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あの日凍える霊山で異世界人と出会った僕は………  作者: 青井銀貨
第2章 異世界から大都会東京へ
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28話 ~再会~

 


 自動ドアが開いて一歩踏み出すと男のはつらつとした声が響いた。


「ようやくお目覚めですか、待ちわびましたよ兄貴」


 朝の東京都新宿区歌舞伎町。そこにあるラブホテルTHE・HOTELHOTELから出てきた鳴守なるかみ 倫理りんりの目の前には地べたに座り込んだまま笑顔で見上げる鎌苅かまがり 土門どもんの姿があった。


「せっかく気持ちのいい青空だと思ったのにいきなりむさくるしい男が待っているとはな」


「いやいやいきなり結構なことを言ってくれますね、俺だって調子がいい日は男前だって言ってくれるやつもいるんですよ。なぜか女は寄ってこないですけどね」


 土門は皮膚の弛んでいないブルドックみたいな顔をして笑った。


「けど俺も最初はホテルのロビーで待ってたんですよ。そしたら神経質そうな女の従業員になんか邪魔だからここにいないでくれって言われちゃって。けどどうしても会って話がしたいから、そしたらここで待つしかしょうがないじゃないですか。それにしても大分お疲れだったみたいですね、丸一日部屋から出てこないってホテルの人も困ってるみたいでしたよ」


 笑顔で立ち上がり手の平で自分の腹を勢いよく叩いた。


「俺はそんなに寝ていたのか」


「そうですよ、その間俺はずっと待ってたんですから」


「このホテルのことははじめから聞いたのか?」


「そうです、すぐに教えてくれましたよ。チンピラの奴らに追われるかと思ってひやひやしてたけど最後は丸く収まってよかったとか言って自分の運の良さを自慢してましたね」


「お前はずいぶんと元気そうだな」


「お前じゃなくてできれば名前で呼んでくださいよ兄貴、俺の名前は鎌苅かまがり 土門どもんっていうんです。お前って言われるとなんか人として扱われてないんじゃないかっていう気がして嫌いなんです」


「それじゃあ俺のことも倫理という名前で呼んでくれ土門。兄貴になったつもりは無いんでな」


「わかりました。それじゃあお互い名前で行きましょうか倫理さん。あれだけ本気でやり合ったんですからもう仲間といっても過言じゃないでしょう」


「過言だよ、それは」


「あいかわらずクールですね。さぞや女が放っておかない事でしょう、うらやましいですよ全く」


 土門は巨体を逸らしながら笑う。


「病院に入院していたんじゃないのか?」


「病院?あんなところはすぐに出ましたよ。寝ている時もあの時の事が夢に出てきて体がほてって熱くてたまらないんです。それで病室の中で腕立てとか腹筋をしていたら看護師の人から怒られちまってもうあなたは回復しているから出て行ってくれって言われたんですよ」


「もう治ったのか。ぶつかった車はかなり壊れているように見えたんだが」


「俺は子供のころから頑丈なのが取り柄なんですよ木から落ちたり崖から落ちたりバイクに撥ねられても怪我なんかしたことなかったんですから。それが倫理さんのあの攻撃で初めて怪我をしたんですよ。看護師の人が言うには後頭部が切れて血が出てたから縫ったらしいんですけど回復力が異常で皮膚が糸を巻き込んじまって抜糸できないんですって」


 嬉しそうに早口でまくし立てる。


「何か用があって俺のことを待ってたのか?これから用事があるんだが」


 このままではいつまでしゃべり続けられるか分からないとばかりに倫理は話を切った。


「用事ですか?それだったら終わって帰ってくるまでここで待ってますよ。俺の方は用事ってほどでもないんですよ、ただ聞いてほしいってだけで」


「占い師と会う約束をしているんだ」


「占い師ぃ?!やっぱり倫理さんは果てしなく想像を超えてきますよ。まさか占いを信じるようなタイプには見えませんでしたよ」


「別に信じているわけじゃない。ここに来る間に初めて出会ったんだが、重要なことを知ってそうな口ぶりだったから一度話を聞いてみたいと思ったんだ。これからどうすればいいのか迷っているのは事実だからな」


