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あの日凍える霊山で異世界人と出会った僕は………  作者: 青井銀貨
第2章 異世界から大都会東京へ
33/35

33話 ~冗談~

 


 高級ホテルの室内に運び込まれてくる料理の数々。土門の顎の先に透明な雫がゆっくり溜まっていって光を伴いながら落ちた。


「スゲー美味そう。こんなすごい料理を部屋まで持ってきてくれるなんてさすが高級ホテルだよ」


「人に極力会いたくない時には便利だよ。その分値段はずいぶんと高いことを言うけどね、このステーキだって1万円以上するんだからね」


「これが一万円かよ、こんなに何枚も頼んじゃって大丈夫なのかよ」


「これくらいは何ともないよ、あんたたちは何枚でも食いそうだから先に頼んでおいたんだ。足りなかったらまた電話で頼むから遠慮なくいいな」


「やったよめちゃくちゃ嬉しいよ」


「その代わり明日の朝は朝一から思い切り走ることになるから覚悟しておきな」


「朝から走るってなんだよ………もしかして食い逃げしようとしてる?」


 レイラは親指をぐいっと突き立てた。


「なんだよ全然大丈夫じゃないじゃんかよ!金ないんじゃん!」


「冗談だよ」


 笑う。


「なんだそうなんだ、もしかしたら本気で言ってるのかと思って少し焦ったよ」


「さあ温かいうちに食べようじゃないか、このスープは野菜の甘さが良く出ていてなかなかいけるよ」


「スープより肉だよ肉」


 凄まじい速さで肉を食いちぎっていく土門。


「うまっ!マジでうまいよこれ!全然筋張ってなくてさ簡単にかみちぎれるよ」


「嬉しいのは結構だけど肉の感想を噛みちぎりやすさで言うんじゃないよ。そんな感想は今まで聞いたことなよ」


「このソースもめっちゃ美味いよ、何味なんだこれ」


「なんにも分かってないじゃないか」


「わかるよ、美味さはめっちゃわかる、何枚でも食えるよこれ」


「まるで獣みたいに食べるじゃないか、やっぱり最初に思い切って10人前を頼んでおいてよかったよ、コンシェルジュは驚いて聞き返していたけどね」


「ありがとうなレイラ。こんなに美味い肉を食ったのは生まれて初めてだよ」


「そんなに喜んでもらえるなら高い金を出す価値はあるよ。それにしてもすごい勢いだね、あんたを見ていると向こうの世界のことを思い出すよ。活きのいい奴らはよくそんな感じで食べてたよ」


「へー楽しみだな、それだけ食うってことは向こうには俺より強い奴がたくさんいるんだろうな」


「ああ、たくさんいるよ。そしてそんな奴らでもすぐに死んじまうのが向こうの世界さ」


 土門が勢いよくむせる。


「なんだよ汚いね」


「汚いね、じゃなくてなんでそんな不吉なことを言うんだよ」


「事実なんだからしょうがないじゃないか」


「可哀そうなものを見るような目で見ながら言わないでくれよ、俺は簡単に死んだりしないってば。変なこと言われるとせっかくの肉がまずくなっちゃうじゃないかよ」


「その割には美味しそうに食べているじゃないか」


「レイラは知らないもんな、俺の実力。向こうに入ったらすぐに分かるよ、きっとレイラが思ってる何十倍も何百倍も強いんだからね」


「こんな言葉を知っているかい?」


「なにさ」


「強い奴から死んでいく」


「ぬぐっ」


「ほら、せっかくの高級な肉をのどに詰まらせているじゃないか。そんなに勢いよく詰め込むからだよ」


「そうじゃないよ、レイラがいきなり変なこと言うからだろ。びっくりして変なところに入ったんだよ」


 何度も咳をしながら抗議する。


「冗談だよ」


「レイラの冗談は笑えないんだよな、まじで」


「うーん、なんでなんだろうね。そこは悩んでいるところなんだよね、自分では最高に面白いと思ってるんだけどちっとも相手に伝わらないんだ。こっちの背かだけじゃなくて向こうの世界でもそうだったんだよ。なんだか場が急に静まり返るっていうかね、お笑いの番組を見て研究してはいるんだけどね、どうしてだと思う?」


「もー知らないよそんなこと。笑うっていうかなんか怖いんだよ、たぶんお笑いのセンスが壊滅的なんじゃないの?」


 高そうなコップの水を勢いよく飲み干してから再びステーキに取り掛かる。


「ずいぶんと無口じゃないか倫理、口に合わないのかい?」


 ナプキンで口を拭ってから体の向きを変えた。


「それとも何か気になることでもあるのかい?」


「なんだか少し感傷的になっただけだ」


 土門と違って静かに食べていた倫理も口を拭く。


「なんだもしかしてこっちの世界に残りたくなったのかい?」


「そうじゃないよ」


 勢いよく食べる土門を見ながら言う。


「俺はこっちの世界でやりたいことなんかないんだよ。こっちの世界は自分には合わないと思っているところもあったからむしろありがたいくらいだよ。だからそうじゃなくて今レイラと土門と一緒にいることが楽しい。だからこそ二人が死ぬのは見たくない、そう思ったんだ」


「倫理………」


「倫理さん………」


「レイラの言う通りいつ死ぬのか分からない世界だからな。向こうに入った途端に強大な敵と遭遇して何もできずに死ぬかもしれない、もしかしたら向こうの世界で一緒に飯を食うことは出来ないのかもしれない、そう思ったんだ」


「大丈夫っすよ倫理さん!絶対に俺が何とかします!俺が守ります!誰も死なせないですよ!いまはまだ倫理さんより全然弱いですけど、毎日頑張って努力して鍛えて、絶対に超えるくらいの強さになってみせますよ!」


「ああそうだな」


「あたしだって魔法に掛けちゃまだまだ負けないよ。こう見えても昔は大魔王と呼ばれている強大な悪魔を仲間と一緒に倒したんだからね」


 二人の力強いまなざしが倫理に向かう。


「そうだ、いいことを思いついたよ。さっき向こうの世界にこっちから物を持って行こうという話をしていただろう?」


「そうですけどいきなりなんですか?」


 食べるのをやめた土門がぽかんとした顔で聞く。


「線香を持って行こう」


「へ?」


「きっとやくにたつ。この中の誰かが死んだときにはその線香で弔うんだ、綺麗な花と一緒にね」


 静まり返る室内。


「冗談だ」


「ちょっと待ってくださいよ、倫理さんのお笑いのセンスも壊滅的じゃないですか!二人とも勘弁してくださいよ、せっかく良い飯なんだから美味しく食べましょうよ」


「わかってないねぇ。わたしはよりおいしく食べたいから気軽な冗談で楽しませようと思ったんだよ」


「だからお笑いのセンスが壊滅的なんだってば、もうなんでわかんないかなぁ」


「おかしいな………最高に面白い冗談だと思ったんだが」


 倫理は首をひねった。




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