

「不甲斐ない姿を見られたと、照れ笑いも出来ないような状態であったな」



「お代わり、しますか?」

 あらかた話終わったのだろう、皿をじっと見てからこちらを見た。

「うん。抹茶が飲みたいぞ」

「抹茶ですか。それも良いですね」

 ちなみに茶道の心得は私にはない。でも単なる飲み物として抹茶を点てることは普通にある。抹茶と渋皮煮というのは、なんだか渋い組み合わせだ。でも、ステキだ。

「じゃあ、少しお待ちくださいね」

 私は立ち上がった。


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