「そうなんですか、占い師なんて人を騙して金をふんだくってる奴らかと思ってましたよ。けど倫理さんが興味を持つなら俺もその占い師に一度会ってみたいですね」


「それなら一緒に来るか?」


「え!いいんですか?」


「話したいことがあるって言ってただろ、歩きながら聞くことにするよ」


「いいですね、俺はせっかちで本当は待つのが嫌いなんでそうしてもらえると助かりますよ。いやー倫理さんが話が分かる人でよかったなぁ。あ!あそこの店のね焼肉丼は結構いけますよ」


「ほう」


「俺は結構このあたりで仕事をすることも多いんでうまそうな店を見つけたらとにかく入ることにしているんですよ。結構入れ替わりが激しいんでせっかくいい店を見つけても次に行こうと思ったら無くなってるなんてことも結構ありますけど。倫理さんはこの辺はあまり来ないんですか?」


「歌舞伎町には来たことが無い、というか東京自体が初めてなんだがな」


「ええ!?そうなんですか、それにしては堂々としてますね。服装もなんだかしゃれてる感じがしますよ」


「それは店員に感謝しないといけないな。マネキンが着ているやつをそのまま買ったんだ、服装にはそれほど興味は無いんだ。清潔であればいいと思っている」


「そうなんですか、俺は結構派手目が好きですね。今はアメカジとかが結構興味有りますね、映画に出てくるみたいな昔のアメリカの服を着たらその時の匂いがする気がするんですよね」


「あの店は人気なのか?」


「結構人気ですよ、炭火を使って肉を焼いてそれを丼に乗せているんで肉の香りがいいんですよ、かかってるタレはニンニクが聞いた味が濃い目のやつなんで女の人には向かないんですが男の好きな味ですよ」


「いいな、そこで飯を食ってから行こう」


「占い師との約束の時間は大丈夫なんですか?」


「時間なんか決めていないよ、あとで会いに行くという話だけはして別れたからな」


「なるほど、それじゃあ行きましょうか」


「それで、土門の話というのはなんだ?ずっとあのラブホテルの前で待ってたということは何か重要な話なんだろう?」


「そうですね………恥ずかしいんですけど実は俺、体を鍛えることにしまして。それを兄貴、じゃなくて倫理さんに知ってもらいたかったんですよ」


「それを言うためにわざわざ待っていたのか?」


「実は倫理さんともう一度闘いたくて」


「それでさっきの鍛えるという話になるのか」


「そうなんです。実は俺いままで体を鍛えるとかやったことが無くて、けどあの日思いっきりボコボコにされて。でも俺本当に楽しかったんですよ、前も言いましたけど最近は誰も喧嘩の相手してくれるやつがいなくて退屈だったんです。それなのに倫理さんは相手をしてくれた、しかも正面から真っ直ぐに俺を負かせてくれた。意識がぶっ飛んでいくときが俺はこれ以上ないくらいに幸せだったんですよ」


 土門は熱っぽく語る。


「もう一度闘いたい、今度は俺の拳を思いっきりねじ込んでみたい。けど今の俺じゃあ弱すぎる。それなのにもう一度闘ってくれなんて恥ずかしくて言えないですよ。闘うっていうのは同じような実力の相手とじゃなきゃ意味が無いですからね。弱い犬が吠えたところでうるさいだけなのと同じですよ、そんな風に俺はなりたくない。俺は対等に闘いたい、だから鍛えることにしたんです。倫理さんと同じ土俵に立つために」


 肩を並べて歌舞伎町の歩道を歩く体格のいい二人。


「そうか………」


「だから約束してくれませんか、俺が強くなったらもう一度闘ってくれるって」


 告白でもしているかのように土門の顔は赤かった。


「おい」


「あれ!?」


 その店の正面には「準備中」の木札が欠けられていた。


「ちょっと待ってくださいよ倫理さん、これは、えーと」


「ここに営業時間は11時30分からと書いてある。今は何時だ、俺は時計も何も持ってない」


「ちょっと待ってくださいよ」


 ポケットからスマホを取り出した土門の鼻は油でテカっている。


「9時28分です」


 歌舞伎町にため息の音がした。



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