第3話
なにもない、ごく平和な時間だ。
ひとによっては、半ばの食事を食べたり食べなかったりする、だからこの時間はだいたい皆、仕事休みに入る。
今日は朝から小忙しくて、めずらしく腹が空いていた。
窓の外を見る。大通りには、労働者たち御用達の、安くて手軽で腹に溜まって味もそこそこのあたたかい料理を出す屋台が軒を連ねている。
そこに行こうか、軽食でもつまもうかと、考えていた。
「先生、トビアスがっ!!」
大声でその素晴らしい計画がぶっ壊され、即座に苛立ちまかせに怒鳴った。
「デカい声で入ってくんな!いつものことだろ!!」
呆れてそう言う。
トビアスとは、このあたりでは有名な青年だ。
顔も性格もよくて剣の腕もたつ、女にチヤホヤされてて、いつも取り巻きに囲まれている、天からなんでも与えられた若者。
生意気だが、まあ、そこにも愛嬌があって、可愛いと言うと気持ち悪いが、確かに目をかけてやりたくなる男なのだ。
彼はよく喧嘩をふっかけられたり、一戦を申し込まれたりして、相手を叩きのめしてはここに送り込んでくる。……またかと、思った。
「ぶっ飛ばされた!!……負けた、……おっさんに」
真っ白な顔を見ても、その言葉を聞いても、最初は意味がよくわからなかった。
運ばれてきた姿を見て驚いた。
完全にのびている。
証言をもとに軽く診察する、腹に一撃くらったならば一大事だと思われた、……でもすぐに、それは杞憂に終わった。
相手が手加減したのだということが理解できたからだ。
念の為、周囲の骨、鎖骨や腰骨、肋骨やらを診る、折れるどころかヒビも入っていないようだった、とりあえずは胸を撫で下ろす。
吹っ飛ばすくらいの力をぶつけられたにしては、打撲を受けたあたり、そこを触ったときのこわばりや、気絶しているとはいえ痛みの反応がなさ過ぎる気がした、強めに圧迫を加えてもほとんど無反応だ。顔色や脈拍も特筆して危機的ではなく、嘔吐や血を吐いたあともない。……楽観視は駄目だが、おそらく内臓にもたいしたダメージはいっていないと、経験から直感した。
完全に手加減されている、……男を、大柄とは言えないまでも体格のいい若者を、しかも腕におぼえのある剣士、それを、ほどほどの力だけで吹っ飛ばして、のした。
「なにがあったんだよ、トビアス」
無数のかすり傷と衣服の汚れ、……診療所をずっとやってきて、ここまできれいな状態の患者は数えるほどしか見たことがなかった。




