感染(案の定)
「や、やあ。スズキくくん。お、おはよう」
翌日実験の手伝いをしに外へ行くと、そこには青白い顔をしたオー君がいた。
あ、これゾンフルだ。
もう完全に、一瞬で分かった。
動きがぎこちないし、うまくしゃべれてない。
間違いなくゾンフルだ。ゾンビ化してる。あんなにフラグ立てたから……。
「オー君、いや、その。体調悪かったら休んだ方がいいと思うんですけど」
「い、いや、何も体におかしいとこ、ないよ」
「おかしいところしかないんですけど……」
オー君はぷるぷる震えているし、何もしていないのにはぁはぁと荒い息を吐いている。
おかしくないところが見当たらない。
「教会に行ってきたらどうですか。解呪の魔法かけて貰えばゾンフルもちょっとは良くなるって聞きましたよ」
見てられなくなった俺がそう言うと、オー君は震える声で答えた。
「かかって、ない」
「え?」
思わず聞き返してしまう。
えっと、何言ってんのこの人。
「教会に行って、の、呪いがかかってるって言われなければ、ゾンフルじゃないから……」
「お、オー君……」
そんな社畜の鏡みたいなことを言うオー君に、俺は涙を禁じ得なかった。
病院に行って診断されなければ病気じゃないなんて、そんなのネットでよく見るブラック企業ジョークかと思ってた。まさか実際にいるとは……。
しかし現実問題どう見てもオー君はゾンフルにかかっている。このままじゃパンデミックもありうる。
ここはちょっと強引にでも教会に連れて行こうと俺が思ったところで、オー君の体が揺らいだ。
「す、スズキ君。オデ、ちょ、ちょっと休むから。や、休むだけだから。ぞ、ゾンフルじゃないけど、ちょっと疲れちゃっただけだから……」
そう言ってバタリと倒れた。
「ちょ、大丈夫ですか!」
もう教会まで連れて行くしかない。
そう思ったところで社長が通りかかった。社長はオー君を見て一言。
「あら、オー君また倒れたの?」
「しゃ、しゃちょう……」
「もう、仕方ないわね」
そう言って社長はバッグから赤い液体の入った小瓶を取り出した。
「これポーションだから飲みなさい」
「しゃ、社長! ちょ、ちょっとそれはまずいと思うんですけど」
「えっ? なんでよ」
うつぶせに倒れているのでオー君の青白い顔が見えないのか、いつものように疲労で倒れているだけだと勘違いをしているのだろう。
俺はオー君がゾンフルにかかっていることを伝えようとすると、その言葉を遮るようにオー君が言葉を発する。
「はい! いた、いただきます!」
そう言ってオー君は横に置かれたポーションの小瓶をうつぶせのまま飲み干す。
ええええ!? 何やってんのこのオーク!
途端に「ごほお!」という咳き込むような声。
なんかもう完全にダメージを受けてるんですけど。
「あっ。そろそろ行かなきゃ。それじゃあオー君、元気になったらジェットスライムの外装作製やっといてね」
そう言って社長は足早に去って行く。
社長が去って行くとオー君は仰向けになる。
もう完全に死んだ魚のような目をしている。
「な、何でポーション飲んでるんですか……?」
「ぽ、ポーション飲まないと、しゃ、社長にゾンフルがバレちゃうから……」
「バレるとかそういう問題ですか!」
「しゃ、社長にバレたら今日の仕事終わらないから……。ま、まだ仕事いっぱいあるから……」
「いやいや、仕事とか言ってる場合じゃないですよ!」
どう見ても仕事とか出来る体調ではない。そんなことよりも早く解呪してもらった方がいいに決まってる。
と、そんなことを想っているとオー君はぽつりと呟く。
「そ、それに。お、オデがいないとスズキ君がその仕事やることになるから……。だから……」
「オー君……。アンタって人は……!」
泣いた。
ゾンビ化しても後輩のことを考えるなんて、なんて素晴らしい先輩なんだ。
何という男気。惚れた。
「オー君。いえ、オー君さん。その心意気、しかと受け取りました。俺、例えオー君さんが死んだとしても絶対にその勇姿は忘れませんから!」
「そ、その意気だよスズキ君。オデが死んだら、ほ、骨は実験室の裏に埋めてくれないか……。あ、あそこからなら出社しやすいから……」
「ええ、任せて下さい……。俺、やり遂げてみせます!」
「あ、ありがとうスズキ君。それでこそオデの後輩だ……」
「オー君。俺、あなたのことは絶対に忘れません!」
俺達は生きていくのだ。
そして人が生きるということは、誰かの犠牲の上に成り立っているのかもしれない。
人という字は支え合っているようで片方の人が片方の人に寄りかかってる的なね。
そういったことは生きていく上でなんかその、たぶん凄く大事なこと的な感じなのだ。
きっとオー君は最後になんかそんな感じのアレを俺達に教えてくれたのだ。
たぶんそうなのだ。
ありがとうオー君。オー君の頑張りは俺が語り継いでいくよ……。
「二人とも何ばかなこと言ってるんですか」
ふと振り返るとマスクをしたアスカリさんが立っていた。
「オー君が死んだ方がよっぽど困るじゃないですか。そうしたら結局スズキ君が仕事やることになるんですからね」
「あ、確かにそうですね。……オー君、死ぬとか軽々しく言わないでください! 残れた人たちのことを考えてくださいよ!」
「ええ……。だ、だってスズキ君さっき……」
「俺はオー君が一日も早く元気になることを最初から願っていました」
「て、手の平返すの早すぎない?」
そんなオー君の言葉を聞かない振りをする。
人間、時には気付かない振りをすることも大事なんだと思う。
「もう……。そんな会話してる暇があったらスズキ君は早くワイバーン呼んできて下さい。オー君を早く教会に連れて行ってあげましょう」
「そうですね! 任せて下さい!」
「えええ。ちょっと……」
「オー君はそこで安静にしていて下さい! 俺は……俺達は絶対にオー君を死なせませんからね! 絶対に救ってみせます! うおおおおお!」
「ちょ、ちょっとスズキく……。えー」
オー君は結局その後普通に教会に連れて行かれた。
神父さんの診断の結果、なんとオー君はゾンフルだったらしい。
まぁ知ってたよね。
かくしてゾンフルのパンデミックは防がれ、会社に平穏が戻ったのだった。
めでたしめでたし(代償としてオー君の有給は消滅した)。




