32 晴明が逝く。内裏が火事、帝と彰子は手に手を取って。まひろ出仕。
ドラマのネタバレをしてますので、お嫌なかたは回れ右を。
私見がかなり入ってますので、それも嫌な方は回れ右を。
第三十二回 誰がために書く
「結論から言うと」
「え、ちょっと待ってください。なんでイキナリ結論なんですか」
「そのほうが早いからだ。紆余曲折はドラマを観たほうが早い」
それは確かにそうかもしれないけど。
「まあだから帝は、物語が気に入らなかった。だが気にはなっている、と吾は思う。あとは、道長に借りを作りたくないとか」
「そういう感じなんですか」
帝の様子が、ではなくて、梅里様の話の流れとして。
「うん。道長は、帝からなかなか感想がもらえなくて焦ったのだろう。自分から声をかけた。帝は、忘れていたというふうなリアクションだ」
え、確か。
「こっそり読んでましたよね?」
「こっそりかどうかは分からんが、読んではいたな」
あ、だから、気にはなっている、と。
「道長は落胆してそのまま、まひろに伝えに行く。この時、道長は、さすがに帝が読んでないとは言えなかったのだろう。気に入らなかったと伝えるんだが、まひろは落胆した様子がない。不思議に思って問うと、今は書くことが面白いと答える。続きを読んで、書き続けるまひろを見て、『俺が惚れた女はこういう女だったのか』と思っている」
「ぷ」
思わず吹き出してしまう。
梅里様はニヤリと笑う。
「その後、道長が藤壺を訪ねて、敦康(あつやす)親王に投壺の道具をプレゼントしていたんだ。そこへイキナリ帝がやってくる」
「イキナリですか?」
「うん、先ぶれ無しだ。道長も大慌てで片付けて迎えると、帝は、読んだぞ、と言い出す」
「あら」
「そして、自分への当てつけか、と言う。道長はもちろん否定する。続けて帝は誰が書いたのかを問う。道長は、為時の娘だと答え、以前お目にかかったことがあると聞いていると言う」
あ、ききょうに連れて行かれた時のことね。
「帝も思い出す。そして、唐の故事とか仏の教えとかがさりげなく入っていて、作者の博識ぶりを褒め、話してみたいと言い出す」
あら?好感触?
「道長は藤壺に出仕させようと言い出すんだが、帝は、話すのは続きを読んでからだと言う」
「………回りくどい?」
「実にな、おそらくそうだと思う。あくまでも、自分は催促されたから読んだという体でいたい、ということだと思う」
「……めんどくさい…」
「だが、道長はそうは思わない。大急ぎでまひろの家に行く。為時が家に居るのに、挨拶もせずまっすぐにまひろの部屋へ行き、藤壺の女房として働かないかと打診する。続きが読みたいのなら、家で書いて渡してはダメなのかときけば、まあ平たく言えばまひろをおとりにしたいのだと言う」
「おとり」
「道長はもう少し迂遠な言い方をしたが、まひろはおとりという言い方をしていたぞ」
梅雨様は楽しそうに笑う。
「子供も小さいと言えば、女童にしてもよいと言う。この時点ではまひろは即答していない。為時と相談をする。道長も、家に帰って倫子(ともこ)に告げる。藤壺の女房にすると、倫子と顔を合わせることになるから、黙っているわけにはいかないからな。だが、倫子は道長がまひろのことを知っていることに驚いて何故知っているのか訊く。道長は公任(きんとう)にきいたと言い、帝が物語を気に入って藤壺におとずれるようになれば、と話せば、倫子も賛成をする。道長はしれっと、倫子が良いというなら、と了承を取り付けた」
「……ほっとするような、ずるいというような…」
「おそらく、視聴者のほとんどがハラハラしながら観ていたシーンだからな。あ奴はずっとどう言うか考えていたに違いない」
ふふふ、と笑う。
「結局、まひろは出仕することになる。この時に、賢子(かたこ)とやりとりがあってな。これが切ない。賢子が、母上は自分が嫌いなのか、と訊く。まひろは大好きよ、と言うのだが、賢子はなら何故、内裏に行くのかと訊くんだ」
「賢子は、まひろのことが大好きなんですね」
「うん。まひろは、会えば字の練習をしなさいとか、言葉遣いとかそんなお小言しか言わない。きっと遊んで欲しいのだろうが、賢子も素直に言えない部分がある」
「まひろは、なんて答えたんですか?」
「賢子も一緒に内裏に行くか、と」
「……それは、ダメなパターンですね…」
「質問にも答えてないし、賢子の心にも寄り添っていないからな…」
このまま離れて暮らして、二人の間は大丈夫なんだろうか。ドラマの中のことながら、心配になってしまう。
あ。
「そういえば、倫子は不審には思っていないのでしょうか?」
「それは、謎だ」
「謎、ですか」
「倫子は過去にも、気づいているけれど表面に出さない部分がある。だから、分からない。だがそれを言えば、まひろに道長の文箱から拝借してきた漢詩を見せたところからあやしい」
え?
