37 豪華本作成! まひろ実家でどん引きされる。自分を大切にすれば弟を大切にするよと敦康。藤壺に盗賊
ドラマのネタバレをしてますので、お嫌なかたは回れ右を。
私見がかなり入ってますので、それも嫌な方は回れ右を。
第三十七回 波紋
「今日もおからのケーキじゃないのか?」
「バターではなくてオイルを使ったパウンドケーキです。紅茶ですよ」
「………」
なんですかその目は。
「ホワイトチョコが気になってるんです。バターベースにすると重くなるしホワイトチョコの風味が消えるんです。なのでオイルで作ってみては、と思ったんです」
「うん?」
「この間のマーブルの時は、バターが入ってたんです。油分の半量ですけど」
そこまで言うと、梅里様は納得がいったようだった。
「ああ、試作品みたいな感じか」
「はい。油脂をオイルにするのは、シフォンケーキなんかがそうなんですけど、でもホットケーキの生地みたいになっちゃうことがあって、まずは普通タイプの生地を練習してみようかなと思ったんです」
「いきなりチョコは違うのか?」
「チョコが入ると生地の感じが変わるんですよね」
そもそも、チョコに粉を混ぜて焼くだけでクッキーになるのだ。
「へえ……。あ、ふわふわだ」
「そうなんですよ。意外としっとりしているし」
ちなみに今日の飲み物は紅茶だ。紅茶×紅茶なのはどうかと思ったのだけど、紅茶の風味にコーヒーを合わせるのもどうかなと思って。
「紅茶の風味が良いな」
「茶葉を刻んでそのまま入れてありますから。今度はチョコで作ってみてその次がホワイトチョコで作ってみて風味をみて、おからのケーキはその後くらいにしようかと」
「途中のチョコのケーキは必要なのか?」
首を捻りながらそんなことを言う。
そんなにおからのケーキが食べたいのだろうか。
「いきなりホワイトチョコだとイメージが掴みにくくて」
「イメージ」
「オイルとチョコのケーキは作ったことはあるんです。でも、今回のレシピは初めてで、どんな食感のケーキになるのかまったく分からないんですよね。チョコとホワイトチョコは違うけど、方向性はつかめます。過去のホワイトチョコのケーキの結果を参考に、分量を増やしたほうがいいかそのままでいいかを考えようかと」
「ふーん?」
単純に、作りたいだけ、とも言うのだけど。
「まあ、いろいろ食べられるのは嬉しいな」
「喜んでもらえてこちらも嬉しいです」
ということにした。
「さて、今回は、生まれた皇子と内裏に帰るまでと帰ってから、だな」
えーと、何か気になっていることがあったはず。
あ。
「はい!」
手を挙げると、梅里様は気づいたようだ。
「うん、赤染衛門(あかぞめえもん)に引き留められて訊ねられたことだよな。それは、さらっと流した感じだ。場面上、ではあるが」
「場面上?」
「彰子(あきこ)が倫子(ともこ)に、光る君の物語を豪華本にして、帝に献上したいと言い出してな。その時、倫子が、実に微妙な表情をするんだ。一見、何一つ変わらぬ笑顔なのに、まひろが書いた物語を、という部分に引っかかっているのが分るような、そんな表情だ。それを見て、赤染衛門がまひろに問うたことを思い出す。左大臣との仲を訊いたとき、まひろは何も答えなかったんだ。その答えなかったことを答えとして、赤染衛門は分からなくもないけど倫子を悲しませないようにとだけ言って別れるんだ」
「ああー」
いやだって、話せないし、一言では言い表せないだろうし。内裏に出仕するようになってからはちょくちょく会ってるだろうけど、それまでは本当にたまにだっただろうし。
「みんな、道長が悪い」
「うん、吾も同意見だ」
梅里様も重々しくうなずいた。
「それで、まひろ自身も思うことがあったのだろう。一度宿下がりをしたいと言い出した。最初は彰子も渋るんだが、年老いた父と娘に会いたいというと、理解する。子供を産んで母親の気持ちが分かるようになったのかもしれぬ。納得して送り出す。……が、わりとすぐに戻ってくるように文を出すのだが」
「すぐ、ですか」
「うむ。正確な日数までは分からぬが、ほんの数日だと思う。一応、内裏に戻るまでには戻ってくるよう伝えてあったのだが、その日が来るよりも早くまひろがいないことの不安が勝ってしまったのだろう」
「まひろも残念でしたね……? え、残念だったんですよね?」
ふと、まひろは娘とビミョーな仲だったのを思い出し訊いてしまう。
「帰ったことが悪かったとは言わぬが、居心地は悪かっただろうから、渡りに船だったのかもしれない」
「賢子(かたこ)が頑なだったんでしょうか」
「いや、おそらくそれを発端にまひろが暴走したからだろう」
「?」
「彰子から土産を賜って戻ると、皆それに喜ぶ。まひろが出仕していても、生活は苦しかったらしい。白い米を見たのは初めてとかいう言葉も出てくる。そんな中、出かけていた賢子が帰ってくる。皆にはフランクに話すのに、まひろに対しては堅苦しい丁寧語だ。為時(ためとき)は、照れていると言うが、まひろは気難しいところが自分に似たと言う」
「まひろは分かっているんですね」
