15話
僕は死んだ。
きっかけは白いローブを着た男の人がいきなり部屋の中に入ってきたことだった。その人は部屋を見回して月聖花を見た後で僕の顔を見てそしてまた月聖花を見て、そして少し考えた後で月聖花を奪おうとした。
もちろん僕は抵抗した。これは妹のエンカの病気を治すためにリョウゼンフガクの頂上まで行って採ってきたものだ、どんなことがあっても他の人には渡せない。そう言ってもその人は僕の言葉なんか一切聞かなかった。
そうすると僕たちが言い争う声を聞いたようで兵士の人たちが戻ってきた。もしかしたら月聖花をその人に渡せと言われるかもしれないと恐ろしかったのだけれどそんなことは無くて安心したのだけれど、兵士とその人が言い争いを始めたのは困った。その間にいる僕はいったいどうすればいいのか分からかなったからだ。
そしてあろうことかその人は倫理さんが肘をついて考えこんでいる机をたたいた。
まさかの行動に衝撃が走った。
倫理さんは自分が他の世界から来たことを公表するかどうかを考えこんでいた。僕はそれを邪魔するべきでないことは短い付き合いの中で分かっていた。倫理さんと言う人はかなり自分のペースを大切にする人であまり他の人に合わせたりはしない。
意外だったのは兵士の人の顔色も一瞬にして変わったこと。倫理さんの行動を邪魔することがいかによくない事なのか僕と同じくらいの速さで理解していることに気が付いた。さらにその行動は僕よりも早かった。すぐに音をたてないように後ずさりしてその場から離れるという行動を起こしていた。
それに比べて僕は迷ってしまった。同じようにその場から離れるべきなのか、それとも倫理さんを止めるべきなのか、白い服のあやしい人を止めるべきなのか、すぐには判断できずに固まってしまった。
視界が白い光に包まれた。それは食人アフライを葬ったあの光だとすぐに気が付いた。
僕は死んだ、そう思った。
けれど訪れたのは幸福感。
疲れも不安も怒りも体も高い高い空へ向かって吸い上げられていく様だった。目の前には白しかなくて幸せで、そのまま消えてなくなってしまいと少しだけ思ったけどそれは駄目なんだとすぐに思い直した。僕には妹がいる、可愛くて優しくて僕が守ってあげなくちゃいけない大切な妹エンカがいる。
そう思った瞬間に足の裏に重さが戻ってきて、自分がいま街の入り口の兵舎にいるのだということを思い出した。
「うわぁ………」
もう跡形もなくなってしまった兵舎。
今まで何度も見てきたはずなのに、こんな瓦礫の山になってしまった今ではどんな建物だったのか思い出せない。倫理さんが放ったあの白い光はやっぱりかなりの威力がある魔法。それの間違いなさがはっきり分かる。それなのに僕自身は全くなんの外傷も無くて、すっきりとしたからだと幸せの余韻だけが残っていた。
空を見上げ何かを考えている倫理さんがいた。
どこにいても非常に目立つ人だ。背が高くて首から下が赤い色の肌をしているというだけでなく、普通の人にはない威圧感を感じる。そんな人ががれきの中に立っているわけだからすぐに目が付いたのだけど、声を掛けるのは待った方がいいと僕はすぐに気が付いた。
倫理さんはと言う人は自分が考えている間は邪魔されるのを嫌うと思ったからだ。斜め上にある空を眺めながら、時々小さく口が動いているから独り言を言っているのだと思う。本当は生きて立っていることの喜びを伝えたかったので、それは残念だけれど自分としてはいい判断だと思っている。
ザッザッザッという土を蹴り上げる音がしてそちらを見ると、黒いローブを着たいかにも魔術師と言う感じのとこの人が二人瓦礫の上を跳ねるようにして近づいてきて止まった。
「貴様何をしている?」
ああ、多分この人は貴族様に違いないと話し方を聞いて思った。
「オイ!」
相変わらず空を見上げたままの倫理さんが何も答えないことに対して、小柄だけども目つきの鋭い人が吼えるように言った。
ああ、多分また揉めるだろうな。
僕はそう思った。