「倫子は、まひろが来るのに合わせて、道長の文箱から取り出していた。何故、まひろに聞こうと思ったか、だ。ぱっと見は、漢文が読めるまひろに聞いたようにも思えるが、手紙を差し出してまず言ったのは、女が書いた文字ではないかと言っているんだ」
「え、待って、それは単に、話の流れでは」
夫とは言え他者の手紙を黙って取り出したイイワケ的な。
「うん、そうともとれるが、微妙なツッコミ所が残してあるんだ。あとな、倫子はまひろの文字を見たことが無いのだろうか」
「それ、見たことが無いほうが変というか」
学びの場で一緒に過ごしていて、一度も文字を見せることが無かったのだろうか。
「そうなんだ。見たことがあって、まひろの文字に似ていると思って、本人に確認して、リアクションで真偽の判定をしたとしたら、まひろのわずかな間とか表情で絶対にバレていると思うんだ」
梅里様から常々聞いている倫子なら確かに気づくと思う。
「そのうえで、道長がまひろのことを知っていることを、普通に不思議がる」
「いやいやいやいやいや、恐いですって!」
「うーん、いや、さすがにやり過ぎ感があるなと思ってな」
梅里様は腕組をして唸る。
「やりすぎ、ですか?」
「出来過ぎ、というか。まあ、どうなるのかはこれから分かるがな」
ふふふふふ。と不気味な笑いをこぼし、ケーキに手を伸ばす。今日はキャラメルリンゴのパウンドケーキだ。リンゴをキャラメリゼして、パウンドケーキの生地に混ぜ込んで焼く。リンゴを3センチ角程度にして、角が取れるくらいまで炒めるのがポイントだ。飲み物は紅茶。
「ん~、リンゴの酸味とキャラメルの苦みがいいな!」
「リンゴの食感を残すと美味しいんですよね」
以前は食感が無くなるくらいまで炒めていたのだけど、残したほうが存在感があるし美味しいことに気づいてからは、大きめにして食感を残すようにしている。
「うんうん」
ぱくぱくとお皿に載せていた二切れを平らげて、紅茶を口に含む。バターと紅茶は鉄板。リンゴと紅茶も鉄板。
「ふー」
満足そうなため息を漏らす。
私も満足です。
「それから、晴明が死んだぞ」
「え、死んじゃったんですか。十年は?」
「十年分の寿命と、本人の寿命を削って雨乞いをした、ということではないか。雨乞いが終わった後急に老け込んだからな」
「あ、なんかそんな話でしたね…」
「道長は、晴明が危篤と訊いて、晴明を見舞う。すると、自分は今夜死ぬと言う。あと、道長に、ようやく光を手に入れましたな、と言う。まひろが出仕を決めた後だから、どうやって知ったのやら」
相変わらず、グレーゾーンな能力だ。
「道長は、世話になった、と礼を告げ退出する。晴明は、その晩、本人の予告通り息を引き取った」
最後まで、グレーゾーンを貫いたか。
「ドラマ開始の一回目の最初から出ていたからな。キーパーソンの一人が居なくなったのは、なかなか寂しい」
私も、梅里様の話でしか知らないけど、ちょっと寂しいです。
「あとは、内裏で火事が起こった」
「火事、またですか」
未遂も入れたら3回か?
「実際、平安時代は木造建築だからな、よく燃えるんだ」
ため息一つ。
「その日は月食の日で、当時は月食は不吉なものとされていて、皆、引きこもっていた。帝は一人でまひろの書いた物語を読み込んでいた。そこで火事の報せだ。帝は、藤壺……彰子(あきこ)の暮らす局だな。そこへ向かう。定子(さだこ)の子の敦康(あつやす)がいるからな。到着すると、彰子が一人佇んでいる。聞けば、先に逃がしたと言う」
「え、じゃあ何故」
「うん、帝もそれを問う。彰子は、帝はどうなさったかと思って、と答える」
「つまり、帝がちゃんと逃げたかどうかが心配で残っていたと」
梅里様は一つ頷く。
「それを聞いて帝は彰子を促して逃げる。途中転んでしまった彰子を助け起こし、肩を抱くようにして」
「おお……」
ラブですか。
「互いに何かが産まれたのは間違いないな」
うんうん。
「それで道長は礼を言いに行く。自分の娘を助けてもらったのだから、これは当たり前の行動だが、帝は、道長が中宮のことしか言わないと苦情を言う」
「え、言わないのは言わないでまずいですよね?」
「当たり前だ。まあ、当たり前の行動をしたのに苦情を言われるほど、普段から中宮のことについて言っているということなのだろう」
「それは、確かに、」
「退出しようとすると、帝のところへ向かう伊周(これちか)とすれ違う。伊周の余裕のある態度に道長は悔し気な表情を見せる」
「はい」
思わず手を挙げる。
「伊周の強気の意味が分かりません」
「まあ、世界は自分の為に回っていると思っているような男だからな、追い風が吹いているだけで強気になれるのだろう」
「なるほど…」
やっぱり意味が分からない。
「伊周は帝に、火事は誰かが自分のことを貶めるために起きたのではないかと言う。そして、信じられるのは自分だけだと帝に告げる」
「……なんか、パワハラとかモラハラとか毒親の人の言いそうなセリフですね」
「まあ、伊周は帝に対して暴力は行ってないがな」
梅里様が苦笑しながら言う。イメージは伝わったようだ。
「まひろは出仕前に内裏へ挨拶へ行く。その時の彰子の様子が気になって、赤染衛門に彰子の為人を訊ねるんだ。そうしたら、謎なのです、という返答。小さい頃から見てたのでは?と訊ねると、奥ゆかし過ぎて、という返答」
「謎、なんですね」
「おそらく、倫子にとってもそうだな。だから、どうしたら良いのか分からない」
「……ああ、彰子の現状はそういう感じなんですね」
きっと、誰も彰子の望むものが分からない。だから、どうしたら良いのかが分からない。
「まひろの物語が、彰子にどう響くのか、なかなか興味深い」
梅里さまはゴキゲンに笑ってお代わりを所望されたのだった。




