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大河ドラマと梅里様  作者: 今西薫
31/50

30 3年経ちました。晴明の雨ごい寿命10年分、まひろは和歌の先生をしてすけすけ和泉式部は生徒、伊周はまだ呪っている

ドラマのネタバレをしてますので、お嫌なかたは回れ右を。

私見がかなり入ってますので、それも嫌な方は回れ右を。

第三十回 つながる言の葉


「今日は、梅のシロップ煮です」

 ネタが尽きたとも言う。作ろうと思えば、紅茶だってジュースだってなんだってゼリーになる。わらび餅を作ってもいい。水まんじゅうも大好きだ。でも、そういう気分になれなくて、かと言って、焼き菓子な気分でもなく、冷蔵庫の中にしまいこんでいた今年の梅仕事の一つを取り出した。スイーツというより、煮物を盛って出しただけという気分だ。負けた気がする。

「お、美味いよな。大好きだ! ……て、何を悔しそうな顔をしてるんだ?」

 ガラスの器に砂糖で煮た青梅とその煮汁と氷が入ってて、大変涼し気だが、ただそれだけの品だ。でも、これをゼリーにするのは一度したし、やっぱり違う気が…

「手抜きなのが悔しくて」

 正直に言うと、梅里ばいり様は首を傾げた。

「これを作るのを見てたことがあるが、手は込んでいるだろう?」

 そういえば、去年だったか何が楽しいのかじっと見ていたことを思い出した。

 洗ってヘタをとって、フォークで穴を空けて、一度煮てから砂糖をぶっかけて一晩置いてもう一度煮て。出来上がったのを見て、そんなに手がかかっているのか!と驚いていた。

「それに美味い。美味ければ正解だ!」

 梅里様が優しい…。

「え、何か変なことを言ったか? おーい」

「今度はバニラアイスを添えますー」

 すべての音に濁点がつく勢いで半泣きになりながら言うと、梅里様はさらに慌てたのだった。

 正直、自分でもなんで泣いているのか分からない。




「ま、あれだ。オヤツはあれば嬉しいし毎日同じでも吾はまったく気にならないのだから、気にするな」

 ようやく落ち着いた私に、梅里様が少し呆れた様子で、でもなんとなく焦った様子で言う。

「はい…」

 返事をしてもまだ疑うような顔をしてこちらを見るので、もう大丈夫です、と言って、すっかり氷の融けたシロップ煮を口に含んだ。難点があると言えば、種がそのままあることだが、まあそれは仕方ない。

甘酸っぱさが口の中に広がる。梅里様は、氷が融けて煮汁を薄めたジュースをそっと飲んで顔を輝かせる。

「青梅のジュースだな。美味い」

「はい」

「このシロップ煮もちょうど柔らかく煮てあって美味いぞ」

「はい」

「…それでだな、今回は、前回から三年経っていた」

 梅里様は、話題を変えるように、話を始めた。もともとこれが本題なのだから、なかなか始められずに困っていたのだろう。本当にごめんなさい。

「賢子(かたこ)は六歳ほどか。まひろは、仮名の練習をさせていた。為時(ためとき)が爺バカになっていて、まひろが一生懸命教えようとするのに、すぐ遊びに乗ってしまう。まひろは困っている様子であったな」

「教育熱心……」

「赤子の頃から漢詩を聞かせていたくらいだからな…。だが、為時も惟規(のぶのり)も、女が学問をすることにそんなに乗り気ではない。これは、まひろは反感を覚える」

「でも、まひろがなかなか結婚できなかったのは、学問ができたからなのでは?」

「うーん、いや、おそらく為時が任官しておらず、しかも金がなかったせいだな」

「?」

「平安時代は、基本的に妻側が夫の世話をするんだ。宣孝(のぶたか)は金を持っていたからまひろの世話をしたが、倫子(ともこ)の家のほうが普通なんだ。……とSNSで読んだ」

 そうですか。

「もし、為時が任官されていたら、財力のある男を婿に迎えることも可能だったらしい。一種の信用でもあるんだな。為時が蔵人を解任されたとき、まひろが働こうとしたがダメだったのはそういう部分もある」

 花山(かざん)帝を出家させた後のことか。

「ええと、じゃあ、まひろが反感を覚えるのは、学問関係ないじゃんって思ってるから?」

「いや、多分、ちゃんと結婚できたから心配ない、と思ってるからじゃないか?勝手な想像だが」

「……ああ。為時と惟規は、やっとなんとか結婚できた、と思ってるわけですね…」

「うん。この認識の違いは大きい。あと、まひろにとって学問は楽しい遊びだ。自分が男であったら、という気持ちもある。女であるから学問は不要という考えは、そちらのほうが納得がいくまい」

