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あの日凍える霊山で異世界人と出会った僕は………  作者: 青井銀貨
第2章 異世界から大都会東京へ
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31話  ~満月~

 


 高級ホテルの高層階から激しい雨の東京を見つつ鳴守なるかみ 倫理りんりは感心したように言った。


「占い師というのはずいぶん儲かるものなんだな」


「そうさ、あたしは腕のいい占い師だからね。一泊20万近くするようなこんな素晴らしい所を定宿にすることができるのさ」


 レイラはいたずらっぽく笑う。


「向こうの世界から見れば安全で何不自由のない暮らしに見えるけどね、人間は変わらない。常に不安と闘いながら生きている。面白いことに富と名声と権力を持つものほど目に見えない力の助けを借りたがるものなのさ。無くすことが怖いんだろうね」


「そういうものか」


「少し調べてみれば過去の偉人ですらもそうだったと言われていることがわかるよ。そういう人間たちはね値段が高くたって少しも構いやしないのさ、むしろ高いほうが当たると思っている節すらある。元手なんかあってないようなものだからぼろ儲けさ」


「随分と成功しているようだな」


「まあそうだね」


「それでも向こう世界に戻りたいと思うものなのだな」


「空気が違う」


 遥か下のほうから鋭いクラクションの音がする。


「何かで聞いたんだけど人間は子供のころから慣れ親しんだものを美味しいと思うそうだよ。母親の手料理とか郷土料理なんかがそうらしいんだ。私は空気もそういうものなんじゃないかと思っている」


「こっちには魔素がないからな」


「それもあるよ。けどそれだけじゃなくて花の匂いも雨の匂いも全てが違う気がするんだ。ここの空気でも生きることは出来ている、けれど満たされることは無い。向こうの光を感じたいし風を感じたい、土を踏みしめたい、肺いっぱいに空気を吸い込みたい。それは今の私にとって何にも代えがたい望みなんだ」


「そうか………」


「不思議なものだよ、昔は魔物なんか大嫌いだったのに今じゃ懐かしいと思うくらいだよ。子供のころには恐ろしくて母親のそばで振るえていたのに成長するにしたがって簡単に追い払うことが出来たりね。仲間たちと力を合わせて倒したレッドドラゴンの肉を焚火で焼いて食べた時の充実感とか達成感とかね、いつ死ぬかもわからない毎日も戦うことも大嫌いで戦いのない平和な毎日を生きたと思っていたのに、今は平和が苦しい」


「平和が苦しいか………分かる気がする」


「あんたこそ早く向こうの世界に行った方がいい。そうじゃないときっといつか頭がおかしくなるよ」


「そうだな」


 しばらくの沈黙があってルームサービスが軽食と紅茶とコーヒーを持ってきた。


「こんなものでもずいぶんな金をとるんだよ」


 レイラはクッキーをつまみながら言う。


「私にはスーパーで売っているものと味の違いなんか分からないけどね。それでも極力人間に会いたくない時には便利なものさ。ほら土門、あんたも食べな。さっきから黙ってばかりじゃないか、あんたみたいな普段元気な人間がそうじゃなくなると途端に雰囲気が悪くなるものだよ」


「倫理さん、レイラさん………考えたんだけど俺も異世界に連れて行ってくれないか?」


 決意を込めた瞳。


「今の話を聞いて俺も同じだと思ったんだ。子供のころはそんなでもなかったんだけど大人になっていくとなんだか息苦しくて窮屈で、ずっと退屈だった。それが倫理さんと出会って戦った時の俺は違ったんだ。一度も攻撃を当てることは出来なくて最後は信じられないくらい吹っ飛ばされたけどそれでも幸せだった、生きている感じがしたんだ。だからお願いします、一緒に俺を連れて行ってください」


 そのまま深々と頭を下げた。


「駄目だね」


 すぐさまレイラがあっさりと拒否した。


「はっ?!俺の心の底からの頼みをなにそんなに簡単に断ってくれちゃってんのよ」


「小旅行じゃないんだよ」


「分かってるよ、けど俺は真剣なんだ。なんとかいってくれよ倫理さん」


 倫理に向き合って縋り付く。


「連れて行ってやろう」


「さっすが倫理さん!」


「いくらなんでもさすがにそれは無いんじゃないのかい?さっきも言ったが二度と戻ってこれないかもしれないし私みたいに後悔し続けるかもしれないんだよ」


「それくらいは覚悟の上だよな?」


 鋭い視線に一瞬怯んだが背筋を伸ばして土門は言う。


「もちろんだ。何が起こってもこれは俺自身が決めたことなんだ。絶対に誰のせいにもしない」


「俺もレイラもお前もいつ死ぬかもわからない、向こうはそういう世界だ。俺自身たった数日いただけだがそれでも負けたら死ぬよりひどい目にあわされるところだったんだ」


「そんなにすげぇ所なのかよ異世界って」


「命知らずで血気盛んな若造を今までに何度も見てきた。そしてそういうやつらがあっけなく死ぬ姿も何度も見た。誰もが自分の腕と運を信じていた、けれどそんなに甘い世界じゃないんだよ」


「俺が死ぬはずなんかないさ!」


 ギラギラした眼差しで胸を張る土門を見てため息をつくレイラ。


「土門」


「?」


「お前ならできるさ」


 頭が真っ白になるほどの喜び。


 認められた。


 それはずっと欲しかったもの。土門は赤子のころ孤児院の前に捨てられていて親は誰かは分からない。他の子供たちの手前明るく振舞うようにはしていたが、他の子供たちと同じようにずっと孤独を感じていた。


 喧嘩には自信があってその面では認められていたが、それはあくまでも県下の道具としての評価だと感じていた。けれど倫理の言葉からはそれ以上のものを感じた。出会った時間は三時間がそれでも自分という人間の人間性を含めて認められていると感じた。


 心の底から感じる幸福だった。


「倫理さん!ありがとう。やっぱ倫理さんだよな、俺は一生ついていくよ!」


「レイラはどうだ?」


 抱き着いてきた土門を見て苦笑いしながらレイラに向き直っていった。


「本人がそういうならいいんじゃないかい」


「それならなんでさっきーーー」


「本気かどうか確かめたまでの話だよ。もともとあんたみたいな目をしたやつがそう簡単に引き下がるとは思ってないよ」


 肩をすくめて呆れたような諦めたような表情で少し笑う。


「私たちが狙うのは満月の富士山の山頂。それまでに各々準備しておいておくれ」





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