34話
高級ホテルの高層階の窓には半分の月が見える。
「月齢カレンダーによると今月の満月は29日の日曜日だ。そこに合わせて富士山の山頂につくように準備するよ」
満腹の腹を満足そうに摩る土門を見ながら占い師のレイラが言う。
「満月の夜の富士山の山頂が最も魔力が満ちるタイミングで間違いないんだな?」
「そうだ。街の中では使える気がしないと言っていた転移魔法だけど、その時なら使えるようになる可能性は高いはずさ。転移魔法というのは魔法の中でもかなりランクの高いものだから自分の魔臓に蓄えている魔力だけで使うのはかなり難しい」
「そこで周囲にある魔素を取り込むわけだ」
「そう。向こうの世界からこっちの世界に来ることは出来たのに反対はできないということは空気中の魔素の影響が真っ先に思いつく原因だね。知っての通りこっちの世界の空気中にはほとんど魔素がないわけだからね。それなら魔素がある場所まで行けばいい、そういうことさ」
「なるほどな」
「心配しなくてもいい、私には予知夢の力があるんだからね。あんたは必ず私の願いを兼ねてくれるはずさ。だから私は歌舞伎町のあの場所でずっとあんたを待ち続けていたんだよ倫理。きっと転移はうまくいく」
「うまくいくことを願うよ」
「俺も俺も俺も願う!もうすっかり行く気になっちゃってるんだからいまさら駄目だってなったらこのやる気をどこに持っていけばいいのかわかんないし。あーそうかそうか、月の満月は29日か、その日までに準備とかをすればいいんだな………ふんふん」
「なにをモジモジしているんだい?」
レイラが怪訝な顔をする。
「レイラ、金貸してくんない?」
「金?」
「俺は酒が大好きだから向こうの世界に酒を持っていきたいんだけど金がね、全然ないんだよ」
額を指でトントン叩きながらいかにも困ってます、という表情をする。
「実はこの前倫理さんにぶっ飛ばされた後で病院に連れていかれたからその時の病院代も払わなくちゃならないんだけど8万とかいうんだぜ?ただ検査だけして病室にいただけで手術とかもしてないのにさ、なぁ頼むよレイラ」
「あぁなんだそんなことかい、それくらいはお安い御用だよ」
小柄なレイラの目線よりも頭を下げてヘコヘコしている土門に対してあっさりと言った。
「え!いいの!?まじで?」
「何をそんなに驚いているんだい?」
「だってさ、俺の知り合いとかはあんまり俺に金貸してくれないんだよね、絶対返すって約束しても断られるの」
「そりゃああんたの日ごろの行いが悪いんだよ」
「そうかもしれないけどもうちょっと信用してくれても良いと思うんだよな。でさ、いくら貸してくれるの?」
「欲しい額を言ってみな、100万でも1000万でも貸してやるよ」
「1000万!そんなに?マジでそんなに貸してくれるの?」
「それくらいは全然何ともないよ、なにせ私は50億ほど持っているからね」
「50億!?なんでよ!占い師ってそんなに儲かるものなの?」
「なんでって私は占い師だよ、値上がりする株を見つけ出すくらいは簡単なことだよ」
「株で?!なにそれめっちゃ卑怯じゃんよ」
「何が卑怯なのさ、別に私は銀行強盗をしたわけじゃないんだよ。ただ株を買っただけだ」
「そ、そりゃあそうだけどさ、俺なんかやりたくもない飲み屋に雇われて酔っぱらって暴れてるやつの相手とかして毎日小金を稼いでいるっていうのにさ、株でちょちょっと金を稼ぐのなんかズルいじゃん」
「わかったよ。それじゃあそんなズルで稼いだ金はあんたには貸せないね………」
わざとらしくため息をつく。
「ちょっと待ってよそれは違うよ、違うじゃんか」
「何が違うのか私にはさっぱり分からないね」
土門は情けない顔をしながらレイラに縋り付く。
「さっきのあれは羨ましくてつい言いすぎちゃっただけだよ、本当はレイラだってわかっているんでしょ?」
「全く分からないね」
「ひどいよ、いじめだよ」
「まぁしょうがないじゃいか、酒も大事だが信念とかプライドはもっと大事だろう。向こうの世界はこっちとは違ってあまり強い酒は無いんだ。ワインとかビールに似たやつとかは有るけどね。わざわざこっちから持って行かなくてもそういうので楽しめばいいから無理する必要は無いね。入院費も出発までに自分で働いてしっかり返すんだよ」
「レイラごめん!俺が間違ってたよごめん!プライドなんかいらない、とにかくごめんよ許してよ」
夜景の光を浴びながら土門は土下座した。
「さっき言ったことは全部謝ります。この通りだから金を貸してください」
「貸してもいいけど返せるんだろうね?」
「へ?」
「なんだい、まさか50億円も持ってるんだから1000万くらいははした金なんだから返さなくたって困らないだろう、なんて考えているんじゃないだろうね。」
「い、いやそんなことは全然ないよ、はは」
嘘をついている時の人間の顔がそこにはあった。
「いくら持ってたって千円でも1万円でも大切な金だよ。冗談じゃない、そんなろくでもない奴には一円も貸せないね」
「返します。向こうの世界に入ったら絶対役に立ちますからそれで返します。俺めっちゃ頑張ってめっちゃ役に立ちますからお願いします」
勢いよく床に頭を打ちすぎて太鼓のような振動がしている。
「わかったよ。それじゃあいくらでも貸してやるから頭をあげな」
「あ、ありがとうレイラってすごくいい人なんだね」
立ち上がってきらきらとした目をレイラに向けている。
「随分ちょろい男だね」
「え?なんか言った?」
「何も言ってないよ。あんたはずっとそのままでいてちょうだい」
苦笑いしながら口元を押さえた。
「大量の酒を持っていくのはいいんだがどうやって富士山の山頂まで運ぶつもりだ?」
倫理が言った。




