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あの日凍える霊山で異世界人と出会った僕は………  作者: 青井銀貨
第2章 異世界から大都会東京へ
30/35

30話

 

 東京都歌舞伎町の人影がまばらな商店街のアーケードのはずれ。


 占い師美輪レイラが固唾をのんで見守る中で鳴守なるかみ 倫理りんりはゆっくり言葉を紡ぐ。


「恐らくその通りだろう、俺は異なる世界を行き来する力がある」


 レイラの柔らかいため息。


「これでようやくあたしは元の世界に戻れるんだね」


「そのためにレイラは俺に声を掛けたのか」


「そうだよ。私にはほんのわずかなものだけども予知夢の力があって、いつか自分が歌舞伎町のこの場所で特別な力を持つものと会えることは分かっていた。夢の中のその人物は白い靄のかたまりの中にいて人相も何も分からなかったし、いつのことなのかもわからなかったけどね。だからあたしはずっとこの場所で待ち続けていたんだ」


「そうだったのか」


「一目見た瞬間にピンと来たよ。ああこの男だ、間違いなくそうだってね。声を掛ける瞬間は体が震えたよ、私が夢で見たのは出会う所だけでその後どうなるかは一切分からなかったんだからね」 


「期待に応えてやりたい気持ちもあるにはあるが、ただ問題なのは俺自身その力を自分でコントロールできないことだ」


「むむむ………」


「ここにも自分の意志ではなくどうしようもなくて来てしまっただけなんだ。向こうの世界でやらなければならないことを残しているし約束もある。戻りたいのは俺も同じだ」


「あたしもできる限りのことはする。倫理はどれくらい向こうにいたんだい?」


「2日か3日くらいだな………」


「それなら魔法についてはあたしの方が詳しいね、二人の力を合わせればきっと元の世界に戻れるはずさ」


「ちょっと待ってくださいよ!」


 土門は悲鳴にも似た声をあげる。


「倫理さんはこれからどっか別の世界に行っちまうってことですか!?」


「うまくいけばそうなるな」


 コンクリートの地面に鈍い音を立てて膝から崩れ落ちた。


「駄目ですよ、そんな、ようやく俺は自分のやりたいことを見つけたんですよ。倫理さんと同じくらいの力を付けて正面からぶつかって勝つっていう目標が………それなのにすぐにもうどこかに行っちまうなんて………」


「俺はもう普通の人間にはない力を持ってしまっている。だから俺と土門は対等な勝負にはならないんだ」


 肩に優しく手を置いた。


「ボクシングにしろ総合格闘技にしろ上に行けば自分と同じかそれ以上に強い相手に巡り合えるはずだ。そっちを目指すという手もあるんじゃないか?」


 少女のように手の平で顔を掴んだ隙間からすすり泣く声がする。


「倫理はこの世界でやり残したことは無いのかい?」


「やり残したこと、か………」


「私も詳しいことは分からないが、出て行った世界と同じ世界に戻ってこれたことは奇跡かもしれない。現にあたしは魔王を倒した後でこの世界に飛ばされたんだが、一緒に飛ばされたはずの仲間とは未だに巡り合うことは出来ていないんだ。そう考えれば魔法によって飛ぶことが出来る世界はひとつではなくて、ほかにいくつもあるのかもしれない」


「なるほど」


「戻ってこれない時の事を考えてやり残しが無いようにしっかり終わらせてから向こうの世界に渡ったほうがいい。そうじゃなきゃきっと後悔するよ」


「そうだな、戻る場所も無いし待っている人間もいないからやり残したことなんて………まぁ、花でも添えに行くかな」


「花?」


「少し前に岩手県の岡ノ盛少年刑務所で火事が起きたことがニュースになったんだが知っているか?」


「それなら見たよ、かなりの大火事でほとんど全焼だったと聞いたね。夜中に突然発火して近くの林にまで燃え広がって大変だったらしい。原因については調査中としか言っていたが専門家も首をひねっているらしいじゃないの。建物はほとんどがコンクリート製でそこまで燃え広がることは考えられないとか」


「そのニュースで間違いない。実は俺はそこの受刑者だったんだ。独房でそろそろ寝ようかとベッドに横になった途端に異世界に転生させられたんだ。どうやらそのあとすぐに火事になったらしいんだ」


「そうだったのかい………」


「あの時はまさかまた戻ってくることになるとは思いもしなかったな」


「無事でよかったじゃないか。逃げ遅れて亡くなった受刑者が何人もいたそうだからもし残っていたらあんたも焼け死んでいたかもしれないよ」


「そうだろうな。なにせ俺の独房は出入り口から一番遠いところにあったから逃げるのは一番最後になっていただろうからな」


「それで倫理は火事の被害にあった人たちに花を手向けに行くわけだね」


「仲が良かったとまでは言えないが、それでも何度か世間話くらいはした受刑者も亡くなっているかもしれないからな。それにもしかしたら後でもう一度故郷の岩手を見ておけばよかったと思うかもしれないとも思った。感傷的すぎるか………」


「私にはその気持ちは良くわかる。あたしも元の世界に戻ったら両親の墓に花を添えたいと思っていたんだ。家を出た時は私も若くて喧嘩別れみたいになってしまって、それから家には一度も戻らないままこっちの世界に来てしまったからずっと気になってはいたんだ。倫理、あんたが今思っていることは正しいよ」


「そうか………本物の占い師が言うならそうなんだろうな」


「ああそうだよ」


 倫理は笑った、レイラも笑った。



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