29話 ~占い師レイラ~
昼時の東京都歌舞伎町には健やかな青空が広がっている。
「ようやくお出ましかい」
簡素な机と椅子に黒い布を掛けただけの小さなスペースにいる青紫色のローブを着てグレーのマスクを付けたいかにも占い師という姿の小柄な女がしわがれた声で言った。
「ずいぶんと待たせてくれたものだね。あんたの肝の太さには驚かされるよ、普通なら気になって仕方がないと思うんだけどね」
「気になってはいた。だから本当はもっと早く来るつもりだったのだが、なかなか上手くいかなかったんだ」
「私の方は一日千秋の思いで待ってたよ。運命の男、鳴守 倫理」
「運命の男ぉ?つまりこの婆さんは倫理さんに惚れてるっていうことですか?」
倫理の後ろにいた体格のいい男がひょっこり顔を出して言った。
「なんだいこの極度に頭の悪そうな男は?」
占い師は土門に対して冷ややかな視線を浴びせる。
「俺の名は鎌苅 土門だ。婆さん占い師なんだろ、それなら俺を大金持ちにしてくれよ、本物の占い師ならそれくらいできるだろ?」
「ああいいよ。その代わり前金で100億もってきな」
「100億ぅう!?」
「私の占いはそんなに安くないんだよ、分かったら大人しくしてな小僧」
「なんだよ!それで俺のことを言い負かしたつもりかよ、全然効いてねえぜ。それに俺は小僧っていうほどガキじゃねぇよ22歳だぞ」
「22?ずいぶんと老けて見えるね32かと思ったよ。けど22だろうが23だろうが私から見ればどっちも十分に小僧だよ」
「ちょっと倫理さん何なんですかこの婆さんは、めちゃくちゃ口が悪いじゃないですか。それに俺はそこまで老けてないですよね、大人っぽいとは言われたことはありますけど今まで老けてるなんて言われたことなんか一度も無いんですよ俺は」
眉を派の字にして縋り付くように倫理を見るが彼は口を真一文字のままで一切動かさなかった。
「そこのガタイだけは良い頭の悪そうな小僧」
「俺の名前は土門だっていってるだろ!ちょっと助けてくださいよ倫理さん、心がめちゃくちゃ削られて俺はもう泣きそうですよ」
「それじゃああんたのことはお望み通り土門って呼んでやるから、あたしのことも婆さんじゃなくてレイラさんって呼びな、ここでは美輪レイラの名でやっているんだ。奇跡の占い知って評判なんだよあたしは」
「初めてまともに話したけど占い師ってみんなこんなんなんですかね?」
土門は倫理に話しかけたつもりだったがレイラがすぐに反応した。
「あたしをほかのやつらと一緒にするんじゃないよ、占い師なんてものは99.9%偽物って相場が決まってるんだよ!あたしは数少ない正真正銘の本物さ」
「はぁ、そうですか………」
「なんだいそのいい加減な返事は」
「だって俺は占いなんか信じてないしまだ何も占ってもらってないから本物かどうかなんかわからないじゃないか」
「ほう。そこまで言うなら占ってやってもいいよ」
「本当か?そこまで言われたらなんかちょっと楽しみになって来るな」
「いや、それよりもいいことを考えたよ」
「なんだよその不気味な笑顔は」
「あたしは正真正銘本物の占い師だけど呪いをかけるのも一級品なんだよ」
「呪いぃいい!?」
「次々と苦難がやって来る呪いでもかけてやろうか」
「へっ!苦難なんか俺の力でどんどん解決してやるよ。俺が怖いのは退屈なんだ」
「ひっひっひ!いいことを聞いたよ良いことを聞いた。お前にはこの地球のどこにいても一生平凡なことしか起こらない呪いをかけてやろう」
「おいちょっと待てよ!それだけは止めてくれ、退屈で死んじまうよ。なあ止めてくれって!おい!」
「うんびゃらぽかぽかおもしろくなさすぎてみるのがつらいかんだあいかはいったいだれがなんのもくてきできゃすてぃんぐしたんだんごにょろにょろ………」
「うわーー!変な呪文を止めてくれってば!頼むからやめてくれよレイラさん!」
「一度異世界の話に戻そう」
緩んでいた空気が倫理の言葉で一気に引き締まる。
「その小僧の前でその話はしない方がいいんじゃないかい」
「聞かれたところでどうなるものでもないと思うが?」
「そう………だね。他の人間に放したところで頭のおかしい奴だとしか思われないだろうからね」
「レイラさん、あなたが向こうの世界からやって来たのは間違いがないんだな?」
「そうだよ。あんたと違って向こうの世界で生まれ育って、それでこの世界に連れてこられたんだ」
「一体何の話をしているんだ?」
土門は全く理解できていない様子。
「今の話の通りさ、あんたも聞いていただろう」
「聞いていたけど、異世界って、えっと………」
「その顔」
「俺の顔がどうしたんだよ」
「向こうの世界にはあんたにそっくりな奴がいっぱいいるよ、オークって言うんだけど丸焼きにすると最高なんだよ、顔の割に油があっさりしていて食材として大人気だったよ」
「ちょっと倫理さん、この婆さんはさっきから何を言っているんですか?なんか俺のことを豚肉みたいな言い方してませんか?」
「ひっひっひ!いい勘をしてるじゃないかその通りだよ」
「ちょっと倫理さん、俺にも分かるように教えてくださいよ」
土門は泣きそうになっている。
「そうだな………漫画とかゲームでよくあるだろう異世界冒険ファンタジーとかの設定のものが。モンスターとか魔法とかドラゴンとか、そういうのが出てくる世界があるんだよ。俺自身もつい最近までその世界にいたんだ」
土門の肩に手を置いて落ち着かせるようにして笑う。
「いやまじですか、倫理さん」
「まじも何も土門は自分の体でそれを感じただろう?」
「あっ!」
「そうだ、俺が最後にお前を吹き飛ばしたのは魔法の力を使った攻撃だったんだ」
「それであんなに俺は飛ばされたんですか」
「反則みたいなものだが、あれはもうすでに俺の一部になっているから手加減しすぎるのは、本気で向かってきているお前に失礼だと思ったんだ」
「そういうことですか、確かにあの時の倫理さんの力は異常でした。10tトラックにでもはねられたみたいな衝撃でした。それなら確かに納得できるかもしれないです」
土門の目と口は真ん丸だ。
「倫理、あんたに一つ聞きいておきたいんだが………」
占い師レイラの顔は布で覆われているが、声のこわばりで緊張ははっきりと伝わって土門ですら空気を読んで口を閉じた。
「あんたはあたしと同じように魔王を倒してこの世界に送られたのかい?」
「違う」
息を吐く音。
「それはよかった、本当に良かったよ。もしそうなら私はまた待たないといけないところだった。私は向こうに戻りたい。そのための鍵となる存在がようやく表れた。鳴守 倫理、あんたはきっと異なる世界を行き来する魔法を持っている」