 重々しくうなずいて、それでだな、と言葉を続ける。

「まひろはこの頃和歌の先生として働きに出ていて」

「あら、良かったです」

 為時が道長からの話を断っていたから、心配していたのだ。

「ちなみに、為時はちゃんと翌日に道長の元を訪れて、息子の家庭教師を引き受けていたぞ。今まで見ていた中で一番良い生徒だった」

「それは何よりです」

 梅里様がそう言うのだから、今までの生徒がよっぽど態度が悪かったのだろう…

「で、まひろはそこで自分の作った物語を読むようになっていた」

「『源氏物語』ですか?」

「いや、それはまだだな。『かささぎ語り』と言うらしい。これがその生徒たちの中では評判になっている」

「そんなものがあったんですね」

「タイトルはドラマの創作ではないかな? それでまひろは時間をみつけては次の勉強会の時に向けて物語を書く。だが賢子が母に相手にされなくて燃やしてしまうんだ」

「平安時代! 木造建築!」

「すぐにまひろが気づいて、慌てて水をかけて事なきを得た。直前に賢子が去っていく姿を見ていて、誰がしたのかはすぐ分かって、まひろは賢子を叱る。自分の思い通りにならないからって火をつけるなんて、人のすることではない、と」

「自分の原稿を燃やされて、そのことは怒らなかったんですね」

「うん、賢子は泣きながらごめんなさいと謝っていたが、まひろの怒り方が良かったのかどうかは分からない。必死に抑えていたのは伝わっただろう。一人になったとき、やりきれない気持ちと闘っている様子だった」

 書き連ねていたものが、灰になる。今のように、データがあってバックアップが取れたわけではない。コピー機で簡単に複製が作られたわけでもない。読み継がれ残っているものは、多くの人が読みたいと思ったからだ。まひろの作品は、まだその前のもの。

 まあ、データがあったとしても、一度も保存されてないデータは、削除しちゃうと復活はほぼ無理だけど。

「さてこの頃、『枕草子』が内裏で評判になっていた」

「? はい」

 話が飛んだ?

「帝も定子との生活を思い出せて嬉しいようだ」

「はい……?」

「帝は彰子(あきこ)に預けられた定子の産んだ皇子の元には行くが、彰子の元に通っているわけではない」

「ん? 定子の産んだ皇子が彰子のもとに?」

「うん、ああ、姉の詮子(あきこ)の案でな。人質、だそうだ。息子に会いたければ、彰子の元へ行け、ということだ」

「なるほど」

「道長は彰子のことをなんとかしたいが、どう動いて良いのか分からない状態だ。晴明にも相談するのだが、今は闇の中にいるだけで光は必ず射す、と言う。そして、今、道長の心に浮かんだ人に会いに行けと言う。その人が光だ、と」

「え、それって、」

 まひろですか。

「分からぬ。ただ、会いには行く。F4たちと食事のおり『枕草子』が話題になってな。同じようなものを出せば、みたいな話になって、そこでまひろの話題が出るんだ。面白い物語を書く女がいる、と」

「え、和歌の生徒さんたちの間でだけ評判になっていたのでは?」

「その和歌の学びの場を提供していたのが、F4の一人、公任(きんとう)の妻でな。どうもその流れで会いに行く。そして、待て次回、だ」

「明日ですね!」

「いや」

 梅里様は無念そうに首を横に振る。

「オリンピックの閉会式で放送休止だ」

「えー」

「オリンピックはオリンピックで面白いが、生殺し状態ではあるな」

「うううー」

 確かに、いくつかの競技は見てはいるけど!

「仕方ない。再放送は二回ある。選挙の時もそうだった」

「確かにそうですけどー」

「というか、そろそろ一緒に観てはどうなんだ?」

「いえ、私は梅里様からお話をききます」

 最終回を迎えたら、一回目から観ようかなとは思っているけど。



「今回は、干ばつから始まったんだ。為時の家の井戸も枯れていた。帝自身も雨乞いをしたが効果がなかった。そこで道長は晴明に頼みに行く」

「呪術的な力、グレーゾーン!」

 あ、でも、予知はできるのか。秋に定子が皇子を産むのは当てている。

「晴明は雨乞いは体が持たないと、イヤがる」

「え、ケチですか?」

「いやいや、晴明は三年でかなり年をとった様子でな。だが、道長はどうしても雨を降らせたいと考えた。対価を求められた道長は寿命を十年と答える」

「十年!」

「晴明は引き受ける」

「ちなみに、晴明は何歳なんですか」

「うん?」

 梅里様はスマホを操る。

「八十三くらいか?」

「長生き!」

 それはつまり、九十三歳まで生きるつもりなのか。

「ちなみにちなみに、三年前までは何歳くらいに見えたんですか?」

「六十代くらいか? まあ、八十歳には見えなかったな」

「なんかでも、何歳くらいに見えても良さそうなキャラクターですよね」

 安倍晴明という人物に対して多くの人が持つイメージが、というか。

「まあな。それで引き受けるんだが、これが、雨が降る」

「降っちゃうんですか」

「降る。雷鳴轟いて、大粒の雨が降り出す。晴明は力尽きて倒れる。……死んではいないがな」

「道長から十年貰っちゃうんですもんね」

「うん、だが、雨乞い後の晴明はいっきに年をとった感じだ。道長と話す際も、両肘を脇息についてようやく起き上がっているという感じだったな。ようやく年相応という感じではあった」

