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番外編~ユリウス・マルカティス~

今年最後の投稿です。

結構、雰囲気が重くなりました。


「おとうさま!」


鈴が鳴る様な愛らしい声がする。

私は、書類を書くのを止め書斎の扉を開けた。

そこには、私の可愛い娘が居た。しかし驚いたことに綺麗に整えられていた艶のある黒髪は所々解れていた。よく見ると服は土で少し汚れている。


「どうしたんだい?プリシア」


何かあったのかと心配になる。どうやら怪我はしてないみたいだが。

するとプリシアは、にっこりと花が咲くような笑み浮かべて後ろ手に持っていたらしい小さな白い花を精一杯掲げた。


「あのね、とってもかわいいおはなをみつけたの!」


確かに、その小さな花は大輪の美しい薔薇等とは違い儚げな美しさを持つ花だった。


「おお、良かったじゃないか」

「うん!」


誉めてあげると嬉しそうにするプリシアに頬が緩む。

だがプリシアは、嬉しそうな表情をしたあと少し寂しそうな表情を浮かべた。


「ねぇ、おとうさま」

「ん?」

「...おかあさまは、まだげんきにならないの?」

「...ああ」

「おかあさまげんきになる?」

「ああ絶対に元気になるよ」

「ほんと?」

「本当だとも」

「じゃあ、このおはなをおかあさまにあげてもいい?」

「良いよ、でもその前に着替えておいで」

「うん!」


そう言ってプリシアは、近くにいたメイドに連れて行かれた。遠ざかって行く小さな背中は、少し寂しげだった。




~日記~


妻のコーデリアが体調を崩し始めたのはいつだったか。

もう数ヶ月も前だったと思う。結婚する前は稀に体調を崩す位だったのに。今はもう一日の殆どをベッドの上で過ごすようになってしまった。医者に見せても原因は、わからないばかり。日に日にやつれていくコーデリアを見ていると胸が苦しくなる。何か私にも出来る事は無いだろうか。


嗚呼、プリシアも余り元気が無い。もうすぐ三歳の誕生日なのに。






「コーデリア入るぞ」

「...はい、どうぞ」


少しの間が空きコーデリアの声がした。

部屋に入るとコーデリアはベッドから身体を起こしていた。


「横になってなくていいのか?」


この間は、起きるのも辛そうにしていたから気になった。

余り無理をさせたくない。


「ええ、今日は体調が良いので」

「そうか」


そう言って微笑む彼女は儚げ雰囲気を纏っていた。

体調を崩す前はいきいきと生気に溢れた女性だったのに。

私の黒髪とは違う柔らかな若草色の髪は、艶を無くし肌は潤いを無くしていた。


「そういえばユリウス様」

「なんだ?」

「昨日、プリシアが見舞いに来てくれました。その時にプリシアが可愛い花をくれたんですよ」

「そうか」

「はい」


コーデリアは嬉しげに笑みをこぼした。

その笑みはプリシアによく似ていた。

...いや、プリシアがコーデリアに似ているのだ。


「ねぇ、ユリウス様」

「どうした?」

「一つだけお願いがあります。...良いですか?」

「いいぞ」


コーデリアの願いとあれば出来る限り叶えたい。


「...プリシアをお願いします」


「な、何を言って」

「私がいなくなったら、どうかプリシアをお願いします」


コーデリア笑ってそう言った。

どうしてそんな事を言うんだ。まるでいなくなる事を分かっているみたいに。まだ、治る可能性があるはずなのに、どうして_


どうしてそんな諦めた顔で微笑っているんだ。


「...どうかこれだけを約束してください」


彼女の願いに私はただ頷く事しか出来なかった。


その数日後、コーデリアが息を引き取った。




~日記~


コーデリアが息を引き取って数日が経った。

...本当はわかっていた。もうコーデリアが長くない事を。

コーデリアもわかっていたのだ。だから、あんな事を言ったのだろう。


私は、彼女との最後の約束を守りたい。たとえそれが私のエゴだとしても。私は私達の宝を守ろう。それが彼女の願いだから。




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