31 源氏物語爆誕。
ドラマのネタバレをしてますので、お嫌なかたは回れ右を。
私見がかなり入ってますので、それも嫌な方は回れ右を。
第三十一回 月の下で
今回は水まんじゅうだ。
実は、水まんじゅうにはこうであって欲しいというものがあって、それには程遠いのだけど、作ってみた。求めるのは、半透明のものではなく、水をゼリーにしたような透明なもので、中にあんこが入っている。半透明だけれど、プルプルしていて、つるんとした喉越しのものだ。だけど、くず粉や片栗粉などのでんぷんを使うとどうしても透明感が無くなっていって、思っているものにならない。いっそ、寒天だけにしたらいいのか?
昔、やけに暑い年があって、雨も降らなくて、仕事帰りにデパ地下でみかけて、あまりに涼し気で買ってしまったのだ。私と水まんじゅうの出会いはそれが初めてで、だから、私の中の水まんじゅうはあれなのだ。
今回は、ネットで拾ったレシピを改造した試作品の何号目か。普通の楕円の半透明の水まんじゅうになったけど。でも少し小さめに作って、二口くらいで食べ終えるサイズにしてみた。
お皿に二つ載せて、クロモジも添えて、冷たい煎茶を一緒にお盆に載せて。ノックをするとすぐに返事があった。
「水まんじゅう!」
トレイの上のものが見えたらしく、嬉しそうな声で叫ぶ梅里様。
「まだまだ暑いですからね。涼しそうなものシリーズです」
作りたいものを作る、というポリシーは変えずに、無理はしない、というルールを付け足してみた。ネタに困ったら、作り置きを出してもいいし、諦めて簡単な焼き菓子にしてもいい。なんなら、インスタントの混ぜるだけシリーズでもOKにした。それくらい、気軽でいいやって思うことにした。
「うん? ちょっとぷるぷる……ぷるぷるが激しくないか? プッチンするプリンみたいなぷるぷるだ」
皿を手に持って一つクロモジで刺そうとしたところで気づいた様子。でもまだ、クロモジで刺せてしまうので、まだまだなんだよね。
「くず粉を減らして寒天を増やして…はないか、水分量を増やしてみたんです」
「へえ?」
刺したのを無理やり口に入れてしまう。半分に切りましょうよ…
「あ、確かにモチモチもしてるな」
「そうなんですよね。モチモチ、もう少し減らしたいんですけど」
「……なんか目標のものがあるのか?」
そう訊かれたので、昔食べたものを説明すると、梅里様は目をキラキラさせた。
「それも美味そうだ!」
「美味しかったです。売ってたら作らないんですけど、売ってないというか、見つけられないんですよね」
「もう作ってないかもしれないしなあ」
「そうなんですよね」
ため息をつき、私も一口食べる。方向性が決まったら、あんこも自分で煮よう。今はまわりの透明な部分のレシピをなんとかしなければ。
「楽しみにしてるぞ」
何故か力を込めて言われたので、大きく頷いておいた。
「今回は、『源氏物語』爆誕! の回だ」
「とうとう、ですね!」
「うん。ほとんどが、まひろが書くための描写に使われていた。まひろが、道長に頼まれて、書くための取材をして、考えて、書いて、帝に献上するまで、だ」
それは、かなりじっくり描かれてるのでは。
「まず、道長が頼みにくる。『かささぎ語り』の噂をききつけて、写させて欲しいと頼みにきたんだ」
「え、でも」
「そう、燃えてしまった。道長は信じない。まひろが、床の焦げ跡を見せ、ようやく信じたほどだ。そこで今度は、思い出して書けないかと頼む。政治的な理由で入内させたとはいえ、放置されているのを見ているのは辛い、と」
「あれ? 帝に献上するのでは?」
「この時には、彰子(あきこ)の心を慰めるため、と言っていたんだ」
?
「別に普通に言えば良いのに?」
「道長は、まひろが自分の作品を政治利用するのを嫌がるのではないかと思ったと言うんだ。……それも、最初に書いた作品を読んだあと、まひろに問い詰められて」
「……はあ」
評判になっている『かささぎ語り』を求めてやってきた道長にもう燃えたと伝え、それでも何かを書いた、ということだろうか。
「新しく書いてくれと言われたが、まひろは一旦断ったんだな。だが書いてみたいとは思ったようなんだ」
ワケが分からないという顔をしていたのが分かったのか、最初から説明しなおすぞ、と言う。
「書き溜めていた『かささぎ語り』が灰になり一晩眠れないくらい悔しい気持ちを抱えていたところに道長が来たので、気持ちの切り替えができてない状態だったのだろう。そんなに簡単にはいかない、と断ったあと、和泉式部に『枕草子』の感想を詳しく聞いたり、借りて読んだり、惟規(のぶのり)にまひろ自身がどういう人間か訊いたりして、新たな物語の種を探しているようだった」
「書きたい、という気持ちに火が点いたんですね」
「どんな物語なら彰子が喜ぶか、『枕草子』と比べられたとき、違うカラーを見せられるか、そういうことを考えたのではないか? 随筆と物語では性質が違うものとはいえ、人はそんなこと頓着せずに比べるということを知っているのだろう。そして書き上げたものを道長に読ませる。楽しそうに時折笑いながら読む道長の様子を見て、何か違うと思ったのか、まひろはどこがどう面白いと思ったのかと、突っ込んで聞く」
何か、違う?