 そのあと梅里様は、でもあれはカッコよかったなあ、とため息をつくように言ったのだった。



「あとは、和泉式部か」

「聞いたことある名前ですけど」

「歌人、だな」

 百人一首とかそういうのにも歌が入っているのかな。

「そして、恋多き女でもある」

「そんなに有名なんですか?」

「いろいろエピソードがあるらしいぞ。今回も親王とのやりとりで憔悴したりしている。そして、着ているものがスケスケだ」

「……はい?」

 すけすけ?

「とはいっても、ドラマ上、本気のスケスケではなかったがな」

 すけすけに本気のという言葉が付くんですか?

「ええと、すけすけ、とは?」

「平安貴族の女性が着ている一番上のうちぎが、スケスケの生地で作られてるんだ。風通しの良い、夏用の衣類だな」

「ああ、なるほど」

「女たちは、御簾の内にいる時には素肌の上にこれを着ることもあるらしい」

「………?」

「いくら御簾の内に居るのが普通で、家族といえども成人男性とは御簾越しでなければ話さないとはいえ、直視するのははばかられるような服装だ。袴は履いていたみたいだが」

「そ、そうなんですか…」

「袖の短いというか袖の無い状態の単の上に、スケスケの裡を羽織っていた。それでも、二の腕あたりから腕は丸見えだ。今回のドラマでの所作指導かなにかの話で耳にしたが、手はあまり出ないほうが良いらしいから、その程度でもはしたなく感じるのだろう」

「あ」

 なんか、思い出した。

「そういえば、昔、平安時代を舞台にした小説で読んだことがある気がします」

「スケスケをか?」

「はい。そんな衣服があるんだ、暑い時は十二単なんて着てられないよねって思ったのを覚えてます」

「ふうん」

「それを映像化したんですか。それは楽しいですね」

「楽しいぞ!」

 梅里様はとても嬉しそうに言ったのだった。



「そうだ、あとな。伊周が前回からずっと道長を呪詛している」

「呪詛」

「あきらかに道長という名前を入れて呪詛している」

「……前回からというと、前回から三年経っているということですね…」

「道長の運が今悪いのは、その為かもしれんな。ほとんど、『皇子を産め』状態でな。鬼気迫っている」

「正直な話、呪詛なんて信じてないですけど…あ、ドラマの中の話としても。でも、毎日呪ってるってだけで恐いです」

「ホント、それだ。そこまで思い込めるのは才能だと思ったぞ」

 あんまりお近づきになりたくないです…。

「あとは、F4のメンバーで枕草子の話をしている時、斉信(ただのぶ)が、ききょうを手放さなければ良かったとか言ってだな」

「あー、ききょうに捨てられたほうですね?もしかして」

 小ネタはよほど伝えたい部分しか伝えてくれないので、そういうシーンがあったのだろう。

「おそらく見ていた全員が『お前が捨てられたんだー!』と叫んだに違いない」

 実に楽しそうに笑う。

「いつも思うんだが、結構詰め詰めにいろんなことが詰められているんだが、詰め込まれた印象がないんだ。シーンの繋ぎに無駄がないんだろうな。ぽんぽん飛ぶように見えてどこかでちゃんと繋がっている。間延びした感じもない。実資(さねすけ)など、本筋に関係ない場合もあるが、浮いてもいないし、邪魔でもないんだ」

 腕組をして、うんうん、と頷く。満足そうだ。

「本当に楽しんでますよね。『鎌倉殿』の時もどうかとは思ったんですけど」

「どうか……?」

「のめり込んでらしたので」

 あの時も三回コースだったなあと思い出す。

「面白かったんだぞ?」

「確かに、面白かったですね」

 あれは途中で参入したんだった。追いつくのがちょっと大変だったけど。

 感慨深く思い出していると、梅里様が上目遣いで見ていた。

「最終回は、一緒に観たいな…」

 ぶっ。

 思わず吹いてしまった。

 梅里様、それはちょっと反則です。



「ところでだな」

 ふっと黙ったかとおもったら、そんなふうに言い出した。ちらりとガラスの器に視線を向けて。

「お代わり、頼めるか?」

 ……!

「申し訳ありません!」

 思わず立ち上がる。変に気を使わせてしまったのが、申し訳ない。

「あ、いや、そんな」

 あたふたと言葉を発する。

「いえ、私の変なプライドが、梅里様に気を遣わせたのが申し訳なくて」

「いや、いいんだ。吾は、嘘は言わぬ。いつも、美味い菓子をありがとう」

 梅里様は笑ってそう言ってくれたのだった。


 

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