酔っ払いとホウレンソウ
「そんな感じで社長、めちゃくちゃ怖いんですよ! もうふざけんなって感じですよ!」
「がはははは! 少年、私それ知ってるぞ! ブラック企業ってやつだ! あーっはっは!」
「ちょっと、笑い事じゃないですよ! もうこっちは毎日が地獄なんですからね!」
夜も更けると俺とマキナさんはすっかり出来上がっていた。
俺はもう会社の愚痴を言いまくるし、マキナさんは何を言われてもケラケラ笑っていた。
マキナさんの顔色は全く変わらないけど、テンションだけはどんどん上がっている。
そんなマキナさんにつられ、俺のテンションも上がっていった。
「あの社長、絶対社員の仕事量把握し切れてないんですよ。そんでキャパオーバーな社員に仕事振りまくってさぁ。社員のことをもっと思いやって欲しいんですよ」
「少年、ほら見て! このお酒真っ青! あはは! 面白い!」
「この色スライムっぽい! 嫌だ! 仕事思い出すからマキナさん全部飲んで!」
「はいはーい。わ、これ美味しいぞ少年! これ飲め飲め!」
「マジすか! マスター、このお酒俺にも一つ!」
「承知いたしました」
はしゃぎ疲れたのか、マキナさんはふぅと一息ついてお酒を飲んでいた。
俺もしゃべるのを止め、スライム色のお酒を飲むが、正直もう味が全く分からない。
正直視界がぐるぐるしているし、なんか気分がいい。これがお酒の力……。
「辛い辛い言いながらも、少年はそんな中一ヶ月頑張ったんだから私は偉いと思うぞ」
俺がちびちび酒を飲んでいると、マキナさんはぽつりとそう言った。
「そうなんでしょうか……。今のところ仕事覚えることで精一杯で役に立ってるって実感ないんですよね。こんなんで本当に大丈夫なんでしょうか」
「なぁに、最初はそんなもんさ。私だって、今でこそ何とかやれているが、仕事のやり始めは四苦八苦していたんだぞ」
「マキナさんもそうだったんですね」
「そうだよ。私も父上が急にいなくなっちゃったからお仕事継いだけど、最初なんてもう、あわわーって感じだったよ! あはは! あわわーだって! あわわー」
マキナさんは自分の言葉にツボったのか「あわわー!」と言いながらケラケラ笑っている。もう言動が完全に酔っ払いのそれだ。
というかマキナさんの経緯、社長にちょっと似てるな。異世界ってこんな父親ばっかりなのか。
でもまぁ、こうやって右も左も分からない状態ってみんな経験することなのかもな。マキナさんだってそう言ってるしね。
自分だけじゃないと思うと少しだけ気が楽になった。
そんなことを思いながら俺が酒を飲んでいると、
「もしかしたら少年はちょっと遠慮しすぎてるのかもしれないな。慣れない環境だから仕方ないかもしれないが、それでも思っていることはある程度言葉にした方がいい」
マキナさんも酒を飲みながらそんなことを言った。
「……言われてみれば確かに」
ここ最近俺は社長の威圧感に負けて言いたいことも言えないでいた気がする。
学校では特に空気を読むことなんてしていなかったんだけど、それでも異世界+いきなり社長の頭を撫でてしまうという失態で、無意識のうちに萎縮していたのかもしれない。
「ほら、仕事の基本に『ホウレンソウ』ってのがあるだろ?」
「ほうれんそう? 野菜ですか?」
何だっけそれ。確か前に学校の先輩がそんなこと言っていたような……。
「違う違う。ホウレンソウは『報告・連絡・相談』の略だ。話を聞いていると、少年はその中でも特に『相談』ができていないように感じる」
「うっ、確かに……」
というかこの会社で仕事の相談できそうな人があんまりいないんだよなぁ。
サターンさんは俺が相談したところでほぼ会話をしてくれないし、オー君は忙しすぎて話しかけるどころじゃない。社長に至っては言わずもがな。
となるとアスカリさんかなぁ。
あの人を前にするとなんかこう、正気を保てなくなりそうなんだよな。何なんだろうあれは……。
「うーん、できるかな。まぁやるしかないか」
「おっ、いい根性だ少年よ!」
「ようし、この調子で今度社長にあったら文句言いまくってやる!」
「ふふ。いいぞいいぞ。きっと少年ならやれるさ。私が保証する」
「今日会ったばっかりの人に保証されてもなぁ」
「あはは! そりゃそうか! 冷静だな! ダメだぞ。ほら、もっと飲め飲め!」
「わわ!」
マキナさんに酒をがぶがぶ飲まされ、いよいよ意識が遠くなってきた。
視界が揺らぎ、世界が回る。
「今日は本当に楽しかったよ。また飲もうな、少年」
朦朧とする意識の中、マキナさんのその言葉だけがやけに記憶に残っていた。




