↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/15

第4話

ミロスラフは宿屋の亭主である。

かつては冒険者として名を上げたが、ひとりめの妻と出会い、彼女との結婚を認めてもらうため、安定した職を求め、その栄誉はとっくの昔に手放した。

結局、無学な自分には王都の端に飲食店を開くくらいしか頭が働かず、……そこで、ふたりめの妻と出会った。

紆余曲折あって、今では三人で、宿屋兼酒場となった【栄光の花束】亭を切り盛りしている。

評判は上場で、王都で発行されている冒険者向けの情報誌や、ギルドの案内所でも、安く清潔な宿で、夜には美味い酒と料理が楽しめるとのお墨付きだ。

ふたりの妻は、それぞれが給仕長と経営を担ってくれていて、従業員も信頼のおける者を数名だけ雇い、自分がおらずともやりくりは上手く回っている。己は気ままに料理をしたり、軽口を叩いて接客をしたり、好きにさせてもらっていて、頭が上がらない。

しかしそう言えば、あなたの人柄ですよと、皆が口を揃える、有難い限りだ。


「めずらしい、このあたりの人間じゃあないなぁ」

言葉を交わして、独特の訛りを感じた。

北の方かと呟くと、驚いたように、そうだと返された。

そんなには目立たないが、このあたりには同じように、北の田舎から来た有名人がいる。彼と似た発音のような気がしたので、なんとなくだと笑っておく。

ミロスラフには、その人物が中年くらいの年齢に見えた。自分よりすこしくらい、下だ。

白髪が混じり出した黒髪に、青い瞳、……北方の出にしては容姿が特徴的だと思った。あの青年は、わかりやすく金髪に緑の瞳をしていて、よく日に焼けてもいた。

中年のその男の肌は、ひどく白かった。

労働を嫌ったかつての、古い慣習を抱え込む貴族どものようなそれは、ミロスラフにはすこし印象が悪かったが、話してみるとやけに人好きのする性質らしい、よくよく盛り上がってしまい、気づけば酒と晩飯を奢っていた。

楽しんでくれと声をかけ立ち去ると、男は笑って手を振り返した。


……夜更けになっても店がやけに騒がしいと思ったら、あの男が絡まれていた。

少々、面倒くさい連中だ。またかと、ため息を混じり声をかけようとして、先に男に助け舟を出した者がいた。

トビアス、トビアス・アッカーバーグ。

……【神に愛された者(アマトゥス・ディオ)】のトビアスなんてご大層に呼ばれている、北からやって来た青年。

めずらしいこともあると、彼はあの手の輩も、誰かに自ら声をかけるのもうっすら嫌っているはずだから、……あれよあれよと、気づけばふたりはまるで旧知の仲のように酒盛りに興じ、挙句に手合わせの約束までした。

トビアスが頭を下げるところなど、自分は、はじめて見た。

悪いやつでは、決して、ない。だが彼はかなりクセがあった、生意気で、ごく自然に己をひとつ上に置くところを感じつつ、でもそこが愛嬌というか、美点でもあると素直に思える青年だ。

そんな言動をとるなど驚きだった。

「明日は雨かねぇ」

そう思って、その日は、流石に店じまいの準備をすることにした。

そういえば、あの男の名前を記帳してもらうのを忘れていた、……明日にでも頼まなければと、思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。