「そして、彰子ではなく帝へ献上するものだと知らされる」
「なるほど」
「まひろは、自主的にボツにする。そして、帝に献上する物語を書いてみたい、と言う」
「おー!」
思わず拍手をしてしまう。
「そして、道長に、帝に関すること、生い立ちやエピソードなんかを聞く。聞くというか、なんでもいいから教えろと夜中までかかって話をさせる」
なんていうか、さすが、まひろ。
「そして書かれたのが、『桐壺』らしいのだが、読んだ道長は、これはちょっと…と渋るんだ」
「『桐壺』って、良く知らないんですけど」
「吾も今回少し読み直してみた。近頃はデータであちこちに落ちていて便利だな。…いつの時代かは分からないが帝が桐壺に入っている更衣(こうい)を寵愛していた。しかし、この桐壺の更衣は父の身分が低いのもあり他の女御などからいじめられていたんだ。桐壺の更衣はやがて妊娠する。生まれたのは皇子で、それは美しい男の子だったらしい。だが、幼い皇子を残したままやがて亡くなってしまう。皇子は利発で頭も良かったが、臣下にしたほうが良いということになって源氏姓を与えられる。帝には姓が無いからな。その後もすくすく育って葵の上と結婚したあたりくらいまで、だな。…だが、おそらく帝の元に届けられたのは、桐壺の更衣という女性がいて身分が低いけど帝の寵愛を受けていた、ところまでではないかと思う。もしかするともう1つ先の、皇子……光源氏だな、が誕生するところまであったかもしれぬ。冊子になった状態のものを見るに、そんなに厚くないんだ」
「……定子と帝、ですか」
「定子の場合、元々の地位は高い。ただし、父親が死んだあとは後ろ盾がなくなったので、急降下だな。それに加え兄たちのしでかしたこと、出家と、どんどん立場は悪くなっていくから、『ちょっと設定を変えた』と言えなくもない」
「多少変えてあっても、自分と定子がモデルかもしれないと思えば、気分はよくないですよね?」
「おそらく。結果は明日だな。道長から受け取った帝は、このようなものは行成(ゆきなり)に渡せばいいのに、と嫌味のように言う。そして夜、一人だけ御簾の内に入り、表紙を開く。開いて少し読んで、すぐ閉じ、また開く」
一度開いて閉じる。おそらく文章を少し読んだ後。読んだ内容に思わず閉じたんだ。でも、気になって、また開く。
「つかみはオッケーってとこですか?」
「さて、どうかな。出だしだけが物語ではないからな」
確かに。最初は面白くても、途中からつまらなくなったり、最後の最後であり得ない方向へいったりする。
「明日が非常に楽しみだ!」
「今回、月を見上げる話が出ててな」
「月ですか」
「これまでたびたびあるシーンで、場面と場面の間に、二人が月を見上げることがあるんだ。もちろん、二人は一緒にはいない。互いに、同じ時に月を見上げる、これがソウルメイトかと勝手に思っていた。今回、道長が、同じように月を見上げている人がいると思いながら見上げていた、とまひろに言うんだ。それは、同じように見ている誰かがいるともとれるし、まひろのことを言っているようにもとれる。なかなか、感慨深かったぞ」
「月が、離れていても二人は月を通して繋がっていたんですね」
「そうだな。あと、SNSでは、二人が見上げているのは必ず満月だったと考察している人もいたぞ」
「何か、意味があるんですかね」
「さあなあ」
「そういえば、道長と賢子(かたこ)が出会ったぞ」
「おお……」
「道長が年齢を訊ねると、六つと答える。横でまひろがドキドキして見ているが、道長は気やすく膝に座らせ、まひろに似て賢そうだと実に楽しそうな様子をしていた」
「道長は、気づいてないようですね……?」
「あれはまったく気づいてないな。年齢からもしやとか考えてもいない。いいとこ、宣孝(のぶたか)が子供が産まれたと自慢していたことを思い出すくらいだろうな」
「……鈍いんですか?」
「まあ、今はそれどころではないしな。まったく思い至らないのだろう」
まずは彰子のことということか。
「この流れだと、どこかで知られそうではあるがな」
「……そういうものですか?」
「わざわざ道長の子ということにしたのに、何も無かったのなら、宣孝の子で良かったではないか」
「そういうものですか…」
梅里様はひとしきり話したあと、皿をじっと見つめた。
「お代わり、しますか?」
一つでは物足りないけど、二つではお代わりは要らないのでは、と思っていたが、思い過ごしだったようだ。
「するぞ!」
いや、威張るように言うことですか。嬉しいけれど。
「じゃあ、お持ちしますね」
そう言って立ち上がる。
思った通りに作れなかったとはいえ、失敗作ではないのだ。
次は寒天だけで作るか。頭の中で配合を考えはじめた。




