17話 ~ギルド長ケヤキ~
ケヤキは目を疑った。
冒険者ギルドでギルド長を務めるケヤキがこの地を離れたのはたったの一日だった。何の前触れもなく突然領主に呼び出されて行かないわけにはいかなかった。胸騒ぎは有ったがそれでも副ギルド長に仕事を託していたから問題など何もないはずだった。
人々が平和で安心して暮らせるようにと毎日途方もない量の仕事をこなし、思い通りにいかずに腹の立つこともあるが、それでも愛着のある街がいま途方もないピンチに陥っていた。
ドラゴンが火を噴く。
巨大な白い犬が走り回る。
ドクロが飛びまわる。
太い雷が連続で落ちている。
その中心にいる4人、あるいは4つの生命体を中心として町破壊され人々は逃げまどっている。兵士とギルドの職員はこの混乱を何とか鎮めようと奮闘し、火に水をかけるなどしているのだが、あまりにも人手が足りていなかった。
たった一日ほどこの地を離れただけだというのに、まさかここまで変わっているとは想像だにしていなかった。
「なんですかこの惨状は………」
「さっきからずっとあの様子で外からいくら声を張り上げても届きやしません、オラァもう参っちまって参っちまって、どう仕様もねぇんです。このままじゃ街がぶっ壊されちまいます、頼んますからなんとかしてくだせぇよケヤキさん」
兵士隊長ケビンが今にも泣きだしそうな顔で言った。精神的に相当追い詰められているようで、いつもの兵士らしいしっかりとした口調と違ってどこぞのチンピラのようになっている。
「こんな化物みたいな魔法使い同士の戦いなんて普通の兵士じゃどうしようもありません」
「そんなことはありません、緊急対策マニュアルを思い出してください。スキル所持者同士の街中での決闘、こういう場合の対処も定められているはずです」
「マニュアルなんてそんなもの!あっ、すいませんギルド長」
ケヤキの顔色を見たケビンがとっさに謝る。
マニュアルはケヤキが忙しい業務の間をぬって自ら作成したもので、必ず役に立つと自分では思っていたのだがケビンの反応を見るに現場で実際に働く兵士たちからはどうやら無意味なものと思われていたようだった。
「もちろんマニュアルの通りに威嚇射撃なら何度もしていますよ。けどそんなもの何の役にもたちゃあしません、だってほらあの雷がすご過ぎるんですよ、うちらが持ってる魔銃よりも何倍も音がデカいんですからね。撃ったってすぐにかき消されちまいますよ、それにたった3人で威嚇したところでどうしようもありません」
ケヤキは舌打ちをした。しかしその音も戦いの音によってかき消された。
「その場合は人数を増やして対応することになっているはずです。マニュアルを読んでいないんですか?」
「そんなこたぁもちろんわかってますよ。けど3人以上の兵士でもって威嚇射撃をするって時にはギルド長か副ギルド長の命令が必要ですよね?」
「もちろんです、武装した兵士が集団で行動を起こせば住人がパニックになって収拾がつかなくなります」
「そりゃあ分かってますよ、分かってますけどその許可を出す人間がいねぇんですよ!」
「何を言っているのですか、確かに私は領主に呼び出されていて連絡がつかない状態でしたが、副ギルド長のカツミさんがいるはずです。何かあった時のために留守は頼んでおいたのですから」
「あんな血筋だけが取り柄のボンクラなんか何の役にもたちゃあしませんよ。騒ぎが大きくなるや否や「急用ができた!」とかいって誰よりも早く逃げ出しちまいましたよ。見てくださいよ、これ以上の急用なんかどこにあるっつうんですか!」
ケヤキは額に手を当てながらため息をついた。
「困った人ですね。それに有事の際に迅速に対応するためにと思って作ったマニュアルが逆に足枷となっています」
「しかもあの黒いローブを着た男は国王直結特級調査員なんですよ、うちの兵士に身分証を見せて中に入っていきましたんであんまり手荒なことをして後で問題になったらたまらんと誰も手を出したがらないんです」
「国王直結特級調査員………」
「あのドラゴンも元はそうだったですよ、それなのに今じゃすっかりあんなバケモンになっちまって、火は吹くし走り回るし吼えるしで、何ならあいつが一番街を壊してますよ」
「あのドラゴンには見覚えがあります」
溜息をつきながら額を中指でトントン叩く。
「えっ!?本当ですか?知り合い!?いや、今はそれを聞くべき時じゃないですね。それなら早いとこ何とかしてもらえませんか、俺たちは住人を非難させるのと火を消すのだけで精一杯です。このままじゃ街が全部瓦礫の山になっちまいますよ!」
「さすがにそこまで馬鹿ではないと思いますが緊急事態です、必ず私がなんとかしましょう。ケビンさんは引き続き兵士の指揮と街の住人を落ち着かせて現場から離れるように誘導してください。野次馬根性で楽しんでいる輩の声も聞こえます、あいつらには多少手荒に対応しても構いません」
「あ、ありがとうございます」
「離れてください、私のスキルを発動させます」
「おお、あれが近くで見れるんですね」
子供のような顔をしながら見つめるケビンに構うことなく歩き出したケヤキを中心として2m程の竜巻が巻き起こり魔力が発動するとき独特のにおいが辺りに立ち込める。これは魔力消費量が高ければ高いほど濃くなるのでケヤキがかなりの使い手だということは分かるものにははっきりとわかる。
「うわー」
「きれー」
空から花びら。
化け物の戦闘を遠巻きに眺めている住人たちから歓声が上がる。
赤青緑黄色、大きさも桜の花びらから薔薇の花びら位まで様々、それらは世にもかぐわしい香りと共に舞い降りてきて、不安な面持ちで化物の戦いを、街が壊れていく様子を見る人々の心を癒していく。
植物に特化した力を持っているのがケヤキ。
「全くあの馬鹿者は何をしている………内密で視察に来るとは聞いていたが自分の国を自分で壊していれば世話は無い」
ドラゴンの甲高い鳴き声が街全体を震わせるように響く。
「楽しくなりすぎて周りが見えなくなっているな、あいつの悪い癖だ。いつまでも子供みたいなことをしていないで一刻も早く王らしくなって国を安定させてもらわないと困るというのに………」
溜息をつきながら町を破壊しまくるドラゴンであり友人であるライジング国国王の元へと向かった。




