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あの日凍える霊山で異世界人と出会った僕は………  作者: 青井銀貨
第1章 少年と異世界犯罪者の出会い 
19/35

19話 ~審判~

 

「無事に帰ってこれたんだな」


 優しい笑みを浮かべているケヤキさんを見て、霊山リョウゼンフガクへ月聖花を採りに行った僕を心配してくれていたのだということに気が付いて涙が出そうになった。


「はい、なんとか帰ってこれました」


「それは良かった、心配していたんだぞ」


「ありがとうございます」


 真っ直ぐにみられることが何だか照れくさくて全身が痒いような気がする。月聖花をめぐってはケヤキさんとは意見が合わなくて、喧嘩別れではないけれどお互いに意見は合わないままで僕は出かけてしまったので、その時の事を思い出すと心臓がぎゅっとする。


「月聖花は採ってこれたのか?」


「はい、多分ですけど………今はこの瓦礫の下にあると思います」


「それは実に素晴らしいことだ、自分の命をかけて妹を救うためにあの厳しい霊山の山頂まで行くことは並大抵のことじゃない。しかしそれならばすぐにエンカのためになる行動をするべきじゃないか?お前は今何をしているんだ?」


「う、すいません………」


「お前がもし怪我でもして動けなくなれば誰が妹の面倒を見るのだ?前にも言ったがお前は自分一人で生きているわけじゃない。しっかりと考えて正しい行動をしなければならないのだぞ」


「はい。その通りです、気を付けます」


 本当は言いたかった。ドクロのスキルを使うあの男が一対一の戦いに割って入って、しかも後ろから倫理さんの首をナイフで斬りつけるという卑怯な真似をしたから許せなくなって戦ったのだと言いたかった。


 けれどそれが本当に正しい行動なのかと言えばそう言い切ることは出来ない。山に登る前の僕ならば妹の命を一番に考えるべきだ、ほんの少し前に出会った知らない人のために自分より格上の相手に対して戦いを挑むべきではないとはっきり言い切ったはずだ。けれどその時と状況が違うし、ケヤキさんはあの時の状況を知らない。


 だから本当はケヤキさんが言っていることが完全に正しいことだとは思わない。ただ、しっかりと考えて正しい行動をしなければいけない、それはその通りだと思う。自分のしたことが間違っていることかどうかはまだ整理がつかないけれど、慎重に考えて行動すべきだったのは確かだ。


「分かればいい」


 ケヤキの表情が緩んだのを見てユウキは安堵した。


「それで………尋常では無い魔力を発しているあなたはどこのどなたでしょうか?それだけのものを持っていれば当然この国でも名を上げられていて、私が知らないはずがないと思うのですが、全く心当たりがありません」


 ケヤキは倫理と向かい合う。


「俺の名は鳴守なるかみ 倫理りんり。この世界とは別の世界からやって来たものだ、ここで言われている落とし子という存在だ」


「落とし子………それは………」


「それは間違いないと思います」


 ケヤキはきっと本物の落とし子であるかどうかを考えているのだと想定して口を出すこの世界にとって特別な存在である落とし子には、偽物が非常に多いということはユウキも知っているくらいに有名な話だからだ。


「リョウゼンフガクの山頂の光の中に倫理さんが横たわっていたのを僕が見ています。しかも服を着ていない状態で。それにあっという間に食人アフライも倒してみせました。そんな人が偽物のはずないと思います」


「なるほど、霊山リョウゼンフガクの山頂で」


 ケヤキの探るような視線を倫理は堂々と受け止める。


「それでは鳴守なるかみ 倫理りんりさん。貴方はどうしてこの世界へとやってこられたのですか?破壊するためですか?」


「何をするためも何も自分の意志で来たわけじゃない。気が付いたらこの世界にいて、気が付いたら恐ろしい化け物が目の前にいて魔法を使って戦い、そして雪山から降りてきただけのこと。目的なんかはありはしない」


「そうですか、安心しましたよ」


「しいて言うならば………」


 緊張が走る。僕自身もユウキさんが何をしたい人なのかは全く知らないから怖さと興味が半々くらいの気持ちで言葉を待つ。


「楽しみたい。異世界に来るというのはそういうことだと思っている」


「そうですか。しかしこの世界の人間の中で暮らしていこうと思えば、そこにあるルールは守ってもらわないといけません。そうでなくては一緒に暮らすことなどできない、貴方はこの国のルールに従うことが出来ますか?」


 これは審判なのだとユウキは思う、きっとこの後の倫理の返答によってケヤキは態度を大きく変えることだろう。ずっと世話になってきて分かるのはケヤキと言う人は道理が通らないことが大嫌いだ、それはたとえ子供でも変わることが無くユウキも何度も叱られてきた。


 今のケヤキが言っていることはまさに通りだと思う。ルールを守らないことには集団の中で生きていくことは難しい。けれどその反面、絶対か?と問われればそうではないことを知っている。権力者は自由にルールを曲げることが出来る。貴族と平民では立場が違うし適応されるルールも違う、決して平等ではないのだ。権力とは力であって、力はルールを捻じ曲げる。


 力を持つ存在である倫理は、にこやかに言った。


「もちろん」



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