18話 ~説教~
「うわぁ………」
巨大な白い犬のような姿をしたユウキは立ち止まって感嘆の声を上げた。空から降ってくる色とりどりの花びらと甘く優しい香りに包まれてまるで天国にいるかのように心地よくて、強張っていた全身から全ての力が抜けた。
辺りを見渡せば自分だけではなくその場にいる他の3人も同じように立ち止まって、あまりにも美しいその花びらの虜になっていた。僕は冒険者ギルドで下働きをさせてもらっているので色々な冒険者を見てきているのだけれど、街全体を包み込むくらいに広範囲に花びらを降らせるなんていうことをできる人はただ一人しか知らなかった。
「ケヤキさん………」
「知り合い?」
いつの間にか近くにいた倫理さんが優しい笑顔で言った。さっきまでの戦っている時の表情とは大違いだ。
「この街で冒険者ギルドのギルド長をしているケヤキさんです。僕の親代わりのような人でもあります、ああどうしましょうか」
「そんな顔をしてどうしたんだい?」
花びらをきっかけにして大分冷静になってきた僕は今自分がどんな状況にいるのかに気が付いた。最初は兵舎ががれきの山になって大変だと思っていたのが、戦っているうちに段々とその範囲は広くなっていって、いまでは十数件の家ががれきになってしまっている。
その中心に僕もいる。
「ほら見てください、あの歩き方で分かります。きっとケヤキさんはかなり怒っています、街をこんなに壊してしまったのだから当然なんですけど相当怒られてしまいます、ああ、どうしましょうか、最悪ですよ………」
「確かにこれはひどいな」
顎に手を当てながら周りを見渡してしみじみと言う。
「そんな他人事みたいな」
「しかしね、この破壊の大半はあそこのドラゴンじゃないか」
「そうかもしれませんけどそんなこと言っても分かってくれませんよ。僕たちが関わっているのは紛れもない事実なんですから」
ああなんてことだ、僕はケヤキさんみたいなタイプの人に怒られるのが一番いやだ。感情的に声を荒げることなく淡々と何が悪かったのかを理論的に説明してくるので、それが終わった時にはズドンと落ち込んでしまう。
嫌すぎて倫理さんの背中の後ろに隠れてしまおうかと一瞬思ったけれど、そういう態度は一番ケヤキさんが嫌うことだと思い直して諦める。
ああそうだ、月聖花のこともすっかり忘れてしまっていた、本来なら一番忘れてはならないもののはずなのに、いったい僕は何をしてるんだろうか、早くこの瓦礫の中から探し出さないといけない。幸いにしてスキルを使った時の僕は鼻がかなり利くようになるので、独特のにおいがする月聖花を探し出すのは普通の人よりは苦労しないはずだった。
「何をしているんですか?」
足音が止まって瓦礫の上に響いたのは、落ち着いた冷たい声だった。ただ一つ良かったことはケヤキさんが真っ先に目を向けたのは僕ではなく赤いドラゴンの所だったことだ。
「いや、何と言われてもな、まあ、見たままだ………」
ドラゴンが明らかに意気消沈していた。
「国王である貴方が自分の国を壊すというのはいったいどういう了見ですか?
「え………」
僕は自分の耳を疑った。
「そしてヘルエイムさんでしたね」
もう一方の方の男に体を向けて言う。
「貴方が槌いていながら何をしているんですか。この現状を見なさい、王の暴走を止めることもあなたの仕事であるはずです。一緒になって街の中で暴れるとはまるで子供ではないですか」
「私は王の身を守ろうと」
「この期に及んでまだ言い訳をしますか。客観的に今の状況を見てとてもそんな風には見えません」
「ぐぐぐぐ………」
ある程度離れていても男が奥歯を力いっぱい噛みしめているのが分かる。
「さてユウキ………」
振り返ったケヤキさんに見つめられて僕の心臓は大きく高鳴った。