「うん。だが、気まずい気持ちもあったのだろう。その晩の食事の時、酒に酔い、一人はしゃぎ、内裏でのことや五十日の宴のことを話す。まひろ以外には自慢話に聞こえる」
「あー」
「一人酔ってはしゃぐまひろと、白ける家人達。そして彰子からの文で帰ることになったと告げると、何をしに帰ってきたのだと賢子に言われる。賢子に会いたくてと言うと、嘘つき、大嫌い、と」
「あー………」
まひろならやりかねないとは思わなかったけど、あるあるだよね…
「ちなみに、まひろがいないことに気づいた道長は、赤染衛門に尋ねる」
「え、よりにもよって、赤染衛門に訊いたんですか?」
「うん。よりにもよってだ。一瞬表情を硬くするが、何でもないことのように里に帰っていること、彰子の許しを得ていることを伝えると、そうか、と去る」
「なんか、道長ダメダメじゃないですか?」
なんていうか、内裏といい、土御門邸といい、自分のテリトリー内にいることで、安心しているというか、まひろは自分の物扱いしているというか。
「うん、おそらく、気が緩んでいる。誰にもバレてないと思っているし、バレてもいいとも思っているような気がする」
「あー……」
ため息が出てしまう。
「そうそう、今回は豪華本が素晴らしくてだな」
「あ、源氏物語の」
「うん。まだ、正式に『源氏物語』とは呼ばれていなくて、光る君の物語とか、源氏の物語とかそういう呼ばれ方をしているが、揃いの色と模様の入った美しい紙を表紙にして、本文の紙も内容をイメージした色のものにして、清書は能筆家たち数人に依頼している。そのうちの一人が行成(ゆきなり)だな。実際、すばらしく美しい。ドラマ内ではそのうちの数冊の本文が見せられただけだが、三十三帖すべて書かれていたらと思わずにいられない」
「コピー本でもいい、欲しい、という感じですか?」
「うん」
梅里様は力強く頷いた。そうですか。
「そういえば、彰子と敦康(あつやす)とはどうだったんですか? 皇子が産まれて彰子の気持ちが変わったとか」
「いや? そういうことはなかったな。今のところ。敦康は、彰子が自分を大切にするなら自分も弟を大切にするよ、とか言っていたが」
「なかなか恐いセリフですね…」
「彰子は冗談と受け取ったようだがな……」
梅里様は少し遠い目をする。
「問題は、彰子ではなく、道長だ。この後、藤壺の女房が衣類をはぎ取られるという事件が起きる。内裏の内で、だ。夜中、まひろが執筆をしていて悲鳴を聞いて、衣をはぎ取られた女房二人を見つけるんだ。盗賊が入ったと報せを受けた道長は内裏へ向かい、状況を彰子から聞く。まひろが駆けつけたと聞いて本人に声をかけ、ぽろりと、敦成(あつひら)……彰子の子だな、は次の東宮になるお方だとこぼしてしまうんだ」
「やっぱり、道長、ダメダメですね」
緩みっぱなしじゃないですか。
「安心したのもあるのだろうが、まあ安心する場所が場所だからな…」
ため息をつく梅里様。
「あ、この盗賊の場面があるんだ。この日は大晦日でな、追儺の儀式が行われていて、内裏から逃げ出した数人の盗賊たちが盗んだ衣を投げ捨てたものを見つけるんだ」
「追儺(ついな)?」
「仮面をつけ、武器を振り回して、邪鬼を払う儀式だな。この儀式をしていた男が、若手の有名な俳優だ。きっと、重要な役回りだ」
「ええと、そういう見方になっちゃいますよね…」
「いちいち仮面を取ったし、この場面はなくてもいいようなものだからな」
「そうですね…」
まあ、B級時代劇では、役者を見ただけで悪役なのか違うのかが分かるわけで、そういう見方もあるのは分かるのだけれど。分からなくはないけど、例えば小説なら、ぱっと出てきた登場人物の重要性なんかは分からない。……あ。そうか。小説でそのシーンを際立たせようと思うなら、別の手法を取るのか。物語の流れ上一見不自然と思えるシーンを挿し込んだり、印象的な言葉を話させたり。この人は重要ですよ、と示すための手法が違うだけなんだ。
「今後、どうかかわってくるのかちょっと気になりますね」
私がそう言うと、少し不思議そうな顔をしてから、頷いた。
「ちなみに、伊周(これちか)はずっと呪詛をしている」
「え、それ必要な情報ですか?」
思わず顔をしかめてしまう。
「伊周の家に、親戚がやってきて、敦康が次の東宮で間違いないのかと心配するんだ。それをうけて、なんとかしましょう、とこたえて、道長の呪詛を再開だ。イイカゲン、効果がないことに気づくべきだと吾は思う」
至極真面目な表情で梅里様は言う。
「そして、その力を別の部分へまわすべきだ」
「はあ、まあそれは、確かに」
「何かというと道長がと文句を言うが、やるべきことをやり、政治的に追い落とすことを考えればよいのだ」
「うーん」
それは正論だけど、伊周はきっとそういうのは望んでないんだろうなあ…
それができていたのなら、こんなことにはなっていないのだろうから。
ため息をついて立ち上がる。
「お代わり、食べますか?」
「うん、食べるぞ」
梅里様はとても良い笑顔で答えてくださったのだった。




