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あの日凍える霊山で異世界人と出会った僕は………  作者: 青井銀貨
第2章 異世界から大都会東京へ
26/35

26話

 


 土門は突進しながら体勢を低くして相手の臍の辺りに思い切ってぶつかった。しかし鳴守なるかみ 倫理りんりは巨木のようにびくともしなかった。


「ふぐぅおおおーーーーーーーー!」


 両足の太ももに回した両手に対しても同時に力を籠めるが一向に体勢が崩れない。


「なるほどな、思っていたよりはやるじゃないか」


 頭上から声が聞こえる。そこには少しの力みも無い落ち着き払っていた。


「まさかこんなに違うなんて、ありえない。なんだこの重さは、なんでこんなに動かないんだ」


 顔を真っ赤にした土門の頭を二度軽く叩いた倫理が言う。


「そろそろこちらからも少し押してみようか」


 わきの下に手を入れられて強制的に上半身を立たされる。


「ほら」


 まるでペットボトルを投げ渡す時のような気楽な声で土門の大胸筋に両手の手のひらをあてがって一瞬だけ力を入れた、それだけで十分だった。土門の100㎏ほどある体は完全に宙に浮いてそのまま後方のビルに叩きつけられてその振動で離れた場所のトイレのガラスが割れた。


「はがっ………が、が、」


「なんだもう降参か、思ったよりも大したことは無かったな。上には上がいるということがこれでよくわかっただろう。これからは身の程をわきまえて雑魚との喧嘩で満足するんだな」


 少し呆れたような顔をしてビルにめり込み白目を剥いた土門を見下す。


「ま、まさか、これくらいなんでもないって。当たり前じゃん」


 ぐるりと眼球が回転して黒目が戻り、すぐに言い返す。


「いや、さすがにちょっと焦ったな、それは認めるよ。一瞬だけ気を失っちゃったよ、一瞬だけね、けど全然まだまだこんなもんじゃ終わらないでしょ。それにしてもすごいね、こんなに強いやつには初めて出会ったよ、ここで終わったらもったいなすぎて一生後悔するでしょ」


 メリッという音がして土門はビルから体を引き剥がして笑った。


「ほら全然大丈夫だよ、傷ひとつついてないから俺の体の心配ならいらないよ」


 体についたコンクリートの欠片を掃った後で、飛び跳ねてまだまだできるとアピールする。その跳躍力は明らかに常人の域を超えていて100㎏を超える体格でありながらバスケットボールのリングに頭をぶつけそうなほど跳んでいる。


「正直言うと今のは結構手加減したんだ。タックルは最初の勢いが大切だからね。それじゃあいくよっと!」


 宣言通り先ほどよりも早く、なおかつ相手の鳩尾に頭から突っ込む。それでもなお倫理は微動だにせず即座に先ほどと同様わきの下に手を入れて土門の体を起きあがらせる。


「手加減したのは俺も同じだ。今度はもっと強くいくぞ」


 再び土門の体が吹っ飛ぶ。


「二度も同じ手を食ってたまるか!」


 空中で体勢を変えて足からビルに着地する。スクワットのように両足のクッションで叩きつけられる衝撃を逃がす同時に力を蓄えて発射する。


「うをらぁあああーーー!」


 そのまま一直線に倫理の顔面に向けて発射された土門ロケット。目的地に到着する寸前で掌底が右頬に直撃してしまい軌道が逸れ、顔でアスファルトを擦りながら滑っていくはめになった。


「はひっ、痛てぇ、めっちゃくちゃ痛てぇ、こんなんじゃナンパもできないよ酷いことするなぁ。ああ、やっぱり鼻が折れているよ」


 土門はすぐに立ち上がった。泣きそうな顔で自分の顔を両手で触り、曲がった鼻を指の力で強引にもとの位置に戻す。そして何事も無かったかのように鼻血を出したまま倫理の元へ歩み寄る。


「信じられないな本当に人間か?」


 眉をひそめながら倫理が言う。


「人間だよ人間。両親は事故で死んじゃっていないけどね」


「もしかしてあの時の俺より強いか?」


「何あの時って、小学校とか中学校の時ってこと?それはひどいよな、いくら強いからってそれは言いすぎでしょ。あ、鼻血止まった、よかったよ呼吸しずらいし何より痛々しいもんね。勝負はまだついていない。まだまだこれからだよね」


「勝負を逃げる奴らの気持ちが良くわかるよ」


「なにそれ?」


「耐久性が異常だよ」


「まあそれはね、結構自信あるんだよ。けど今日でその自信も結構無くなって来たかもな、倫理さんってばいくら押してもびくともしないんだもんな、地球でも押してるみたいな感覚だよ、これは絶対動かないぞってね」


「地球を押そうなんて考えるやつの気が知れないよ」


「そうなの?男だったらみんな考えてると思ってたよ」


 倫理がひとつ息を吐く。


「これで最後にしよう」


「もう終わりなの?そういえば少ししか無理とか言ってたっけ」


「随分と物分かりがいいな」


「約束はちゃんと守るよ。俺はそういう男さ」


「最後に一発俺はお前の腹に掌底を食らわせる。それをお前が立ったまま耐えきったらお前の勝ちにしようか」


「何その決着の方法、めっちゃ面白いじゃん。俺は耐えればいいわけね」


「そうだ」


「けど腹に来るって分かってたら腹筋固めちゃうから全然耐えられちゃうと思うんだけどな」


「まあ、無理だろう。実のところ俺がやってることは反則みたいなことなんだ」


「どういうこと?普通に正々堂々の勝負だったよ」


「俺の中では明らかに違う。それもまあ最後の一撃でもしかしたらわかるだろう、問題は手加減できるかどうかなんだ」


「下加減なんかいらないよ、死んでも文句言わないからさ」


「それならまあやってみようか」


 土門は子供のように笑う。


「なんか意味深だね、なぞなぞか何かなの?」


「そんなのじゃないんだ」


 倫理はゆっくりと右の手のひらを土門の腹部に優しく当てた。


「?」


 どぅふ、という音がした。


 100㎏を超える土門の体は港区の路地裏を一直線に通過して大通りに出た後で信号待ちの2トントラックにぶつかって磔状態でめり込んだ。


 街は喧騒につつまれる。


 土門は路地裏の方を見つめ笑ったまま口から血を吐いて親指を立て、ゆっくりとトラックから剥がれ落ちて地面に倒れ込んだ。




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